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第三章(三)

 花暖とハリーが連れて行かれて、一時間程経過した。二人が心配で落ち着かず、部屋の中を動物園の白熊のように歩き回っている。という素振りに見せかけて、脱出する方法をレオは模索中だ。

 寝室やトイレには見当たらなかったが、この部屋には明らかに監視カメラが隠れている気配がある。あからさまに、脱出経路を捜すわけにはいかない。へたな芝居でもしないよりはましだろう。敵は笑っているかも知れない。そんな考えが浮かぶと、レオは一人、苦笑いをした。

 二人が心配なのは本当だ。誘拐犯たちが、花暖にどんな要求を突きつけているのか気になる。しかし、それはハリーがついているから大丈夫だろう。交渉事についてはFBIの中でも定評がある。ネゴシエーターとして、立てこもり事件やハイジャックをいくつも解決してきた男だ。ハリーに任せておけばまず間違いないだろう。

 ただ、花暖が脅えているんじゃないだろうか。まだ一六才の高校生だ。犯罪者のボスと面と向かって話すなんて、いくらハリーがついているとは言え辛い思いをしているに違いない。

 あんな特別な声を持っていなければ、誘拐なんてされずにすんだのに。あの教会で身を呈してでも逃がしてやれなかったのが悔やまれる。そうすれば今頃は、妹と一緒に日本に帰っていただろう。これ程の失態をして、彼女たちを引き止めていられる程FBIも傲慢ではない。

 一通り部屋中を捜しまくったが、逃げ道は無さそうだ。窓には鉄格子。通気孔なども無い。映画のようには、いかないものだ。B級スパイ映画なら、壁に空いた抜け穴が、見つかっているところだろう。逃げ道は正面の扉だけ。そこから逃げ出せる可能性は、ゼロに限り無く近い。後はミチルがFBIに連絡をとってくれるのを待っているしかないのか。

 窓の外からは、車の通る音や人の話し声がかすかではあるが聞こえる。何とか外に出られれば、助かる可能性は高いのだが。

 あきらめて椅子に腰かけ、タバコを取り出した。花暖の喉を気づかって、誘拐されてからずっと我慢していたのだ。カルティエのライターを取り出した。レオの持っている唯一のブランド品だ。自分で買った物じゃない。祖父さんの形見だ。

 それにしても何故、教会に行ったのが誘拐犯にわかっていたのだろうか。完全に待ちぶせされていたのだ。自分たちの行動を知っているのは、FBIの中でも限られている。局長に部長、それにサポートにあたっている少数の捜査官だけだ。

 やはり教皇暗殺未遂事件には、FBIの内通者がいるに違いない。それも、かなりの範囲の情報を手に入れる事の出来る人間だ。だとすると、部長か局長だが、動機が無い。あの二人が教皇を暗殺しても、何のメリットも無いはずだ。それとも、もっと上の人間の命令なのだろうか。

 まとまらない考えが頭を駆け巡るうちに、一本目のタバコを吸い終わり、二本目に火を付けた。

 天井に消えていく煙を見つめていると、また別の思いが浮かんできた。

 ここに来てから心に引っかかっている事が一つある。自分たちをこの部屋まで案内した男。花暖とハリーをボスの所まで連れて行った男だ。

 あの野郎、どこかで見た覚えがある。手配書だったか、犯罪者ファイルなのか、それともおとり捜査で潜入した先だったかも知れないが、思い出せない。それが思い出せれば、この状況を打破出来る糸口がつかめるかも知れないのだが。しばらく、現場から離れている間に、すっかり頭が鈍ってしまった。

 二本目のタバコを吸い終わり、椅子から立ち上がった。わからない事を考えていてもしょうがない。ハリーと違って、考えるよりも行動するのがレオの信条だ。

「おーい、誰かいないか。お客様のお呼びだぜ」

 何の反応も無い。仕方が無いので、ドアをけたたたましく叩いた。「静かにしろ。何の用だ」

 見張りが、面倒臭そうにドアに近づく。

「退屈なんだよ。ビデオ持って来てくれ。そうだな、アクション物がいいな。FBIの捜査官が、誘拐犯を撃ち殺すやつ」

「何様だお前は。退屈なら寝てろ」

 見張りがドアを蹴った。

「頼むよ、退屈で死にそうなんだよ。雑誌でいいからさぁ」

 レオの哀願に、根負けしたのか、見張りはため息をつくと、姿を消したかと思うと、すぐに戻って来てドアの窓の鉄格子の間から、雑誌を四、五冊投げ入れた。

「これで我慢してろ。もう騒ぐんじゃないぞ」

「悪いな。恩に着るよ」

 見張りの姿が消えると、雑誌を拾い集め、椅子に戻った。その中の一冊を手に取り、ページをめくった。車の情報雑誌だった。

 さてと、欲しい物は手に入った。隙がないなら作るまでだ。だが、果たしてこの作戦が、成功するかどうかは、まったくの疑問だ。ハリーはきっと反対するだろうし、花暖も怖がるだろう。第一、成功率が極めて低い。

 自分の計画を自分で否定しながら、レオはどこかに隠してあるであろう、監視カメラに見せつけるように、雑誌に没頭した。


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