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クラスのクール美少女が、俺の弁当以外は食べないと宣言した件について  作者: もかの


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第25話 ぎゅっ。

 ふと、全身に感じる感覚がいつもと違うことに気づいて私は目を覚ましました。

 視界に映るは黒の布地。明るい部屋と安心する匂いに、桐原さんの膝の上で寝たことを思い出した。


 視線だけ上に上げると、桐原さんも時折「すぅ……」と寝息を立てながら眠りについていた。


「か、かわいい…………」


 桐原さんはあんまり顔に感情を出さないタイプですから、普段はカッコいいしかない。

 それでいてお料理できるし、家事能力もすごく高いし、お優しいし、たまに見せる拗ねた姿とかずるいですけど。


 どこか蕩けた顔で眠りにつく桐原さんはこどもっぽくてすごくかわいいです。


 吸い込まれるように見つめていると、髪が目に垂れてきた。

 それをどかすように持ち上げると、私の頭に乗せられていた桐原さんの手に当たりました。


 もしかして私が寝ている間も桐原さんが眠ってからも、ずっと頭を撫でてくれたのでしょうか……。


『蒼汰くんのこと、好きなの?』


「んぐ……」


 タイミングが悪いことに、葵さんの言葉を思い出してしまった。


 桐原さんが撫でてくれるのも触ってくれるのも、すごく落ち着くし安心できるし、好きです。

 でもやっぱり……。


 葵さんに言われてから、体育祭にいる間も何度か意識してしまって考えていました。

 けど、その時は毎回中学のことがよぎってしまいます。いえ……それより前のことも、です。


 桐原さんのこと、人間としては大好きです。

 そうじゃないとこんなに甘えたりしないし……、ちょっといじわるしたくなったり、女の子としてズルく接しようなんて考えない……ですもん。


 それが「異性としての好き」に変わるのが怖いのかもしれません。

 だから──今の関係が心地良い。


「でも、もし……」


 ──……もしいつか、改めて「異性としての好き」になれたのなら……。


 桐原さんの頬に手を伸ばし、添える。

 上から下になぞって……最後に少しだけ、その唇にそっと触れた。


「その時はちゃんと、たくさんアピールしちゃいますからね?」


 覚悟しててくださいよ、と付け加えて手を離した。

 私の頭に乗る桐原さんの手を起こさないようにおろして起き上がる。


 時刻はもうすぐ日付を跨ぐという頃。

 そろそろ家に戻ったほうがいいですかね。そう思いながらスマホに映る時計と、かわいらしく眠る桐原さんを交互に見る。


 …………まだ、一緒にいたいな。


「……うん、家主が寝てるのに勝手に帰るのはよくないですよね」


 そう自分に言い聞かせて、桐原さんの隣に腰を下ろした。


 誰かを好きになる。それはまだ怖いけれど、ずっとずっと誰にも甘えてこれなかった人生だったのですから、もっと甘えていいですよね?


「ふふ……眠っている桐原さんが悪いのです」


 隙間が出来ないくらいぴったりくっついて、桐原さんの肩に頭を預ける。

 桐原さんの匂いと、ボディケアのミルクの香り。それに……これはヘアオイルなのかな? ずっと包まれていたいです。


 私がいなくなって行き場を失った桐原さんの手を、指を絡めて握って桐原の膝に乗せる。

 温かい……それに、すっごい大きい。

 私よりもゴツゴツした、男性の手。それだけで少しドキドキする。


 私より一回りも二回りも大きなからだ。

 頭を肩に乗せようとしても、二の腕あたりに耳が当たってしまう。それも桐原さんの存在をよく感じられて、なんだかニヤけちゃいます。


「こういうの、好き……っていうのかな」


 まだ答えを見つけられない問に悩んで、そんな自分に笑ってしまいます。

 誰よりも大切に想っている自信はあるのに、それ以上を求めてるなんて。


 そうやって桐原さんを堪能していると──


「あやの……?」


 いつもよりも低くて、いつもよりも呂律が回っていない桐原さんの声。

 寝ぼけているみたいですね。


「どうしました?」

「ん……、呼んだだけ」

「か、かわ……」


 かわいすぎませんか……っ。

 なんとか声には出さずに、桐原さんの頬をつつこうと腕を上げると、


 桐原さんが私の背中と膝の下に腕を回して、簡単に持ち上げられてしまいました。


「…………へっ!? あの……桐原さん……っ!」


 腕を伸ばした動作が、まだまどろみの最中にいる桐原さんには『だっこ』と間違えてしまったのかもしれない。

 ……しれないですけど! 急にそんなことされた困ります……っ!


 私の抵抗なんて目に入らない桐原さんは、そのまま私を膝の上に乗せてしまう。


 桐原さんにまたがるように座った。定規一つすら入らない距離で桐原さんと目が合う。

 もとの身長差もあり、同じ視線の高さで見つめ合った。鼻と鼻が、次の瞬間には触れ合いそう。


 そして桐原さんは──、私の背中と腰に腕を回してぎゅっと抱きしめました。


「桐原さ──……っ、んっ」


 今度はちゃんと、桐原さんの肩に埋まってしまいました。

 そして桐原さんは──そのまま、また寝息を立て始めました。


 き、急に抱きしめるのはずるい、です……!

 それに全然逃がしてくれない……す、すごく密着してしまってます……。


 鼓動の音がどんどん大きくなる。速くなる。

 全身が熱い。すごくどきどきする。でも、ずっとこの温もりを求めていた。


 また、私ばっかりご褒美もらっちゃいました。


「寝てる、んですよね……」


 リズムよく胸がふくらむ。

 狸寝入りじゃないことを確認して──、私も抱きしめ返しました。


 ぁ…………。


 ──全身で感じる暖かさ。


 強く、もっと桐原さんを感じるように抱きしめる。


 ──守ってくれる安心感。


 肩に顔を押し付けて、桐原さんに包まれる。


 ──私を受け止めてくれる、大きなからだ。


 ほかの誰に近づかれても恐怖心を感じてしまうのに、今じゃ一人で過ごすよりも落ち着きます。


 ──隣りにいてくれる心地良さ。





「────……好きです。桐原さん」





 消え入るような声でした。

 でも、それでいいのです。

 たとえ今は寝ていても。この状況を望んでいなかったとしても。


 桐原さんにだけは、聞こえるように。


「たぶん誰よりも、あなたのことが好きなのかもしれないよ」


 誰にも渡さないともう一度強く抱きしめて。

 私は自分の気持ちを理解しました。

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