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四代将軍とも  作者: 山田靖
ーあとがきー
77/83

10.

「源とも物語」が、琵琶法師・顕弁けんべんによって謡われたのは、それからまもなくのことである。


「源とも物語」は源朝子の伝記ではない。物語と事実は一致していない。故人や架空の人物、物の怪・怨霊も登場。辻褄の合わない記述、不自然な欠落、唐突な展開も見られる。粗筋は「平家物語」を模倣、伝承や説話も参照している。例えば、清盛や静御前しずかごぜんの逸話を換骨奪胎、都合よく取り入れている。「源とも」は徹底的に脚色美化され正義!方や対立する北條は不義!と必要以上に貶められた。この為、幕府によって即座に禁演。顕弁は罰せられた。しかし、この「源氏が善、平氏は悪」の印象操作による刷り込みは、現在に至るまで多大な影響を及ぼすことになる。

「源とも物語」は抹殺されたが、写本等で伝えられ後年、多くの異本が創作された。その中には、源ともが乱後も生き延びていたとする物語もある。また時代が下がると、唐天竺はおろか「竜宮」「月世界」「地獄極楽」及び過去未来など異世界・異次元で活躍といった荒唐無稽な内容になっていく。

 現存する「物語」の、どこまでが源朝子作であるかは判っていない。



 源朝子は自身を九郎判官義経くろうほうがんよしつねになぞらえていた。そのため源朝子と源義経の逸話は、しばしば重複している。それ故の誤認は、朝子在世当時からもあった。年月と共に両者はますます混同され、区別がつかなくなってゆく。また、故意にそうさせる勢力もあった。やがて伝説は義経のものに統一されていく。源朝子の名は意図的に消された。


 源朝子は歴史の闇に埋もれた。



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