序章
読んでくださる皆さまに、心から感謝します。
蒼鷹が雲の切れ間から翼を広げ、雪に覆われた山稜を掠めた。
帝国の大地を見下ろす。
冬雪がすべてを覆い隠していた。
町の輪郭はぼやけ、村々は消えかけた燭火のように点在し、川は凍りつき、林は枯れ果てていた。
精霊の時代に輝いていた光は、百年の戦火にすべて飲み込まれた。
帝国と東方諸国は手を結び、かつての支配者たちをイヴレイルの幽き森へと追い返した。
蒼鷹は旋回し、城壁の上を掠めて滑る。
石畳の道では、鉄の蹄と車輪の跡が霜雪を砕いていた。
帝国の各地から黒煙が昇る。
国境では烽火が次々と灯され、大地に走る細い裂け目のように連なっていた。
蒼鷹は翼をたたみ、急降下する。
山と谷を越え、地を掠めて飛ぶ。
焦土と崩れた廃墟の上を越え、塵の中で祈る人々の姿を見た。
壊れた橋の下を、人の列が流れていた。
そこには赤子の泣き声と、甲冑の軋む音が交じっていた。
帝国は、二つに裂けた。
人はそれを
鉄樺の乱と呼んだ。
――――――
教会は廃墟となっていた。
天井は崩れ落ち、裂け目から吹き込む風が、砕けた雪を床に積もらせている。
神像は半身だけを残し、石の台座には霜が広がっていた。
一筋の天光が裂け目から差し込み、神像の足元に冷たい静寂の光を落としていた。
蒼鷹は断えた軒先に止まり、下を見下ろす。
神像の前に、一人の男が伏していた。
衣は裂け、血が全身に滲み、傷は骨が覗くほど深かった。
彼は震える手を伸ばし、その冷たい石の足に触れようとした。
雲が重なり、神像に残っていた最後の微光も消えた。
血が彼の身体の下から広がり、雪を赤く染めていく。
やがて彼の手は力を失い、落ちた。
極めて淡く、極めて軽い、一粒の余燼のような微光が高いところから落ちてきた。
蒼鷹は再び翼を広げ、遠い空へ飛び去る。
その下で、一人の女が瓦礫の間を歩いていた。
髪は絡まり、顔の片側は火傷の痕で覆われている。
腕の中に黴の生えたパンを数切れ、固く抱えていた。
風雪の中を、崩れた教会へと向かっていった。




