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第三話 真実の一端(礼・千鶴side)

女子二人の絡みです。礼の様子が少し変わってきます。

 霧人が百合に引きずられて行った後の食堂に残された吉野千鶴は黒髪の少女、(れい)を席に座らせ、食堂の隣のキッチンに入って調理を始めた……「もう10時だからね。孤児院のみんなの分作った余りの食材で作るけどいい?」

「ありがとうございます。文句は一切ありません。こちらがお世話になっているのですから」

 いたって明るい口調で話しかける千鶴と対照的に、礼は淡々と返事をした。

 こうしたやり取りをしばらく続けているうちに料理ができたらしく、千鶴がキッチンから戻って来た。

「はい!野菜入りお粥。ちなみに味つけは塩だよ。食材があんまりなくてこんなのしか作れなくてごめんね」

「いえ、とても美味しそうです。いただきます」

「そう?ありがとう!ちなみに私のことは千鶴って呼んでね。私はあなたを礼ちゃんって呼ぶから」

 礼は名前の由来になった礼儀正しさからか、口に入れたお粥をしっかりと咀嚼してから返事をする。

「はい。わかりました。千鶴さん。このお粥とても美味しいです」

「ありがとう……じゃない!千鶴『さん』じゃなくて呼び捨てか『ちゃん』付けにしてよ。あと私には敬語禁止!」

「はい。わかりました」

「敬語じゃん!」

 この後、ご飯を食べる礼に千鶴が話しかけ、礼が敬語で返すため、千鶴が突っ込むというのを繰り返すことになったのだった……「ご馳走様でした。美味しかった……よ、千鶴……ちゃん」

「お粗末様でした。ありがとう、礼ちゃん」

 食事が終わる頃にはぎこちないながらも敬語と「さん」付けをやめるようになった礼の様子に満足したらしく、千鶴は上機嫌で食器を洗い出した。

 しかし、千鶴はここで予想外の爆弾を落とされ表情をひきつらせることになる。

「先程の会話の中で実に15回も相場さんの名前が出てきましたが……出てきたけど、もしかして千鶴ちゃんは相場さんのことが好きなの?」

 千鶴は驚愕のあまり洗っていた食器を落としそうになりながら聞き返す。

「なななななななんでわかったの!?じゃなくて!何を根拠に!?」

「ごめん。相場さんの名前を出すときはいつも文句を言いながらも、輝かしい笑顔だったから、つい……いけない質問だった……?」

 礼のあまりにも素直な謝罪に、千鶴は苦笑しながら答えた。

「はぁ……別にいいわよ。私って顔に出やすいみたいだしね……柳原荘のみんなもキリちゃんを抜かしたみんなが感づいたし……でも、まあ、確かにキリちゃん、霧人のことは大好きだよ。霧人は私のヒーローだからね……ところで、なんで急にそんな質問を?」

「なんでだろう?多分興味が湧いたから、かな……?彼が軍の追手を殺した時、凄い嫌悪感に襲われたの……だから、もしかしたら記憶を戻すきっかけになるかと思いまして……思って」「(記憶思い出したら辛い思いをするかもしれないのに……どうしよう……止めるべきかな?)」

 未だに口語に慣れない礼へ笑顔を向けながら千鶴は口の中だけで呟いた。

 当然礼は疑問に思ったらしく、質問をする。

「どうしたんですか?」

「ごめん。何でもないよ!記憶早く戻るといいね。そして、どさくさに紛れて敬語を使わない!」

 礼を心配させたくなかったからか、無理矢理笑顔を作りながら礼の頭に軽くチョップをする。

 そして、驚いたことに、礼は、先程までの淡々とした口調とは違った、少しだけ照れた様子で微笑しながら

「ごめんね」

と言ったのだった…… 食堂でのやり取りから仲良くなった千鶴と礼は、話しながら建物の中を確認し、最後に礼の住む部屋に来ていた。

「この部屋は礼ちゃんの部屋だから好きに使っていいよ。ただし散らかし過ぎないようにね!といっても散らかす物がないか……よし!買い物にいこっか!」

「そこまでお世話になるのはさすがに……あ……」

「どうしたの?」

 何かを思い出したらしい礼に千鶴が質問した。

「天崎さんに匿ってもらうお礼を言うのを忘れてた……」

「ホントに礼儀正しいね。どっかのバカに見習わせたいなぁ。じゃあ、さっき案内した書斎へ行くといいよ。そろそろキリちゃんの説教も終わるころだし。私は久々に帰って来る子を出迎えなきゃいけないからついていけないんだけど……」

「お気遣いあり……じゃなくて、気にしないで。一人で大丈夫だから」

「そっか。じゃあ、また後でね」

「うん」

 お互いに声を掛け合いながら部屋を出た二人は別々の方向へ向けて歩きだした…… 礼は書斎の扉の前に着くと、扉をノックした。

「どうぞ」

 すぐに返事が返ってきたので、礼は書斎の中に足を踏み入れた。

「失礼します」

「あら、礼ちゃん。いらっしゃい。どうしたの?バカの説教はもう終わったわよ?」

「遅くなりましたが、匿っていただくのに当たってお礼が言いたかったので……本当にありがとうございます」

「気にしないで。私の趣味みたいなものだから」

 深々と頭を下げる礼に、百合は微笑みながら優しく言葉をかけた。

「ところで礼ちゃん、体は本当に大丈夫?千鶴ちゃんが治療はしたけど『LOA』を限界まで酷使したなら結構体が痛んでるはずなんだけど」

「いえ、大丈夫です。『LOA』とは何ですか?」

 百合の口から出てきた聞きなれない単語に礼が反応した。

「あれ?あなたが霧人との邂逅直後に倒れた直接の原因なんだけど……ホントに知らない?」

「はい。しかし、相場さんはいかがわしいことをするために私を気絶させた、と言うわけではなかったのですね…彼に申し訳ないです……」

「そんな風に思う必要はないわよ。あのバカは『太ももは柔らかかった』発言してたから」

「前言撤回します。やはり相場さんは変態なのですね」

 もしこの場に霧人がいたら悲痛な叫びを上げそうな会話を続ける二人だが、当然止めるものは誰もいない。

 おそらく礼の中の霧人像が完全に「変態」になった頃に、ようやく百合が話題を変える。

「まあ、霧人の話しはとりあえずおいといて、『LOA』を知らないとなると『ジェネレーター』も知らない?」

「はい」

「そっかぁ。あ!今ちょうど実際にそれを見せてくれる奴らがいると思うから中庭に行ってみて。多分千鶴ちゃんもいるから、説明は彼女に頼んでね」

「わかりました。失礼しました」

 短く返事をした礼は、中庭へ向かうべく、書斎から出ていった……

ここまで読んでくださってありがとうございました。三話にてでてきた『ジェネレーター』という言葉は、実は一話にでてきた、屈強な男が言おうとしていた言葉です。『ジェネレーター』とは何なのか?『LOA』とは?次回明らかになります。

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