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源源朝子は虚言をもって院に取り入り、朝廷を混乱に陥れた魔女である。事実無根の妄言を流し幕府との関係悪化を謀った。此度の乱の元凶、ひとえに魔女に他ならない。陰謀に加担した藤原梓子は妖女である。いよいよ悪事露見とあいなったとき、卑怯未練にも源朝子は見苦しく罪を逃れようとしたが、遂に追い詰められ藤原梓子と刺し違えて死んだ。凶行に及んだ刀は勿体無くも菊の御紋を許された一文字則宗であった。蕩らし込まれた北面の武士・藤原秀康によって死体は隠され、翌日「四代将軍、病没」と発表・・・
幕府は執拗に「源朝子こそが乱を引き起こした張本人である」と喧伝。そして、「源朝子は死んだ」と連呼した。しかし幕府が騒げば騒ぐ程、ひとびとは、朝子の生存を信じた。密かに脱出し捲土重来を期す、とまことしやかに囁かれた。依然、源朝子は、皆の憧れであり希望であった。そしてそれは時と共に膨張していく。むしろ、失踪後の方が影響力は甚大。源朝子はかつての”民衆の偶像”から、やがて”反権力の象徴”と、変貌していった。




