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第4話 セレイナ

炎が、はっと揺れた。


「こんばんは、若き熊殺者ベアキラーよ」


声は夜の深みから来るようだった。

静かで。


「私の名前は……セレイナ」


金色の赤が、彼女の外套の縁を走った。


「少し尋ねてもいいかしら?」


「『熊殺者』というのは俺のことですか?」


「ええ」


と彼女は頷いた。


「若き熊殺者――イノ・ストヴォーク」


手を上げかけ、傷口に指が触れて、小さく引っ込めた。


(どうして俺の名前を知っている?)


「あなたは誰なんですか。なぜここにいるんですか」


「今年、おいくつ?」


「じゅ……十六です」


彼女はその言葉をそっと繰り返した。


「十年……」


ほとんど火の音に呑まれそうだったが、イノの耳に届いた。


「十年って何ですか?」


顔を上げた。


「俺、あなたに会ったことありますか?」


「あなたと、あなたのご家族のことを教えてもらえる?」


「あなたはいったい――」


「その代わりに……あなたが欲しいものをあげられる」


「あなたがすることは、私の質問に答えるだけでいい」


イノは俯いて、指の間に残る血の痕を見た。

篝火がパチパチと鳴った。


「……俺と母は、すごく遠いところから来ました。どれだけ遠いかは、俺にはわからない。あの頃は小さすぎて、何も覚えていないから。ただ母から聞いた話では、ずっと歩いて、ずっと移り続けたって」


少し止まって、炎の中を揺れる光を見つめた。


「ここに着いたとき、俺は二歳だったそうです。母が言うには、俺たちは何も持っていなくて、父が少しずつ受け入れてもらったんだと。泥仕事でも何でも、きつい仕事は全部やって。それで少しずつ……マシになった、って」


セレイナは口を挟まなかった。


「物心ついたら、俺は遊び友達を探してた。でも石を投げられた。父が誰かの仕事を取ったって言って。『外の人』って呼ばれた。でも友達ができた。三人」


イノは数秒黙ってから、続けた。


「六歳のとき、ある朝目が覚めたら父がいなかった。母が言うには、父は遠いところへ行ったって」


俯いて、衣の裾の焦げた縫い目を引っ張った。


「俺は信じた。三年、ずっと信じてた」


「それからは?」


「それから……ユージンが教えてくれた」


イノの口調はひどく平らだった。


「『お前の親父、とっくに死んでるぞ』って」


「それが初めて知ったんです、『遠いところ』って何を意味するのかを」


イノは俯いて指先を擦り合わせた。


「ああ、そのユージンっていうのが、さっき言った三人の友達の一人です」


指の腹が、乾いた血の痂をなぞった。


「俺たち、昔はすごく仲良かったのに……俺が何か悪いことをしたのかはわからなくて……」


セレイナはやはり黙っていた。

相槌も頷きもなかった。


イノは眉をひそめながらも、語り続けた。

意地のようでもあり、心の空洞を埋めようとするようでもあった。


しばらくして、彼女が静かに言った。


「お父さんのことを話して」


「父については、あまり知らない……全部、母から聞いた話です」


イノの声が少し緩んだ。


「母が言うには、父はいつも静かで、でも目に不思議な力があったって……もし天使というものが本当にいるなら、その目はきっとああいうものだろう、って」


少し間を置いた。


「俺にはよくわからないけど、母が父の話をするとき、いつも顔がすごく柔らかくなるんです」


篝火がイノの顔を照らしていた。


「母が言うには、父に出会ってから、夜がとても長くなったって。夏でも、夜がいつも早くやってきて。あの日から、何もかも変わったって」


沈黙が広がった。


しばらくして、セレイナが静かに言った。


「お父さんは、お母さんの人生に、突然現れたの?」


「え、はい……母が言うには、そのとき父が突然現れたって」


慌てて付け加えた。


「あ、でも……それは母の言いたいことじゃないと思います。母が言いたいのは運命ってことで、本当に空から降ってきたっていう意味の『突然』じゃなくて……」


セレイナはゆっくりと手を持ち上げた。

指先に、金属の輝きを放つ一枚の指輪が現れた。


「これは、あなたを風雨から守ることはできない。でも、あなたが守りたいものを入れておける――食べ物、水、衣服、武器でさえも」


確信を持った手つきで、指輪を差し出した。


イノは反射的に手を伸ばして受け取った。

指輪は冷たく、軽かった。

でも手のひらに包むと、なぜかずっしりとした重さを感じた。


「これ……なんで俺に?」


「でも自分自身は入れられない」とセレイナは静かに答えた。


イノは茫然と彼女を見つめた。


「……まだ質問に答えてもらってない」


彼女はただ静かに立ち上がった。


「待って」


イノは立ち上がり、声が高くなった。


「俺が話したことだけで、こんなものをくれるの?」


セレイナは一歩引いた。

その身影が林の暗がりに溶け込み、炎が背中に二度揺れてから、静寂に帰した。


「またお会いしましょう」


「あなたは俺の名前を知っていた――ここにいることも知っていた――」


暗闇は答えなかった。


イノはしばらく動けなかった。

篝火がかすかに二度跳ねてようやく、手の中の指輪に目を落とした。


そっと指輪をはめた。

奇妙なほど自然に馴染んだ。


月明かりの下、指輪がかすかに輝いた。


(母は今頃、すごく心配しているだろうな。)


四方を見回したが、周りはやはり見知らぬ景色が広がっていた。


「で……どうやって帰るんだ?」


声に出した瞬間、自分で苦笑いした。


「最初に聞いておけばよかった……」


——————


イノは篝火を踏み消し、身体の土を払い、足を踏み出した。

方角はわからなかった。

ただ感覚を頼りに前へ進んだ。


最後の木の影を抜けると、月光の下に荒野が広がった。

見慣れた地形が眼前に現れた。

ロワク城の南西、山麓の林地で、農地の境に近い。


(おかしい。)


イノは足を緩めた。


林の縁に立ち、後ろを振り返った。


背後の林は黒く深く静まり返っており、

あの篝火の跡も、彼女がいた場所も、もはやどこにも見つからなかった。


木の枝は乱れ、葉は裏返り、何もかもが素知らぬふりをしていた。


でも手の指輪はある。

腰の傷もある。

衣の血もある。


イノは少しの間立ち尽くし、首を振った。


「もういいや」


足が速くなった。


低い田畑を抜けると、遠くに見覚えのある農舎が見えた。


その家の前に、一人の人影が立っていた。


松明を手に持ち、白い外套を纏い、鎧が月光の中でかすかに輝いていた。

イノに背を向けたまま、石像のように動かない。


(リオン?)

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