3:予兆
”神秘”の目覚めは、生まれた時から目覚めている者から、10歳以降の子供が目覚める傾向にある。
目覚めの期間は不明であるが、覚醒時には共通した特徴がみられている。
それは覚醒する前日に、体の中に魔力が高まり高熱を出す。
高熱が治まる頃には晴れて“神秘”を扱う者。”神秘使い“となるのだ。
この覚醒時の症状は、体内に溢れ高まる魔力とその者が得る属性が関係しているのではと研究されている。
(…私もそうだったもの――あの時は熱くてこのまま死んじゃうんじゃない!と思うくらいだったもの)
学院の中等部の制服を身に纏った私は、覚醒する予兆と言えるあの時を思い返し「苦しかったなぁ~」と苦笑する。
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そうあれは夏の日だった。
私は39度の高熱で倒れたのだ。それは生まれて初めての経験でもう暑くてしんどくて仕方なかった。
ただその症状も一晩経つと収まった。初めは唯の夏風邪でも引いた、と軽く考えていた。
一晩経って、熱も36度の平熱に下がっていた。
私は熱によるしんどさも綺麗になく「風邪も治った!」と思った。
ただ、何やら体の奥に熱とは違う不思議な温かさを持った何かを感じる様になっていた。
私はパジャマから部屋着に、ノースリーブスのシャツとスカートに着替えると1階に降りる。私の部屋は2階にあるのだ。
自分でも元気なったを実感しているけど、念の為階段を下りる際にもフラッとしないかと気を付けながら下りていく。
うん、体調も問題なかった。
リビングに入ると忙しそうに準備している母の姿があった。
私は元気よく朝の挨拶をした。そして私の挨拶に気付きお母さんが私の方に向いた。
「おはよう、おかあさん!」
「あら?ヒメ、もう大丈夫なの?寝てなくても大丈夫なの?」
昨夜には熱もだいぶ下がっていたので、初めは高熱でうなされる私を心配していた母も安心しホッとしていた。
「うん!もう熱もないし、こんなにも調子もいいよ!」
私は体調が良いと母にアピールする。
「そう、良かったわ。でも、あまりはしゃぎ過ぎない様にね。病み上がりなんだから…あら、もうこんな時間!ゴメンね、ヒメ。お母さんこの後すぐにお仕事に行かなきゃダメなのよ」
「そうなんだ。なら急いでいかなきゃだね。私はもう大丈夫だから。体調もいいし、友達と遊ぶ約束もあるから」
「ゴメンね。それじゃ、後は御願いね。遊びに行くのはいいけど無理は駄目よ―」
「わかっているよ!鍵もちゃんとするし、無理もしないよ!ほら、おかあさんも出ないと拙いんじゃないの?」
そう私が促すと、何だかまだまだ言い足りなさそうな母だったが時間もあってか急ぎ支度を整えると仕事に向かった。
母の話は長くなりやすいので、こうして切り上げる術を得ていた。
出勤した母を尻目に、私も朝食のパンとハムエッグを食べて食器を洗うと、昨日はずっと寝たきりで、今は夏。寝汗もあって気持ち悪さがあったので、病み上がりだし御風呂には浸からず汗を流すためシャワーを浴びた。
すっきりとした後、私は外出着に着替えると戸締りをしっかり確認する。
そして友達の待っている公園に向かった。
この時の私はたぶん浮かれていたんだと思う。
私が得た不思議な力。
それを友達のみんなに自慢してみたいと。そう思っていた。
この力…”神秘”が一般にどう捉えられているかも知らずに。