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クラスのクール美少女が、俺の弁当以外は食べないと宣言した件について  作者: もかの


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第3話 とってもおいしい!

「やべ、課題やってない。蒼汰見せてくんね?」

「お前……これで何回目だよ」


 翌日の昼休み。

 俺の一つ後ろに座る、高校からの親友の倉田(くらた)(しゅう)に呆れつつ、その机の端に俺の弁当を広げる。


「……五回目?」

「残念、七回目だ。ほらよ」


 柊の未だ白紙の課題ノートに、俺の解答済みの課題ノートを重ねる。

 昨日綾乃にタッパーを渡してからやったものだ。

 綾乃ほどではないにしろ、俺も将来自分が困らない程度に学習をするのはさほど苦ではないからな。


「神ー! やっぱ持つべきは頭が良い友だぜ」

「前日までに課題終わらせる脳こそ持つべきだろ」

「したいとは思ってる」

「やんないと意味ねえっての……」


 必死に答えを写す柊を眺めながら弁当をつまむ。


 肉じゃがやきんぴら、ポテトサラダなどが詰まった弁当。すべて俺の手作りだ。

 食欲旺盛な男子高校生が安くで満腹食べるには手作りが一番いい。

 ちなみに昨日綾乃に渡したのはこの弁当の残り物である。


「相変わらず美味そうだよなぁ……」

「料理に対して相変わらずって言うの、成長してないみたいでちょっと失礼だよな」

「うわっ、めんどくさっ! 衰えないのも努力の賜物だと思うけどな」


 少し皮肉めいたことを言ってやろう、と思っていたのだが、柊のイケメンな返事に思わず言葉に詰まってしまう。

 こういうことをさり気なく言えるのは、柊の美徳だと思っている。


 顔も悪くないのだから、あとは普段からもう少し真面目にしたら女子からモテると思うんだけどな、と昼食もほったらかして課題を写す柊を見ながら思った。


 そういえば、今日の綾乃は友達数人と学食に行っていた。

 さすがに学食に行ってまで食べないなんてことはない……いや、綾乃ならあり得るか……?


「ん? どうした?」

「いや、今日も弁当美味いなって」


 タッパー返してもらう時に問い詰めよう、と心に決めながら適当に誤魔化す。


「なんだよ自画自賛かよ。オレにも分けてくれ」

「課題終わってないしなぁ」

「すぐ終わらせるから! 何卒ーっ!」


 柊は課題の先にある報酬に目を輝かせ、課題をする手を一段とスピードアップさせた。

 別にあげるとは言ってないんだけど、とため息をつきながら、俺は静かに弁当を食べ進めた。



 ◇ ◆ ◇



 個人経営の喫茶店でバイトを終えて、時刻は午後八時過ぎ。


「あ。そうだった」


 俺の部屋があるマンションの三階まで階段で上がると、俺の部屋の前で綾乃が居心地悪そうに立っていた。

 両手には昨日渡したタッパーを大切に持っている。バッグは持っていないが制服のままだったので家に帰ってすぐ来たのだろう。


「あっ」


 俺の足音に気が付き振り返った綾乃が声を漏らす。


「ごめん。今日バイトってこと言ってなかったな。待った?」

「いえ。私も今来たばかりです」


 デートみたいだな、と笑うが口には出さないでおく。


 バッグから部屋の鍵を取り出し、ドアを開ける。

 相変わらず神が描いたように綺麗で可憐だなと思いつつ、その顔に宿る生気や血色がよくなっていることに安心する。


「ちゃんと食べてくれたみたいで安心した。約束通り、昨日のことは言わないから安心しろ」

「あの……それもほんとに嬉しいんですけど」


 昨日の脅迫じみた約束のことを一番気にしていたと思っていたが、綾乃は少し食い気味で否定してきた。


 どうしたんだと振り返ると、


「その…………、すっごい美味しかったですっ!」


 綾乃は普段の『クール美少女』からは考えられないほど興奮した声色とキラキラと輝く瞳を浮かべながら、俺にぐいっと詰め寄ってくる。

 至近距離にいつもよりも感情をあらわにした綾乃の顔が来て、思わずドキッとしてしまう。

 普段冷静な人が、その綺麗な顔で子供みたいにはしゃぐのはズルいだろ……。


「最近、お弁当とかも食べれてなくてお惣菜ばっかり買ってたんです。だから、家庭的な優しい味のする桐原さんのご飯が、お腹が満たされるどころか安心すらもしちゃって……」


 しかし、俺の葛藤など気づいていない綾乃はその後もたくさんの感想を述べてくれる。

 正直、既にあんまり耐えられそうにない。


「それに……、余り物って言ってましたけど違いますよね? きんぴらさんとかポテサラとか、作りたての温かさでしたもん」

「…………驚いた。よく分かったな」


 綾乃が言ったように、昨日渡したものは全て「飯を分けてやる」と言ったあと帰宅してから作り始めたものだった。

 とはいえ、もともと今日の弁当のために作ろうとしていたものではあるが。


「そういうのは気づかなくてもいいのですよ、お嬢さん」

「す、すみません……」


 素直に謝る綾乃。

 俺の中の『クール美少女』が次々と覆される。

 今目の前にいる少女が、まったく別の美少女に思えてきた。


「ただ、一つ気になったことがあって」

「というと?」

「味付け、私のためですか?」


 俺は思わず目を見開く。


「あ。やっぱり」


 それを見て、綾乃は口元に手を添えながら上品にクスクスと笑った。

 表情に出すぎたことを後悔すると、また綾乃に笑われてしまう。


「桐原さん。濃い味付けの方が好きというのを以前お聞きしたことがあったのに、昨日頂いたご飯はみんな薄味で優しくて……。私がご飯全然食べてないって言ったから、少しでも食べやすいものにしてくれたのかな、なんて思っちゃいました」


 俺は一体、何度驚けば良いのだろうか。


 気づかなくていい気遣いをすべて言い当てられてしまった。

 バレた恥ずかしさと悔しさ、そして心のどこかで感じる「嬉しい」という気持ちが複雑に交錯し、自然と笑顔が溢れてきた。


「……気づいても言うもんじゃないだろ」

「すみません。でも、すっごく嬉しかったってことを伝えておきたいなって、今日ずっと思ってたんです」


 タッパーをそっと抱き締めながら微笑む綾乃。

 その姿は可愛くも美しくもあり、そしてほんのりと感じる『クール』らしさ。

 こんなにかわいらしい少女を眺めることすら耐えきれなくて、頭をぽりぽりと()く。


 それに、料理を作った人間としてこれほどまでに嬉しい感謝の言葉はなかった。


 照れて少し顔が赤くなっている気がして、それがバレないよう無造作に綾乃の手からタッパーを奪い取る。

 その乱暴な仕草に綾乃は一瞬ぱちりと目を見開く。その時、客観的に見て自分が今何をしているか気づくと、ぼっと顔を赤く染めてしてしまった。

 普段クールだからこそ、かなりの羞恥に襲われたのだろう。

 それはクールという言葉とは対極で、初めて見るものだった。


「ちょっと待ってろ」


 いたたまれなくなった俺は一言残して家の中に入っていく。

 別のタッパーに料理を綺麗に詰めて蓋をして、玄関に帰ってくると、綾乃は『クール美少女』に戻っていた。

 あまりの変化に小さく笑ってしまう。


「ん」

「え、いやなんでまたタッパー」

「ちょっと元気そうな様子見て俺も安心したし、美味いって言われると作り手は調子乗るんだよ」


 それっぽいことを言って「今渡す気になった」ことを伝える。

 とはいえ、察しがいい綾乃ならもともと準備していたこともバレてそうだけどな。


「ほんとにありがたいのですが……またタダでもらうのは、その」

「ははっ、そんな顔浮かべながら言うなよ」


 拒む綾乃の顔には、昨日のような申し訳なさと戸惑いよりも「また食べられるんだ」というキラキラしたものが浮かんでいた。


「いいよ。一人暮らしが作る料理なんてどうしてもちょっと多くなるもんだし。綾乃がめっちゃ食べるーとかだったら考えるけど」

「いやそれでも……」


 お金関連の話、ということもあるだろう。

 そのあたりは、かなり律儀そうな綾乃のことだ。なかなか頷いてくれない。


 しかし、俺としてもお金をもらってまで食事を分ける気にはなれない。

 そういう契約じみた関係にはしたくないと思っている。


 ……あっ、そうだ。


「ならさ」

「はい?」


 綾乃は首をコクンとかしげながら俺の言葉を待つ。


「代わりに勉強、教えてくれない?」

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