修羅場!?
ラブコメはこんな残酷じゃない
夜十神 シド―
ここは無の世界。いや、時空の空間といった方が正しいだろう。何にもない。この空間に、ひとつの船が飛んでいる。その船は地球という名の星にある、日本という国の大きさがある。それは当然のことだろう。なぜならこの船はひとつの星をそのまま船化させたものだから。
「もうすぐ会える…」船の中の船長席の隣の席に座る美少女がつぶやく。
地球までの距離、あと1000億キロ。あと3日あればつくだろう。この船ならば。
「何年待っただろう。でもこの苦しみはあと少しでなくなるわ。早く会いたい…望月さん…」
船が加速する。地球へと向かって。
1
「さむっ」俺は本音を口にする。
俺の名前は望月悠斗。今は品川にある高校に通っている。ちなみに高1だ。十月になってから気温は急激に下がり、登校するだけでも凍える。
俺は急いで6階にある自分の教室へと向かった。教室にはもう何人かの生徒がもういた。その中には俺の幼稚園からの親友、塔園治也の姿もあった。彼は異常な寒がりで、十月に入ってからは毎日のように、毛布を学校に持ってきている。今彼はそれにくるまっている。
「おはよう治也。今日も寒いね。」俺は治也に声をかける。
「お、おはあああああ、よう。悠うううう斗」治也が返事をする。彼の声は震えていた。震えるほど教室の中は寒くないと思うが…
キーンコーンカーンコーン
授業開始のチャイムが鳴る。みんなが急いで席に着く。
「悠斗くんおはよう。」俺の隣の席に座っている少女、秋原亜衣が話しかけてくる。彼女に会ったのはこの高校に入学してからすぐ後だった。治也が入学式に日にすぐに用事があると言いだして先に帰ってしまった。俺は治也以外知っている人がいなかったので、教室でつまらそうに座っていると彼女が話しかけてきた。亜衣は黒髪のショートヘアで、前髪をヘアクリップで留めているのが印象的だった。そのあと俺は亜衣と仲良くなり、毎日一緒にいる友達だった。あくまで友達だ。別に恋愛感情は一切ない。十月になってたまたま席が隣同士になった。
「あ、あの悠斗くん…えっと大事な話があるので放課後教室で待っていて。」亜衣が突然話しかけてきた。
「ああいいよ。」俺はオーケーした。断る理由がない。
亜衣はパァーッと顔を明るくした。そんなにうれしいことなのか?俺は授業に準備をする。次の授業は確か古文だったな。俺は古文の授業に使う資料をカバンから取り出した。なぜかカバンが開いていたことが気になるがまあいい。ノートを開く。
「ん?」俺はノートになんかの紙切れが入っていることに気がつく。
その紙切れはきれいに四つ折りにされていた。俺はその紙切れを開く。そこにはこう書いてあった。
望月悠斗さんへ
私の名前は――――――です。
あなたが好きです。❤
放課後に教室で待っています。
それまでは私の名前は秘密です。
PS.誰にもこのことは伝えないでください。
ラ、ラブレター?俺は内心で驚く。しかもこんな大胆な文章。誰だ、これを書いたの?気になる。でも教室で放課後って、亜衣も同じこと言っていたぞ。どうする?まあ亜衣の方は早く終わりそうだ。亜衣はいつも話は早く終わらせるタイプだ。話の後に亜衣に先に帰ってもらって、このラブレターの子と会えばいい。
ガラガラガラ
先生が入ってきたから急いで机の中にラブレターを隠した。隣の席で亜衣が怪しい目で俺の事を見ていたことは俺は気が付いていなかった。
☄
キーンコーンカーンコーン
いよいよ放課後に突入した。さて俺はまずこのドキドキをどうにかしないとな。そういえばラブレターで思い出したことがあった。俺が初めてラブレターをもらった時のことだ。
俺が初めてラブレターをもらったのは中二の時。二年生になって間もないころだった。俺の机の中に5cmぐらいに膨らんでいた封筒が入っていたのだ。その封筒に入っていたのは一枚の縦五メートルにも及ぶでっかいラブレターだった。それを頑張って封筒に詰めていた。手紙の内容は放課後に校舎裏で待っているという内容だった。でもそのことを五メートルもある紙にビッチリきれいな字で書いていて、読むのすらひと苦労だった。その手紙が何を言いたいのか理解できたのはちょうどその日の最後の授業が終わった時だった。俺は急いで約束場所の校舎裏に急いだ。
しかし、1時間待っても手紙の差出人は現れなかった。ただのいたずらなのかなと最初は思った。でもあのラブレターをみる限り、一生懸命書いたようにしか見えなかった。いたずらだとは思えなかった。でも誰ひとり現れなかった。そろそろ暗くなってきたので帰ろうとした時だった。一人の少女が木の陰から現れた。
「待ってください…」その少女は言った。
俺は立ち止まってその少女を見た。始めてみる顔だな。他の学校の人か、他のクラスの人で影が薄い人かなと思った。
「こんにちは。あっ違うか、こんばんはか…」俺がその少女に話しかけた。
「そうですね、悠斗さん」その少女は嬉しそうに答えた。
そして俺とその少女は見つめあい、二人で楽しく笑った。その少女の名前は斎藤瑞希だった。髪は茶色のロングヘア。ダテメガネを額にかけているのが彼女のファッションだった。彼女は俺の隣のクラスでいつも教室の端っこに座っていて、友達も少ないらしかった。
そのあと、俺らは付き合うことにした。毎日一緒に登下校し、そして休日には映画を見に行ったりしてデートもした。俺は彼女の事が大好きだった。俺に会うたびに嬉しそうな顔をしてくれてそれが俺が落ち込んだ時などに優築けてくれるきっかけになった。
しかし別れはすぐ訪れた。
高校受験で彼女が九州にある高校に通うことになったので中三になってから九州に引っ越すことになった。これは仕方のないこと。最初は戸惑いがあったけど俺らはすんなり別れた。また大人になってから再開することを約束して。
思い出したくなかったな。このことは絶対に。なぜなら俺と別れたあと、彼女は突然行方不明になり、この世から完全に消えたのだから。
俺の目が涙ぐんで来る。いまはこの放課後の件をどうにかしないとな。
俺は教室にだれにも見つからないように入る。そこには亜衣がいた。相変わらず行動が早いな亜衣は。
「遅いぞ悠斗くん!」亜衣が俺に半分叫ぶ。
「いいじゃん。で、大事な話って何?」俺が亜衣に質問する。その途端亜衣の顔か見る見るうちに赤くなっていく。
「あ、あの大事な話っていうのは…」亜衣は黙ってしまう。いつもの亜衣ならばこんなことはないと思うのだが…
「えっとつまりね、私たちって仲いいじゃん…だからその…」
「私と付き合ってください!」
えっ。付き合って?何が何だか分からなくなってきた。亜衣が俺の事が好きでこの後会う約束の子も俺の事が好き…この二人が会ったら修羅場になるぞ。それよりもどうすればいいんだ亜衣の事。なんて返事したら…神様、どうかこの俺に助けの女神を…
「えっと亜衣…」
ガラガラガラ!!
「望月さん!」突然教室のドアが開いた。
んっ!?この声どこかで…
そして一人の少女が勢いよく俺に飛びついて来た。とっさに事に驚き、俺は床に倒れる。
ポカンと亜衣が俺の事を見つめている。そして次に怒りを覚えたようにして顔を真っ赤にする。
「ちょっとあんた悠斗くんとどのような関係で…っていうか離れなさい!」そう言って亜衣が俺に飛びついて来た少女を全力で離しに来る。
「あん…ちょっと私と望月さんとの深い仲を壊さないでください!」その少女が言う。しかし意外と素直に俺から離れた。
その少女は茶髪にロングヘア。そして額にメガネ…まさか…
「お前もしかして…瑞希?」俺がその少女を指さしながら言った。
「えへへ、久しぶり悠ちゃん!」瑞希が元気よく答えた。