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四代将軍とも  作者: 山田靖
六波羅奇譚
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時子

 田楽一座で、男装して舞っていた長身の女芸人・玉は確かに存在していた。その玉が「四代将軍源朝子」となった。それも間違いないだろう。しかし、どうやって?まるで繋がらない。僅かな手掛かりは演目の「牛若丸」のみ。

 勘介一座は雲散霧消。西国を精力的に興行してまわっていたと云うが、断片的な情報しかない。足取りが掴めないのだ。一座の動向ばかりでなく、所属していた座員は全くといっていい程、消息不明。一座が解散し路頭に迷った連中は、今何処で何をしているのだろう?物語を創っていた男や、踊りや所作を教えていたという女は何者だったのだろう?

 京都守護が、かろうじて発見したのは、勘介夫妻に英次と葉月である。英次は、玉だと認めた。だが、座頭の妻でもあり一座を束ねていた笙はキッパリと否定している。葉月もまた、首を縦に振らない。これはどういうことだ?笙や葉月は嘘を吐いているのか?誰かを・・・玉を庇っているのか?しかし、庇う理由が見当たらない。嘘をついてまで庇っても、殴られるだけで何の得にもならないではないか。


 そうこうしているうちに、英次の様子がおかしくなってきた。笙と葉月が否定したという噂が耳に入ったのだろう。いきなり「あれは玉じゃないかもしれない」などと呟くのだ。かと思えば「玉は“牛若丸”演ってたからな。化けるのはお手の物だよ」などとうそぶく。この頃では、めっきり口数が減り、問いかけてもしばらくぼんやりしている。


 ある晩、英次が突如大声を上げた。「何事か!」番士が駆けつけると、英次は焦点の定まらぬ眼で手招きをしている。

「そなたに良いことを教えてやろう。四代将軍だがな、そう源朝子には、頼朝の・・・どころか源氏の血は一滴も入っておらん」

「?!」

 思いがけない言葉に番士は緊張。慌てて同役を呼ぼうとするのを、英次は声を荒げて遮り、

「源朝子はな、実は北條政子と義時の姉弟相姦不義不倫密通の呪われた子なのだ・・・実の名を北條時子ほうじょうときこ!男子が欲しかった政子は、時子を家人の子とすり替えた。それが実朝さ。己の出生の秘密を知って絶望した時子は、将軍に就いた実朝を殺した。そして源朝子となった」

 番士は唖然とする。何を言っているのだ?此奴は・・・

「玉は鬼女だ。本物の源朝子は、玉に食い殺された。そうして入れ替わったんだ」

 もう、やめろ!やめてくれ!番士が怒鳴ったが、英次はますます乗ってきた。

「玉は、みんな食っちまう。親方も食われた。おかみと葉月も食われた。食われたから、玉じゃないって言ってるんだろ?俺も食われるんだよぉ。俺は“薩摩守忠度さつまのかみただのり”だったんだよ。“一の谷”で玉の頭を木刀で撲ったんだ。いいやっ断じてワザとじゃない、ワザとじゃないんだ。足が滑ったんだ、滑ったんだよぉ。ホントだよ、信じてくれよぉ。それなのに玉は根に持って、俺に仕返しに来るんだ。俺を殺して食うつもりなんだ。助けて、助けてくれぇ!」

 英次は泣き出した。滂沱の涙を拭おうともせず、大声で喚いた。かと思えば「玉に絵を教えてやったが下手でな。玉は大体、頭をデカく描きすぎるんだよ。だから、釣合いが悪くなるんだ。ウサギ描かせても、カエルにしか見えん」とゲラゲラ笑いだすのだ。


 英次は錯乱し奇声を発し壁に頭をぶつけたりして、明け方まで暴れまわった。この日を境に、彼の魂は肉体から遊離していく。からっぽの世界を自由自在に駆け巡った。空だって飛べる!そうして、英次は旅立っていった。


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