一、四代将軍源とも、颯爽ト登場ス!
東西、東西ィーっ!
さぁさ、お立合い。諸君、皆々様よ。女とは怖いものよ。うん、怖い。怖いなぁ。
いにしえより傾城傾国。
一度逢えば城が傾き再び逢えば国が傾く、の例え。
唐土において、妲己・西施・呂后・楊貴妃・・・
いずれも絶世の美女ではあるが、悪女も悪女!
己の欲望に貪婪で、男を惑わし道を誤らせ国を滅ぼしたのであります。
翻って本朝に傾城傾国ありやなきや。
鎌倉に尼将軍・北條政子ましませば、この頃都に流行るもの四代将軍・源朝子!
ひしと世間を取りにけり。
慈円という、偉いお坊さんが云ったとな。
「女人入眼の日本国、いよいよまことなり」
これから申しますのは、女だてらに武家の棟梁!
「四代将軍源とも」の、おはなしです。
頃は承久元年、弥生三月、春たけなわ、花爛漫!
都に陽がさしてきた。山際からだんだんと白んでくる。紫がかった雲が細く棚引いてゆく。春眠、暁を覚えず。新しい朝がきた。目覚めの時だ。それぞれの日常が始まるのです。
ところが、まだ早朝というに、都大路は既に大変な賑わい。民衆が口々に何やら叫びながら走ってゆく。老若男女、町人もいる。百姓もいる。武家も僧侶までも、いる。一体、何事であろう?
時ならぬ、わぁっという歓声。振り向けば、煌びやかな行列。
極彩色の鎧武者に囲まれた、一際輝く馬上の美丈夫!
「四代将軍!」
“そのひと”は白い直垂、水干を身に着け、立鳥帽子を被り、白鞘巻の刀を帯びている。かなりの背丈。そう長身ではあるが、細身で華奢。顔が小さく目と耳が大きい。首が長く手足も長い。所作は優美で、さながら水辺に鶴の舞うよう。己に向けられる熱狂も意に介さず、伏し目がちに小首をかしげ口元には笑みさえ浮かべて・・・その表情からは、まだ少年のあどけなさが残る。いや、待て!少年ではない。”そのひと”は女だ、どう見ても女だ!女が武家の装束?しかし、群衆は狂喜乱舞!奇声をあげ、無闇に駆け出したり、踊ったり、土下座して拝んだり!満都の興奮は最高潮に達した。
このひとこそ誰あろう!清和源氏主流河内源氏為義流、鎌倉幕府創設者にて初代将軍、正二位権大納言右近衛大将・源頼朝が忘れ形見、「従五位下征夷大将軍・源とも」!
源氏将軍亡き後、ますます増長する北條一族!その専横に苦しむ庶民の難儀救いたいと、女だてらに将軍家を継ぎ巨悪に対峙する、純情可憐な一輪の花!
「いよぉーっ、征夷大将軍!」