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気ままに…

フリーター、城主になる

作者: 有嶋俊成
掲載日:2026/06/19

(和風の大広間にて、畳が一段高い場所に座らされているフリーター)


家老「殿!着物をこちらに置いておきます!」


フリーター「あ、どうも…。」


側近「殿!今日のお通しでございます!」


フリーター「あ、どうも。いただきます…。」


用人「殿!望遠鏡でございます!」


フリーター「あ、貸与品てことね。」


用人「あと、竹とんぼも。」


フリーター「竹とんぼ!? ちょっと待って!これどういうこと!?」


(傍の小姓に振り向く)


小姓「………」(目は合わせている)


フリーター「何か言えよ!!」


家老「殿!我々家臣一同、城主である殿に一命を賭してお仕えします!なんなりとご命令くださいませ!」


(家臣たちが平伏す)


フリーター「待って!待って!一回頭上げて!どういうこと!?これは今どういう状況!?なんで俺はこんなところにいるの!?」


家老「それは勿論、殿がこの城の城主であるからです!」


フリーター「あ、城主か!そうか~…じゃねぇよ!なんか変だな~と思いつつここに連れてこられたけれども!さすがに俺帰るよ!」


(立ち上がるフリーター)


側近「それはいけません!あなた様には城主としてこの城を守ってもらわねばなりません!」


フリーター「あーあー守るつもりだったよ!"警備員"としてな!」


用人「け・い・び・い・ん~?」


フリーター「わざとらしいわ!お城の雑踏警備と見回りの求人見て応募したんだよ!」


家老「何をよくわからないことを申すのですか、一旦落ち着きなされ。」


フリーター「今日ずっとその感じでいくつもり?」


(座らされるフリーター)


フリーター「あの、お城の警備員の仕事ってさ、制服着て、白い手袋はめて、誘導棒を持って観光客の流れを整備したり、夜にはライト持って見回りしたりするやつじゃないの?」


家老「何を言われるのですか、殿の仕事は着物を着て、立派な鎧をつけて、軍配を持って敵の軍を撃退したり、夜には御家の将来を見据えたりすることですぞ。」


フリーター「何言ってんの?特に最後。」


側近「まあまあまあ、こちらのお通し食べて精をつけてくださいませ。」


フリーター「そこはちゃんと"お通し"って言うんだな…。そんでなにこれ?」


側近「"()"にございます。」


フリーター「いつの時代の食い物だよ!」


用人「うめぇ~!」


(用人が"蘇"が乗った皿を抱えている)


フリーター「家来が先に食うな!」


(ここで家老がふと思い出す。)


家老「あ、いかん! 今日は団体の観光客様がお越しになるのであった! 殿、それがしがお出迎えに行って参ります!」


側近「わたくしもお供いたします!」


(家老と側近が去り、フリーター、用人、小姓の3人が残される)


フリーター「あの…この仕事、辞退したいんすけど…」


(小姓に振り向く)


小姓「………」(目は合わせている)


フリーター「本当にあんた何も言わないな…」


用人「辞めない方がいいよ!」


フリーター「は?」


用人「こんなに良い仕事ほかに無いって!」


フリーター「なんだ急に。設定守んの面倒になったか?」


用人「いいでしょ~、同じバイトなんだから~。」


フリーター「あんたもバイトなの!?」


用人「そうだよ。そこの小姓役も。」


フリーター「"役"って言っちゃったよ…。」


小姓「………」


用人「このバイト、時給も良いし、お通しも出るし、割が良すぎるでしょ? 絶対続けたほうがいいって!」


フリーター「とはいえこんなの聞いてないし、急に城主とか振られても困るし。」


用人「それじゃさ、さっき渡した望遠鏡あるでしょ?」


フリーター「あーこれね。」


用人「それ持ってこっち来て。」


フリーター「なになに?」


(窓際に移動する二人)


用人「ほらこの景色を眺めてごらんよ。」


(木製の格子の隙間に差し込んだ望遠鏡からビルや住宅が立ち並ぶ景色を眺めるフリーター)


フリーター「まあ、良い景色ではあるね。」


用人「もう少し右のほう向いてみて!」


フリーター「右のほう?」


用人「ストップそのへん!白い建物あるでしょ?」


フリーター「なにあれ集合住宅?」


用人「あれ女子寮なんだぜ?」(ニヤリ)


フリーター「なにさせんだよ!」


用人「この景色を毎日一望できるんだよぉ~!」


フリーター「頭冷やせよ!」


用人「もう少し右に向くと女子大がある。」


フリーター「この軽犯罪者がよぉ!」


(廊下から足音が近づいてくる)


用人「あっ、やべ! 二人が戻ってくる!」


フリーター「あっ、ちょつ!」


(元の位置に戻る二人)


家老「お待たせしました殿。異国からのお客様ゆえ、コミュニケーションに苦労しましてございます。」


フリーター「思いっきり横文字使ったね。」


側近「殿、そう固いことを言わず。ダイバーシティが今の時代に大事なのですよ。」


フリーター「つまりこの労働形態もその一つということか。」


家老「そのようなことより殿!来週にイベントが予定されていますが、その際のスタッフの配置についてミーティングを始めていきますぞ!」


フリーター「堰を切ったように横文字が出てくるな…。というか、俺このバイト辞退しますから。」


家老「な、何を申されるのですか!」


フリーター「求人に書かれてた『お城の警備』のバイトがこんな形態だなんて誰がわかるんだよ!」


家老「殿!城を置いて逃げるというのですか!」


フリーター「逃げるんじゃない!帰るんだよ!」


(立ち上がるフリーター)


側近「殿!落ち着きなさいませ!」


フリーター「もー帰らせろって!!」


??「なんの騒ぎじゃ!」


(廊下から若い男が現れる)


家老「お、大殿様!」


フリーター「大殿?」


側近「大殿様、殿がこの城を置いて逃げると仰せになるのです。」


??→大殿「何!? 誠にそのようなことを言うのか!?」


フリーター「バイト辞めて帰るだけだって!」


大殿「城主が城と家臣を置いて逃げるなど言語道断!」


フリーター「なんだよ偉そうに!」


大殿「お主に家督を譲るのはまだ早かったようだな。」


フリーター「もういいよそういう設定!しかもお前、多分俺より年下だろう!」


大殿「はぁ…お前は昔からその強情さは変わらんのぉ~」


フリーター「結構深い設定までいく感じ?」


大殿「お?懐かしいのぉ~この竹とんぼ。」


フリーター「さっき望遠鏡と一緒に渡されたやつ…」


大殿「お前が幼き頃、よくこの竹とんぼを回して…頭に乗せて回して…普通に飛ばして…まあ色々あったな。」


フリーター「即興きかねぇのかよ…」


大殿「ともかく、お前が城主を投げ出すというのなら好きにするが良い。他の跡取りはいくらでいるからの。」


フリーター「バイトの補充だろ?」


大殿「皆の者、行くぞ。テレビロケの取材対応だ。」


家老&側近&用人「はっ!」


(大殿が三人を引き連れて部屋を出ていく。フリーターと小姓だけが残る。)


小姓「………」


フリーター「ねぇ、今日の分の給料は出るよね?」


小姓「………」(目は合っている)


フリーター「時給2000円だよね?3時間稼働したから6000円はもらえるよね?」


小姓「………」(目は合っている)


フリーター「ね?もらえるよね?この感じなら手渡しだよね?」


小姓「…もらえない。」


フリーター「なんでだよ!」


小姓「時給2000円じゃない。」


フリーター「へ?」


小姓「年給2000石。」


フリーター「は?」


小姓「一年働いたら、お米2000人前を一年分。」


フリーター「………お米って売れる?」


小姓「売れる。」


フリーター「じゃ、続ける。」

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