第24話 クール美少女を膝枕
俺の足を枕に寝転がる綾乃。横に並んでいたまま倒れてきたので、反対を向いているその表情は伺えない。
今は結んでいない黒髪が広がり、甘い香りが鼻をかすめる。幸せの重さを感じる太ももは嫌な気分ではない。
「すまん! 痛くないか!?」
しかし想像もしていなかった事故なので、綾乃が大丈夫なのか心配だ……
「痛くない、ですけど……」
「けど、なんだ? もし何かあったらすぐに──」
「これ、すごく気持ちいいです」
俺の焦りも気にしないで、綾乃は頭をごそごそと動かしてベストポジションを探し出した。
膝の上で振り返り、俺のお腹が見える体勢になると、右手で太ももを緩く撫でるように添えた。
気持ちよさそうに細める瞳。
安堵の息を細く吐く唇。
先ほどまでの熱が冷え切らない、上気した頬。
甘えてくるいじらしい姿が全て眼下に広がる。
それをただ眺めているだけ……なんて、そんな理性を残す余裕はなかった。
ぷにっ。
「んぇ?」
「ごめん」
綾乃の頬に左手を添える。
健康的な白さで触り心地の良さそうな頬を撫でるようになぞる。
「すべすべぷにぷに、赤ちゃんみたい」
「それは褒めてるんですか」
「それはもう最大級に」
「なら許しましょう。お風呂上がりで軽く保湿とかもしてきましたし、普段よりぷにぷにです」
「最高じゃん」
軽く押してぐりぐりしてみれば、唇をとがらせて表情を変える。
ゆるくつまんで引っ張ってみれば、気持ちよさそうに目を細めた。
猫を撫でるように手を動かしたり、つついてみたり……俺が手を動かすとかすれるような「ん……」という声が漏れる。
されるがままに受け入れてくれる綾乃が、同級生ながらも愛おしくてしょうがない。
今日の昼休みのこともあってか、普段以上にクールの一面が剥がれていた。
甘えるように体を動かし、体を動かして人肌を求めてくる。
それどころか綾乃は、空いていた俺の右手を掴んで自分の頭の上に乗せた。
「ふふ……こうすると、桐原さんに包まれてるみたいです」
「いやそれよりもさ、俺シャワー浴びたくらいだけど髪の毛触っていいの?」
「全然いいですし、そもそも桐原さんはちゃんと洗って化粧水とかクリームとかもしてるでしょう?」
「なんで知ってるんだ」
「桐原さんの匂いと一緒にミルクの香りがほんのりしますもん」
女の子は細かな変化にも敏感だと聞くけれど、匂いにまで気づくものなのか。
……いや、これだけ密着しているからか。俺も綾乃の甘い匂いと微かに柑橘系の香りが分かるし。
「俺の匂いって……臭くないことを祈るけど、綾乃に移るだろ」
「臭くないのは当然だし、そもそも匂いも強いわけじゃないですよ? ただ、安心しちゃう匂いなんです」
「物好き」
「そうかもしれませんけど、それでもいいですね。私だけが独占しちゃいます」
「独占しすぎて綾乃の香り上書きされたら嫌だからダメ」
というより、どうやって独占するのかの方法が怖いのでやめておく。
これ以上のスキンシップは全部あぶない。
「なら私のは桐原さんに押しつけないと」
「……ちなみにどうやって?」
「それは…………そ、れは……」
小悪魔モードに入っていたので、流れに飲まれないように聞き返しておく。
そして、何を想像したのか顔を赤くして伏せてしまった。
伏せても俺の膝の上なんだけど。
「…………桐原さんがしてほしい方法で?」
するとまた俺のお腹を見るように体を動かして仰向けになると、俺の目を見ながら聞いてきた。
自分が言わなくていいよううまく聞いてきたつもりなのだろうが、それが一番心臓に悪い。
「俺が悪かったです」
「えぇ……」
反応からして本当に聞いていたのかもしれないが、ほっぺたを指でぐりぐりすると静かになった。
今度は自分で綾乃の頭に右手を乗せて、艷やかな黒髪を撫でる。
丁寧に手入れされていて気持ちいいが、ケアを損なわないか怖いので触れる程度に留めておく。
「ん……、ねむ……たくないですよ?」
「なんで強がるんだよ」
「ま、まだ帰りたくないです」
「そうは言っても。ってか、今日ずっと眠いだろ」
「な、なんでバレてるんですか……?」
「寝ぼけてるみたいな甘え方だったもん」
「う……」
「体育祭があったもんなぁ。寝る?」
「…………このまま寝ても?」
「俺がお嬢様の枕となりましょう」
その後、髪やほっぺたを触りながら少し話をしていると、綾乃は寝息をたてはじめた。
神様が描いたような顔とは綾乃のことだろうな。
小さく吐く息。綺麗に整えられた顔に垂れる深い黒の艶髪。
誰もが認める『美少女』が俺の膝枕で寝ているというのは……なんとも言えない気分だ。
顔をかかった髪をどかしてあげると、「んぅ……ん」とか細い声を出して口元が緩む。
「もうちょっと……意識してもらわないとなぁ」
綾乃の頭を撫でながら、ソファの足を背もたれに俺も目を閉じた。




