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四代将軍とも  作者: 山田靖
春香のはなし
61/83

七、

 玉は夢を視る。


 大抵は暗くジメジメとした穴の中に大勢がひしめき合っているのだ。蒸し暑くて眠れない。玉は無数の虫に刺される。痛くて痒くて飛び上がる。宙を舞ったまま玉は泳ぐように脱出。外は荒涼とした枯野。砂嵐で口の中がジャリジャリする。そうだ、ここは玉の生まれた場所だ。その証拠に、勘介も笙もいる。瑞光にコウケツと英次がいる。葉月までいる。知らないのも何人かいる。ひょっとしたら、あれが玉の両親かもしれない。玉は饒舌であった。藤勢に宙返りを熱心に教えた。藤勢は上手くできない。できないので山に捨てにいくことにした。玉は泣いた。走って逃げた。そしたら足元がストーンと抜けて、玉は真っ逆さまに落ちていった。「うわぁああああ」

 玉は自分の声で目を覚ました。真っ暗だ。皆が窮屈に寝ている。男共の鼾、歯軋りがやかましい。大声で寝言もある。いつもの風景だ。玉は自分の叫び声が覚られなかったことに安堵した。疲れている皆を寝惚けて起こしたらエライ事になる。玉は夢の中で叫ぶことすら憚られるのだ。


 夢の中で、玉はよく死ぬ。そして必ず地獄へ堕ちた。悪いことをしたからだと云う。玉は地獄の閻魔に喰ってかかった。閻魔は瑞光だった。「悪いのは葉月じゃないか!」振り向くと、葉月とかげろうが黒い影に覆われている。近づいたら影ではなく、無数の小さなネズミに齧られているのだ。此奴め等は罪深いので来世は人間にはなれぬ。畜生に堕ちるのだ。何がいい?瑞光が訊くので、玉は即座に馬!と答えた。存分に乗り回してこき使ってやるのだ。地獄と云っても現世そっくりに創ってある。用心しないと見分けがつかない。亡者も生きているふりをしているので油断がならない。誰もいない。ははぁ、ここは悪魔の巣だ。玉は村を焼き払った。帰りは飛んでいこう。玉は空を飛ぶのが上手い。鳥のように羽ばたくのでなく両腕を広げてすぅーっと、風に乗るのだ。もう少し、あとちょっとで欲しいものに手が届く。だけど捕まえられない。空振りして目が覚める。


 玉は独りで部屋の隅にうずくまっていた。もう長いこと正座し一点を見据えていた。三日三晩、不眠不休。玉は一言も喋らない。すうっと襖が開いた。美しい女のひとが入ってきたのだ。見たこともないが、懐かしいひとだった。綺麗・・・マナセが言っていたお姫様だと思った。玉はニッコリ笑って「待ってた」と初めて口を開いた。お姫様は寂しそうに微笑むと、懐から短刀を抜きゆっくりと振りかざす。嗚呼、やっぱり約束通り!玉を殺しに来てくれたんだね。嬉しいな。有難い。痛くないよ、痛くない。ホントだよ。玉はお姫様と血まみれで抱き合い笑いながら、お互いに刃を突き立てた。

 起きてから、玉は静かに泣いていた。悲しいからじゃない。幸せな涙が止まらないんだ。彼女は何処の誰だろう?もう一度逢いたいな。しかし玉の願いも空しく、お姫様はそれきり夢に現れることはなかった。


 真夜中に玉は目が明くことがあった。決して目覚めてはいない。すると上から物凄い勢いでドスンと石臼が玉の腹に落ちてくる。ぐえっと玉は口から蛇を吐いた。体が動かない。早く退かさないと死んじゃう。玉はもがく。石臼の重みでズルズルと地下へ沈んでいく。その先は地獄だ。石臼を跳ね除けて、玉は目を覚ました。汗びっしょりだ。

 また、ある時は上に鬼女が乗りかかってきた。頭と下半身が無いが、あの見世物小屋の鬼女だと判った。何故なら瞳が碧いのだ。鬼女は、玉の首を絞める。苦しい、止めて、死んじゃう!死んじゃう!体が動かなくなる。苦しい。そのうち、右の指が動かせれば縛めが解けると気づいた。そのためには・・・玉は自分の右手を思いっきり噛んだ。バリバリバリと一気に肘のあたりまで食べてしまった。


 夢の中で、玉は常に闘っていた。魑魅魍魎、物の怪、鬼、悪魔・・・玉には、これが夢だと判っていた。昼間、辛いことばかりなのに。せめて夢くらいは楽しく過ごしたいのに。


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