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第6話 平凡の腐 I

朦朧とした意識の中、湿った温かみが触れた。だがその熱はすぐに消え去った。


闇はむしろより深く押し寄せてきた。


形のない重みが心の底から湧き上がり、イノの意識をゆっくりと遠い深みへと引きずり込んでいく。


残るのは意識だけ。濃い虚空の中を漂い続ける。


呼吸が、苦しくなった。


やがて空気に焦げた匂いが漂ってきた。古い木が燃え尽きた後の煤のようで、喉の奥がきつく締まる。


その瞬間——


イノの瞼が、ゆっくりと開いた。


足元には、見知らぬ石段があった。湿っていて、冷たい。


青灰色の苔が張り付いた石畳が薄暗い中でくすんだ光を放ちながら、どこへ続くのかわからない高みへと消えていた。


周囲は、崩れかけた城壁。四方は静まり返り、風の音だけが過ぎていく。


空は、漆黒だった。


地平線のあたりで、微かな光が灼けていた。


黒と赤が交わっていた。


その赤は鮮やかではない。

血が土に混じったような、濁った色だった。


何かが彼を呼んでいた。

緩やかに、しかし確実に、一歩ずつ高みへと押し上げていく。


イノは石段を踏み出した。


一歩ごとに、誰かの影を踏みしめているような感覚があった。


風の音が重くなった。


城壁の上に立ち上がった瞬間、視野が一気に開けた。


遠くから、沈んだ足音が響いてきた。


それは規則正しい轟音で、一歩ごとに地面を揺らしながら近づいてくる。


金属と金属がこすれ合う反響——

全身鎧をまとった軍団が、大地を押し進んでくる。


それは、大きく醜い者どもの群れだった。


肌は灰白色に透けて見える。

体躯は粗大で、足取りは重い。


黒い重鎧が彼らを隙間なく包み、整然と行進しながら、どこか制御を失った獣のようだった。


数えきれないほどの猩紅の瞳が、煙の中で一斉にイノへと向いた。


時が止まったかのようだった。


一斉の咆哮が夜を引き裂いた!


その咆哮は低く鋭く、金属を軋ませるように夜を震わせた。


大地が震え、砂塵が舞い上がり、火の勢いがさらに増した。


呼吸がほとんど止まった。

風が灰と熱波を運んで顔に打ち付け、目の端が熱くなり、涙がひそかにこみ上げてきた。


背後から、別の音が聞こえてきた。


抑えられた、壊れかけた、嘆きのような——祈りと呻き声、咳と嗚咽、そして心の底から滲み出る恐怖の声。


振り返ると、自分のすぐ隣に、乱れた防衛線が並んでいた。


負傷者、老人、少年、そして身体に合わない鉄甲をまとった農民たち。


甲冑は傷だらけで、顔は蒼白く、手に握る武器が疲労で震えている。

地面に座り込んでいる者もいる。

盾を持ち上げられない子どもさえいた。


これは、軍ではない。


イノは話そうとした。声が出なかった。


目を閉じようとした。瞼がもう自分のものではなかった。


ただそこに立ち尽くすしかなかった。


人々の哀願。無念。言葉にならない信頼。


逃げたかった。


イノがほとんど崩れ落ちそうになった、その瞬間、


石段の下から、微かな光が浮かんだ。


眩しくはなく、ただ柔らかく、確かに闇の中から透けて出てきた。


炎が退き、怒号が遠ざかった。


光に包まれた意識の中で、イノはぼんやりと、自分が六歳の誕生日の夜へ戻っていくような気がした。

あの夜は、限りない安らぎと温もりに満ちていた。


耳元に、馴染みのある男の声が届いた。

柔らかいのに、抑えきれない何かを帯びていた。


「イノ…その名で人生を綴りなさい。鎖に縛られず、霧に迷わず……」


しばらくの沈黙の後、その声が再び響いた。遥か彼方から来るようでもあり、どこか耳元に近かった。


「イノ・ストヴォーク……」


温もりが胸から湧き上がった。


その光がまさに消えようとした刹那——


イノは霧の向こうに、一人の女が立っているのを見た。輪郭は曖昧で、顔は何度見ようとしても見えない。ただ淡い桃色の髪だけが、風にたなびいていた。


見知らぬ女の声が低く響いた。柔らかく、遠く——


「あなたは、いったい……誰なの?」


——————


ロワク城郊外 イノの部屋 黄昏


「イノ?目が覚めたか?水でも飲むか?」


ハーンの声が急を帯びながら、低く穏やかに届いた。


イノは朦朧と目を開けた。


見慣れた梁。見慣れた顔。


「このガキ、本当に人を心配させる」ハーンは濡れた手拭いを置き、嘆息した。


「傷が化膿して熱まで出しやがって……肝が冷えたぞ」


イノは口を動かそうとしたが、喉が乾いて痛い。起き上がろうとすると、全身から力が抜けていて、こめかみが鈍く痛んだ。


「ハーン……おじさん? 俺、どうなったんだ?」


ハーンが眉をひそめた。「一日一晩ずっと気を失ってたんだ、あれこれ考えるな。エリーナはもう少しで気が狂うかと思ったぞ。それで……お前はなんで西郊まで行ったんだ?」


「西郊?」イノはぼんやりと繰り返した。


戸惑いの表情を見て、ハーンは口調を和らげ、肩を叩いた。「いい、余計なことを考えるな。まず休め、他のことはゆっくりでいい」


少し止まってから、どうしても我慢できないように低く聞いた。「ただ……お前の怪我、どうしたんだ?」


イノは思わず俯いて、左手の薬指に巻かれた包帯を見た。


(指輪!?)


慌てて辺りを見回すと、次の瞬間、卓の角に見覚えのある金属の輝きを見つけた。


静かに息をついた。


だがその瞬間、昨夜の記憶が一気に蘇った。


森、黒熊、セレイナ、指輪、食頭魔(クラニウム・デーモン)言川げんせん……


茫然とその指輪を見つめ、指先が微かに震えた。


ハーンはベッドの傍らに立ち、目の端でひそかにイノの様子を観察していた。


まだイノが答えないうちに、部屋の扉が「バン!」と勢いよく押し開けられ、エリーナが飛び込んできた。

イノが目を開けているのを見た瞬間、彼女の全身が止まった。


「イノ! 私たちがどれだけ心配したか、ちょっとでも考えたの!?」


声が震えていた。手を上げて何か言おうとしたが、イノの青ざめた顔を見て、最後はただ唇を強く噛み締め、振り返らずに部屋を出ていった。


部屋はしんと静まり返った。窓の外で木の葉が揺れる音だけが聞こえた。


ハーンはイノの肩を軽く叩き、ため息をついた。「怒るな。心配してるだけだ。無事でよかった。まず休め、明日の朝また来る」


イノは頷き、素直に横になった。扉が閉まり、部屋に一つの弱い灯りだけが残った。暖かな黄色の光の中に、静けさが広がった。


しばらくして、扉がまたそっと押し開けられた。エリーナが入ってきた。手には湯気の立つ薬湯の碗を持ち、唇をしっかりと引き結んでいた。


「飲みなさい」


エリーナは碗を枕元まくらもとの棚に置いた。口調は短い。


イノはゆっくりと身を起こし、碗を手に取り、低く言った。「……ごめんね、お母さん」


エリーナの足が止まった。肩が微かに揺れた。振り返らずに、数秒の沈黙の後、小さくため息をついて部屋を出ていった。


イノは手の中の薬湯を見つめ、一息に飲み干した。再び横になり、天井を見上げた。


(「……生きていろ」)


その言葉が頭の中をぐるぐると巡った。


(あれは本当のことだった)


(あの熊じゃない熊、あの頭を食う化け物、あの裂けた口……全部、本当にあった)


思わず生唾を飲み込んだ。喉が詰まるように苦しかった。


傍らの指輪を眺め、脳裏にふとあの細部が甦った——あの香り。


その瞬間、誰かが耳元で囁くような気がした。「危険」と。


(セレイナ)


あんなにちょうどいいタイミングで現れ、また気配もなく消えた。イノはもしかしたら彼女が本当に去っていないのではないかとさえ疑い始めていた。


指輪をじっと見つめていると、ある直感がひそかに浮かんだ。


(あの緑の液体……消えたんじゃなくて、これに吸い取られたのかもしれない)


ゆっくりと、指輪を右手に戻した。指先にひやりとした感触が広がった。


枕元の薬碗に意識を集中させた。


次の瞬間、碗が空中から消えた。


「え?」


思わず手を伸ばすと、碗が「パン」と掌に戻ってきた。まだ消えていない余熱があった。卓の角の木のスプーン、本、枕——


一つずつ指輪に収め、また一つずつ呼び出してみた。


すべて成功した。


目が床の隅の小さな甲虫に止まった。ゆっくりと床の隙間を這い進んでいる。


イノは少し迷ってから、指輪をそちらへ向けた。


(収めろ)


指輪の表面がかすかに光り、次の瞬間、刺すような痛みが指の骨に走った。


「うッ——!」


猛然と手を引っ込め、指を押さえた。額に細かい汗が滲んだ。


「……なかなか気難しいな」


月明かりが窓枠から静かに差し込み、イノは枕元に背中をもたせかけ、指の間の指輪を眺めながら、意識が少しずつ遠くなり、気がつけばまた眠りの中へと落ちていった。


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