十、四代将軍源とも、ハッケヨイ相撲ヲ取ル!
国家鎮護の道場たる山門と、天下に覇を唱える四代将軍の抜き差しならぬ対立!遂に山門は、六波羅幕府に対し神輿を担いで強訴に及ぶ。だが、四代将軍源とも、神罰仏罰何のその。神輿に矢を射る大胆不敵!さしもの僧兵、一蹴され赤っ恥。山門は全面降伏!強訴を主導した「山門の暴れん坊」十人力の善行は、後の始末で、四代将軍源ともの家人となる・・・
「善行、ゼンギョウ、善キ行イ、はははっ!名は体を表すって本当か?善行、まぁ頑張れ」
ともは、このところご機嫌。とも様もお年頃、己の容姿が気になります。殊に四代将軍様は目を見張る長身であらせられる。ところが、ともにはこの背丈が悩みのタネ。乙女心は複雑なのです。侍女に混じると首ひとつふたつ抜けている。そこへ今度来た善行は身の丈六尺の大男!自分より大きい者が入ってくると嬉しい。
「ところで、善行、そちゃ十人力だそうじゃの」
「はぁ?」
「ともは嘘やハッタリが大嫌いでの。本当かどうか試したい」
ともは家人から英次等五名を選抜し「この者と相撲を取れ」と命じた。
「仮にも四代将軍の家人、ひとり二人力くらいはあろう、勝ったら十人力と認めてやる!」
「いっ一度にですか?」
「当たり前だろ」
五名の者は、善行に一斉に襲い掛かり瞬く間に組み伏せてしまった。
「ま、参った・・・」
「えぇーっ?!十人力のクセに半分にも及ばんのかぁ。これはとんだ紛い物だな」
ともは、五名の者に「以後“三人力”と名乗るがよい」と褒美を与えた。さてと、次はコウケツ他二名に掛からせ、またもや善行は敗れた。
「よっ・・・弱いのう。善行、お前の十人力ってのは飯の量だけか?」
「ひっ卑怯な!一対一なら負けぬ」
「そなたが勝手に十人力と喚いていたんだが」
今更帰れとも言えんしなぁと、ともは立ち上がり、
「では一対一で、ともが相手をしてやろう」
えっ!と一同、息を呑む。ともは、ゆっくりと庭に降り善行の正面に相対す。
「とはいえ、ともはか弱き乙女であるからの。これを使わせてもらう」
かねて用意の”菊一文字則宗”をスラリと抜く。刀をぶるんぶるん振り回し、善行の鼻先にピタリ刃を突きつけた。善行の腋から冷や汗が流れる。
「ふむ、これではちょっと不公平であるかな?」
ともは懐から紙を取り出しふわっと地面に落とす。その紙の上に右足をゆったりと置いた。
「ともの足がここから離れたり一寸でも紙が破れるようなことがあったら、そなたの勝ちでいいぞ」
一同、唖然!
善行わなわなと震え、やがてがっぱと地に伏し「参りましたっ!」
「何だ、つまらない。じゃあ、ともは十一人力ってことで、よいかの?」
ホントに向かってきたら紙を蹴飛ばして「負けた負けた、お主は強い」と逃げるつもりだったと、ともは笑った。しかし善行は不快ではなかった。むしろ何か、こそばゆいような誇らしいような気がしてきた。
善行は、四代将軍に心から忠誠を誓ったのです。




