"浮き世"
「今日一番戦功を立てたのは、お前だからな」
先輩はにこにこと微笑むと、こっちを向きながら親指で背後の捕虜───無力化された狙撃兵の少年を指差した
戦闘は終了
廃墟内には、彼を残して動いて居る敵はもう居ない
仲間達は気を使って、敵の死を確認し終えると、にやつきながら建物の外にぞろぞろと出て行った
『やり方』は知って居る
何なら戦場に出てから何回かは、僕もやった事が有った
横たわった少年は両手両脚を折られて居るらしく、焦点の合わない瞳で枯れた儚い呼吸を繰り返して居る
破れて靴跡だらけになったシャツの隙間から、呼吸に合わせて静かに上下する肌が視える
抵抗の意志は喪われて久しい様で、色々な事がやりやすそうだった
「───ごめんね?」
少年の躰に覆い被さって、耳元で囁くように伝える
彼に、僕の国の言葉が伝わって居るかは怪しい
どうしてそんな事を言ったのか、自分でも解らなかった
或いは、僕は彼の事が好きだなと感じて、こうした場であっても、優しさを持って接したかったのかも知れない
それはそれとして、僕はする事はした
少年の顔が、何度も近付いたり離れたりする
うわずった声が、うるさい位に聞こえて来る
現実には、断続的に動き続けて居るのは僕であり、声を出して居るのも僕だった
行為の最中に両手の指を絡めようとすると、少年は残されたわ僅かな力で抵抗し、それを解こうと試みた
動くのを止めて、僕は彼を視る
少年は暴力を振るわれる、乃至は殺されると思ったのか、瞳孔の開ききった眼で跳ねる様に僕を視た
沈黙が始まる
躰の重なった所から少年の心音が、どくん、どくん、と聴こえて来る
こういう時に、警戒を解く方法を僕は知らなかった
そもそも、そんな物は無いのかも知れない
彼の視点からすれば、僕達は『急に出てきて殺しまくり始めた異国の軍人』でしか無い
それでも僕は、彼の前髪を優しく撫でると唇に口付け、背中を抱き締めた
身を捩って少年が逃れようとする
彼が苦しくないように、僕は抱き締めた腕を緩めた
それによって攻撃される事だってあるのかも知れないが、多少ならば僕は暴力を振るわれるつもりだった
もしかすれば、それで彼が僕を赦すかも知れないと感じたからだ
最終的に
少年は観念したのか、自ら四肢を僕の躰に絡め始めた
手脚が折れて居る為、姿勢としてはぎこち無い
それでも僕は彼の行動が嬉しくなり、動き続けた
二人分の汗が跳ね混ざり、少年がこふこふと咳き込む
咳と共に溢れた唾液混じりの血が、僕たちの顔をうっすらと染めていったが、僕も少年も気にしてなど居なかった
愉しい時間の終わりは、割と直ぐだった
僕が改めて少年の指に自分の指を絡めると、もう彼は拒ま無かった
嬉しくて、僕は何度も少年に何度も口付ける
そして次の瞬間、少年は眉間を銃で撃たれて絶息した
視上げると、撃ったのは先輩だった
僕が必要より多く時間を掛けてしまった為、様子を視に来たと云う事だった
「してる時に殺すとさ」
先輩が言う
「…………結構気持ち良いだろ?」
さっきまで生きていた躰が、人形のように全身を投げ出して、僕に抱かれて居る
急に躰温が無くなり、死んだ彼の躰が脱力したせいか、重さが増えた様に感じられた
彼の胸に耳を当てる
もう、何の音もし無かった




