第27話 子供扱い
「ホットケーキ、ですか?」
昼食の準備をしようと食品棚を見ていると、後ろから綾乃が覗いてくる。
ちょうどホットケーキミックスの粉を手に取ったところだった。
「いやー……どうする?」
「あ、決めたわけじゃないんですね」
「せっかく綾乃といるんだし、なんか一緒に作れるやつないかなー、と」
「子供扱いしないでください」
「でも一緒にできたら楽しくない?」
「……別に楽しくないですけど?」
「意地張ってるとなおさら子供っぽいな」
「やっぱりバカにしてます!!」
ちょっとからかうと背中をぽこぽこ叩かれる。
痛くはないけど接触手段と取られると抵抗できないので、このくらいにしておく。
「ま、せっかくだしホットケーキしよっか。俺一人じゃあんま作んないし」
「それにしてはたくさん買ってますね」
「クッキーの方がよく作るから」
「……私より女子力高いのよくないです」
「今度料理教室でもしようか?」
「いいのですか? もうすぐ期末考査ですよ?」
「……期末のあとな」
「ありがとうございます。しょうがないのでお勉強は教えてあげます」
そう言うと、褒めるかわりに頬をつついてきた。昨日から明らかにスキンシップが増えてないか?
振り返ると必死に腕を伸ばしている綾乃の姿。
「そういえば綾乃って身長いくつなの?」
「なんですか、低身長煽りですか」
興味本位で聞くとこれでもかと睨まれた。言われてみれば前も一回同じような会話したっけ。
「違うって。俺とだいぶ差があるから気になっただけ」
「……そういうことにしてあげます。たしか一番最近のやつだと……一四七センチだったかと」
俺と二〇センチ以上差あるのか……そりゃこれだけ綺麗な顔でも子供っぽく見えるわけだ。
小動物みたいに愛でたくなる感情もしょうがないと思う。別に正当化しようとしているわけではないが、そりゃ頭撫でたくもなるだろう。
正当化するつもりはないが。
「やっぱりバカにしてますね」
「何も言ってないけど」
「なんかもう、雰囲気が」
「えぇ……?」
「小動物みたいとか思っているんでしょう?」
「なんで分かったんだ」
「ほらやっぱり」
話しながら小袋をいつくか取り出して綾乃に渡す。冷蔵庫から卵、牛乳を取り出し、全てボウルに入れる。
そして、
「はい」
と言って泡立て器を綾乃に渡した。
「綾乃ちゃんにできるかな?」
「ちゃん呼びしないでください、子供扱いしないでくださいっ! 混ぜるだけなら私にもできます!」
小馬鹿にしたニュアンスを語尾に含めながら尋ねると、「ぷんぷん」という効果音がお似合いなキレ方で混ぜ始める。
最初は順調に全体を馴染ませながらかき混ぜていくが、段々と形になっていき重さが増してくると、力不足で動きが鈍り始めた。
「これは私が悪いのではなくて」
「まだ何も言ってないけど」
「先読みです」
「綾乃、混ぜる手が遅くなってるぞ」
「結局言うんじゃないですか!」
またちょっとからかえば必死にかき混ぜだした。
……クールの一面、もともと剥がれ出してたけど、もっと無くなってないか?
綾乃が頑張ってくれている間に俺はフライパンを取り出し、バターを乗せて火をかける。別に凝ったものにするつもりはない。綾乃と一緒に作った、それだけで少し特別になるくらいだしな。
そうして、しばらく見守っていると。
「……桐原さん」
「なんだい綾乃くん?」
「これはギブアップではなく、戦略的撤退のようなものでしてね。別に厳しいわけじゃなくて、桐原さんがやったほうがいいんじゃないかと思って」
「うんうん、そうだね」
「……桐原さんの悪い癖です」
そう言いつつもほとんど混ぜられている。頑張ったのか意地なのか、それとも両方なのかは分からないが。
最後に俺が軽く混ぜ、おたまで救ってフライパンに流し込む。少しずつとって小さな丸をいくつか作るのが俺のやり方。
というか、バイト先で勉強した。
「……なんかいろいろ小細工やってます」
「生地を流し込む前に熱して冷ましただけです」
「そういうのはバイトで学んだのですか?」
「これはそうだな。作る練習はもともとしてたけど、それをさらに美味しくするのはバイトで教えてもらった」
とはいえ喫茶店で出すものだけになるけどな、と笑っておく。
小さなホットケーキを次々と仕上げていった。
それを三枚重ねて上から蜂蜜をかける。
「うわぁ……綺麗……」
「どーぞ」
俺の分も作り上げてリビングに座ると、綾乃は早速フォークで刺して口に運んだ。
「美味しいですぅ……」
本当にクールはどこに行った?
「それは何より」
「……いけません。また子供扱いされてしまいます」
「よくわかったな」
「でも、おいしすぎるのがよくないと思いませんか?」
「開き直らないで?」
「というのもですね」
何やら話題が切り替わりそうな綾乃に耳を傾ける。
「子供扱いするなら……もっとしたっていいと思いませんか?」




