十五、四代将軍源とも、君ヲ抱キシメタイ!
四代将軍源とも、突然の剃髪に都はビックリ仰天!
とりあえず、惚れたハレタの修羅場は収束。布智王も瘧でも落ちたよう。サッパリと宇治へお戻りになった。そして、あれほど群がった男共が一気に引いた。出家を強調した策が奏功だが、やはり丸坊主が効いたのだろう。
ともかく、ともは頭がスッキリとした。何かこう、軽くなったのだ。良い知恵が湧いてくるような気がした。嗚呼、髪の毛とはかくも重いものだったのか。こんなもの、不要だった。引っ張られると痛いし。櫛も油もいらない。何だ、いいことばかりじゃないか!うん、気に入った!これからもこれでいこう。
参内も僧形。水干より法衣のほうが断然楽なのである。往還の都大路、煌びやかな行列に一際異彩を放つ法師姿!ともの瑞々しい坊主頭は存分に都人の目を眩ました。沿道は以前にも増して黒山の人だかり。青光りする神々しいまでの美しさに手を合わせる者、続出!
御所でもこの話で持ち切り。ともが入っていくと、公家共はどう対処していいか判らずモジモジしてる。とも、お構いなしで御前へとまかり通る。
お小さい帝は御簾から降りてきて、「大丈夫?」と心配そうに尋ねられた。
「頭に毛が無いのは、法印様や北嶺南都の坊主共と同じではないですか」
「でも、とものはツルツルで綺麗だよ」
帝がおっしゃったので、一同なごやかな笑いに包まれた。
「触ってもよいか?」
帝が顔を赤らめたので、ともは一寸困ったが「少しだけですぞ」と頭を下げた。帝は大喜び。柔らかい柔らかいと、坊主頭をペタペタ撫でまわした。
「帝に触らせたそうであるな」
院が物欲しそうに、ともの頭を凝視している。
「触りたいのですかっ!治天の君ともあろう御方が、子供のようなことを!」
「朕のも触って良いが・・・・」
「結構です!・・・もうっ、今回だけですぞ。今後、主上から何をお望みでも、ともは聞きませんからね!」
院の分厚い柔らかな手が、ともの頭を覆った。院は天にも昇る思い。スベスベして掌に吸いつく、この瑞々しさ・・・
「そなたに“月宮天女”の名を与えよう」
「・・・そんなものはいりませぬ!」
四代将軍、帝と院に坊主頭を触らす!
瞬く間に拡散された衝撃の特報に、満都は騒然!
ともが六波羅に戻るや、家人達が待ち構えている。
「是非、我らにも!」
「八釜しい!ともは、お前等の玩具ではないぞ」
一喝したものの、今回ばかりは収拾つかない。飢えた狼達の目は血走っており、唸り声を上げ迫ってくる。放っておけば何を仕出かすか判らない。四代将軍源とも、生まれて初めて“恐怖”という感情を味わい思わず後ずさり。仕方なく、「一人一回、みっつ数える間だけ」ということで触らせる。家人ばかりでなく、侍女や下働きまで集ってきた。脂ぎったむさ苦しい手が、ともの坊主頭を撫でまわす。どいつもこいつも、恍惚の表情で忘我の境地。これが夜半までかかった。
「何故こんな目に遭わねばならんのか!」
ともは、己が境遇を恨んだ。だが、苦難はまだ始まったばかり・・・
翌日には「家人にまで触らせた!」ことが都中に知れ渡り、我も我もと六波羅に殺到!その数、二百!いや、後から後から増えてくる。脅しても透かしても帰ろうとしない。騒いだり、あちこちで喧嘩も始まっている。このままでは暴動だ。ともは窮地に追いつめられ進退窮まった。遂に断腸の念で布告。
「御頭撫で
来る八日、辰の刻から巳の刻まで 於・六波羅屋敷
一人一回、みっつ数える間 厳守!
希望者は、何でもよいから献上のこと
四代将軍 花押」
「ええっ、民から銭を取るのですか?」
「当たり前だろ。嫁入り前の穢れなき清純な乙女の柔肌が、得体の知れぬ者共の邪悪な魔手で蹂躙されるんだぞ。本来なら、その者の全財産・魂と引き換えでも釣り合わぬわ。そこを”付け値”で妥協してやるんだ。これほどの仁愛があるか!」
夜が明けた。門前には徹夜を含め既に数百の群衆が押し寄せていた。老若男女、公家に武士、僧侶から農民職人商人、京ばかりでなく、難波や大和からも続々と詰めかけたという。
こっこれを、たったひとりで相手するのか!
とも、戦慄!とてもとても、昼までには終われない。結局夜になっても行列は途切れず、やむなく翌日まで延長。丸二日、合計二千とも三千ともいわれる撫でまわし。ともの頭は腫れ上がり熱が出て三日寝込んだ。ともは我が身の不幸を呪い枕を濡らし唇を噛んだ。
「二度と奴等に甘い顔なぞせぬ!」
献上の品は様々。銭や米・野菜・酒肴等が多かったが、中には牛や馬、刀に鎧兜まであった。
「皆、物持ちだのう」
ともは幼子から貰った綺麗な貝殻のみ懐に入れ、その他は総て残らず気前よく処分した。集まった食物は雑炊に炊き出し貧民に配った。家畜は農家に譲り、武具等は叩き売る。その収益と賽銭が結構な額になったので、加茂川に新しい橋を架けることにした。便利になったと後々まで感謝された。
ところが橋は「坊主橋」と親しまれてしまい、四代将軍源とも様激怒!
「そのような名で呼ぶでない!」
御自ら「別嬪橋」と札をお立てあそばされる。ものの、全く定着しなかったそうな。
「こんな騒ぎは二度とゴメンだ!」
惜しむ世論を振り切って、ともはサッサと髪を伸ばした。




