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第二話 柳原荘

更新大分遅くなってすみませんでした。今回は完全に日常回、というか無駄にハイテンションです(笑)

 黒髪の少女が目を醒ますと、そこは無機質な白い壁の研究室でもなく、人通りのない工業団地でもなく、どこにでもあるような6畳一間の部屋だった。

 いつの間にか着替えさせられたらしく、着ている服もバスローブではなく、花柄のあしらわれた黄色のパジャマだった。

 少女は周りを見渡すが、部屋には少女が横になっているベッドの他には机とタンスがあるだけだ。

 とりあえず体を起こした少女は部屋の外に出ようとドアへ向かった…… 少女が扉を開けるために取っ手に手をかけようとした瞬間、扉が向こう側からノックされた。少女は扉から一歩下がる。

 直後に部屋の中にむかって、ゆっくりと扉が開かれ、金髪の少女が入ってきた。

「あ、おはようございます。体のほうは大丈夫ですか?」

 金髪の少女は柔らかく微笑みながら、黒髪の少女に容態を尋ねた。

 しかし、黒髪の少女の方は無言のままだ。

 その無愛想さを気にする様子もなく、金髪の少女は黒髪の少女の額に手を当てる。

「熱は……下がったみたいですね。よかった。もう普通に歩けそうですか?」

 この問いに黒髪の少女は首を縦に振って同意する。

「じゃあ、ついて来てください。あ、スリッパ履いてくださいね」

 細かい気遣いをしてくれる金髪の少女に、内心では訳がわからないことだらけだったが、それを特に顔には出さずに黒髪の少女はついていった。 黒髪の少女が連れて来られたのは食堂らしく、大人数が座れるだけの大きさのテーブルがあった。

 黒髪の少女が金髪の少女に促されて席につくと、テーブルの一角に座っている、一見して20代前半くらいに見える、プラチナブロンドの女性が口を開いた。

「おはよう。体の方は大丈夫?」

金髪の少女と全く同じ質問をしてきたので、黒髪の少女は再び首肯する。それを見て女性は笑顔になった。

「よかったわ~。あなた、昨日熱出してダウンしてたのよ?覚えてる?」

 今度は身に覚えがないらしく、黒髪の少女は首を横に振った。

 すると、突然女性が心配そうな顔になって、少女に質問をした。

「もしかしてあなた言語障害があるの?必要なら手書きようのメモを用意するけど……」

 女性の心配を無下にするつもりはないらしく、黒髪の少女は口を開く。

「いえ、結構です。ただ昨日倒れたという記憶がないので。しかも起きたら知らない場所だったので、警戒を禁じ得ませんでした」

 少女は淡々と語った。少女自身の記憶では工業団地で『軍』関係者に捕まりそうになり、そこを(少女から見て)軽薄な態度の少年に助けられたというところまでしか記憶がないので当然と言えば当然である。

「ああ、ごめんなさいね。ここは『柳原荘』という孤児院よ。私は管理人の天崎百合(あまさき ゆり)。こっちの金髪の子は吉野千鶴(よしの ちづる)ちゃん。あなたの名前は?」

 天崎百合と名乗った女性が自分と金髪の少女の自己紹介をするとともに黒髪の少女に質問をする。

 黒髪の少女が質問に答えようと口を開こうとすると、苦しそうな声が割り込んできた。

「だから、その子は名前はないんだって。昨日俺がいったじゃんか」

「相場さん……?」 少女は聞き覚えのある声を聞いてその主の姿を探すように見渡したが、食堂には目の前の二人以外誰もいない。

 あるのは場違いとも思えるマリア像が一体―ただし、その下から人の膝のような物が覗いていた。

「何をやっているのですか?」 昨日の夜に自分を助けた少年、霧人の姿を見つけて黒髪の少女が発した声は、先程までの淡々としていた声よりもさらに無機質なものだった。

「誤解しないでくれないかな…さすがにドMではないよ…」

「その格好では説得力にかけますが?」

 霧人の必死の言い訳(?)に黒髪の少女は鋭くツッコミを入れる。

 実際、霧人の現状は、背後で手を縛られ、選択板のギザギザした部分の上に正座し、膝の上に等身大のマリア像という、江戸時代の抱石という拷問を思わせるものだった。

「あ~、そこの二人。何時まで漫才を続けるつもり?話を先に進めてもいいかしら?」

 端から見て、漫才としか見えない会話を続ける二人に、プラチナブロンドの女性、百合が制止をかけた。

「すいません」

「いいわよ。あなたが悪いわけではないしね。悪いのはそこの変態よ」

 素直に謝った黒髪の少女には笑顔を向けながら、百合は刺々しく言葉を続ける。

「でね、あなたに聞きたいのだけど、昨日あなたはあそこの変態は何かされたかしら?」

「キレイと言われたり、腰に手をまわされたり、相場さんが着ていたパーカーを着るように言われたりしました」

 百合の質問に対する黒髪の少女の答えに場の空気が凍りつく。

 ただ、さらなる絶対零度が訪れたことによって静寂は破られた。

「キリちゃん♪知ってる?人間の骨ってゆっくり過重されていくなら300kgまで耐えられるんだって♪」

 金髪の少女、千鶴が笑顔で(だが目は笑っていない)放った意味深な言葉に霧人は顔を真っ青にして叫ぶ。

「いやいやいや!違うよ!?確かにその子が『俺からされたこと』だけを言えば変に聞こえるけど違うから!てか君もはしょり過ぎ!頼むからこの二人に昨日のことを詳しく説明してやってくれ!じゃないと俺が人体の限界に挑戦する羽目になる!」

 霧人の剣幕さに感じるところがあったのか、黒髪の少女は素直に説明を始めた。

「昨日は私が軍関係者から逃げていたところ、相場さんとぶつかってしまい、軍に捕まってしまいました。その際に相場さんから助けていただきました」

 少女の言葉に霧人は(家庭風『抱き石』状態のまま)うんうんとうなずく。

「これで俺がいたってまともに人助けしたとわかるだろ?」

勝ち誇ったように霧人は宣言した。

 千鶴も誤解がとけたらしく、明るい笑顔になりながら安心した声をもらす。

「そっかぁ。昨日バスローブ姿にパーカーなんていう際どい格好の女の子をお姫様抱っこで連れて来た時はどうしようかと思ったよ~」

 しかし、その声は冷静な声に遮られた。

「ただし、少し歩き出したところまでしか覚えがありません。ここに来るまでに何かされた可能性は否定できないかと」

 黒髪の少女の言葉に再び場が凍りついた。

「キリちゃん♪刑をグレードアップしないとかな?何がいい?お勧めは家庭風アイアンメイディンだよ♪」

「待て待て待て!!最初が濡れ衣だったのに謝罪は無し?さらに後からでた疑惑も濡れ衣だ!そしてその刑は罪人確定ってことじゃないか!?」

「「「ダウト」」」

「満場一致!?てか俺に女の子を襲う度胸があるか!そもそも背負うと背中とかに色々当たるから、仕方なくお姫様抱っこしたんだよ!」

 千鶴からの再びの恐い笑顔に、霧人は全力で突っ込む。

 しかし、今度は無罪を証明する方法がないために(有罪を証明するものもないが)、女性陣からの氷柱の視線が霧人に突き刺さり続けた。

「そういう無害そうなやつに限って犯罪をするのよ。よくニュースとかの証言では『真面目で静かなやつだった。とても犯罪をするやつには思えなかった』とかね」

「偏見だ!全国の無害そうで真面目な人達に謝れ!」

 いよいよ霧人と千鶴の夫婦漫才が加速してきたのを見かねて百合が声をかけた。

「はいはい。そこまでにしておきなさい。礼ちゃんもこの変態を攻めるのは一端やめてあげなさい」

「礼?」

 百合が突然だした名前に、黒髪の少女はあまり抑揚のない声で聞き返した。

「そ。礼儀正しい子だから礼ちゃん。名前覚えてないみたいだから、とりあえず名前つけないといろいろと面倒だからね。嫌だった?」

「いえ、構いません。お気遣い、ありがとうございます」

「よし。じゃあ千鶴ちゃんは礼ちゃんに朝ご飯食べさせて、色々案内してあげなさい。礼ちゃんは後で、色々詳しく聞かせてもらうね。霧人は書斎で説教ね」

「はい」

 百合の的確な指示に千鶴と百合は返事を返す。

 一方の霧人は、

「ちょっと待て!なんで有罪確定なんだよおおおぉぉぉ!!」

と叫びながら百合に引きずられていったのだった…… 

第二話を読んでくださってありがとうございます。今回はあまり一話の謎に言及できなかったので次話で色々と回収します。

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