第22話 二人だけの打ち上げ
「改めてだけど、お疲れ綾乃」
「桐原さんもお疲れ様です」
夜になって、俺の部屋に綾乃が来た。
やはり綾乃も打ち上げは不参加であった。
「打ち上げは良かったのか?」
「ああいうのは、仲がいい方同士でするのが楽しいでしょう。私が行っても変に気を使われるだけですよ」
「綾乃に来てほしい人たくさんいると思うけどな」
「それ含め、別の意味で気を使ってるでしょう?」
「たしかに」
綾乃と無理やりにでも話そうとする人たちもいるだろうし、打ち上げの雰囲気が悪くなりそうだ。
人気者も大変だな。
「そもそも、桐原さんも同じ理由でしょう?」
「ま、だいたいそんな感じ。綾乃と過ごす方が俺としても嬉しいな、と」
「よかったです」
「よかった?」
「私も、体育祭終わりは桐原さんとゆっくり過ごしたいなと思ってましたので」
部屋着姿で言う綾乃。
体育祭で汗をかいただろうから風呂を済ませてから来るのは当然なのだろうが、一段と同棲感が増すので鼓動が速くなってしまう。
しかし、ここまで直接的に『一緒に』を求められたことはあっただろうか?
…………意外とあった気がするが、思い出さないでおく。
「そうだ。今日のお弁当もとっても美味しかったです。ポテサラさんとか、初めてお食事をいただいた時のことを思い出しました」
「綾乃って、たまごやきとポテサラが好き?」
「な、なぜそれを……」
「教室で特に嬉しそうな顔してた」
『とっても嬉しそうな顔をしていますよ』
そう言ってくれた時、綾乃のクールな仮面も少しだけとろけていた。
関わり始めてから、意識して表情を出さないようにしていることが分かるようになった。
でも弁当を食べている時は、自覚がないようだが幸せそうな笑みを浮かべていた。
『──……あぁ、すごく嬉しいよ』
俺のあの言葉は、柊と胡桃が喜んでくれたこともあるが、俺が綾乃のクールな一面を超えるほどに大きい存在になってくれていることが嬉しい。
そんな意味も込めていた。
「っと、そういえばあの二人も打ち上げ行かなかったんだな」
キッチンに向かいながら、思い出したことを質問する。
卵料理が好きだと綾乃から聞いたので、今日はオムライスを作る予定だ。
「倉田さんと葵さんですか? そういえば二人で帰っていましたね」
「家近いんかな」
「お隣さんでしたよ。以前葵さんのおうちにお邪魔した時、倉田さんとお会いしましたので」
「え、そんなことしてたの?」
「遊びに行ってました」
綾乃は流しに弁当を置きながら言う。
最近一気に距離が近くなったなと思ってたけど、まさかそんな事があったとは。
いや、そりゃそうだよな……。
俺との距離がおかしいだけで、別に綾乃のプライベートも大事だし。
「……あ、あの」
「ん?」
「いえ……顔をしかめておられましたので……」
気づかないうちに顔に出ていたらしい。
「いやその……変なこと言うけどさ」
「はい」
「なんか、俺のいないところでもいろいろあるなぁと思って」
最近、学校以外の時間ではほとんど綾乃と一緒だった。
夕飯は俺の家に来るし、その後綾乃が部屋に帰っても通話している。
客観的に見ても生活の一部になっているし、そもそも近頃は学校でも話すようになったのだ。
だからこそ、俺の知らないところでも綾乃の生活があると思うと────
「ふふ、かわいいです」
「え?」
料理する俺の隣で洗い物をしてくれていた綾乃。
想像していなかった言葉に思わず聞き返す。
「そんなに私と一緒がいいですか?」
「い、いや、そういうわけ……ではあるんだけど、別に束縛しようとしてるわけじゃなくて」
「そういうわけではあるのですか」
「それは、まぁ。一緒が嫌な奴はいないと言うか。それはいいとして! 胡桃に嫉妬するような男じゃないから。綾乃との時間が増えたけど、ちゃんと自分の時間は取れてて良かったな、と」
これも本音だ。
綾乃から「ご自身を優先して」と言われているように、俺も、俺のせいで綾乃の行動が制限されるようなことはしたくない。
「では殿方とお会いしていたら、桐原さんは嫉妬してくださるのですか?」
「っ、それは………」
おそらくは、いや、間違いなく嫉妬すると思う。
俺がどうこう言える権利がないのは十分に分かっているが……そういう理屈じゃなくて、気持ちが嫌だ。
「分かりやすいですよね、桐原さんは」
「……俺、柊とかからも無愛想ってよく言われるんだけど」
「じゃあ私の前では分かりやすいということです」
「それは綾乃もだろ」
「そうですよ? でも、そんな姿を見せるのは桐原さんの前だけです。倉田さんや葵さん、クラスの皆さんにも絶対に見せません」
俺の葛藤に気づいていた綾乃は、その心配を力強く否定してくれた。
これには「俺だけ」と言ってくれた恥ずかしさよりも嬉しさが勝つ。
「だから、嫉妬してくれてもいいのですよ」
「それはキモいだろ。さすがに」
「桐原さんの嫉妬はかわいいので、むしろしてください」
なぜか怒るように言う綾乃。
自分ばかり弱いところを見せたくないのかもしれない。
「ならそうさせていただきます。お嬢様」
「ふふ。ありがとうございます」
◇ ◆ ◇
「……桐原さん」
「どーした」
「なんで当たり前にケーキが用意されているのですか」
「お疲れ様会だし」
「『だし』、じゃないですっ」
オムライスを平らげたあと、綾乃の驚いた顔を見るため何も言わずにケーキを冷蔵庫から取り出すと、案の定焦ってくれた。
黒瀬に言われた準備とはこのことだ。
「さ、さすがにお金を……」
「いやこれ、バイト先の喫茶店で貰ってきたものだからいいよ」
「あ、そういう……桐原さん喫茶店でバイトされてたのですね」
「言ってなかったっけ」
「初耳です! でも……ありがとうございます」
目を輝かせる綾乃を見れただけで、もう既に無料以上の価値が生まれている。
リビングに座り綾乃は早速ケーキを一口食べる。
ショートケーキのいちごを頬張り、そしてそのままケーキ本体もフォークに乗せる。
口にいれるたびにとろける顔。
その顔を見るのに夢中でいると、綾乃の頰が少しずつ赤くなっていく。
「あの……そんなに見られると、恥ずかしいです」
「気にするな」
「き、気にするな!?」
「今日昼休みに男子たちのせいで綾乃の笑顔見れなくなった嫉妬」
「あ、ずるい……っ」
「でも、残念な気持ちは本当だから」
綾乃の幸せそうな顔を見れるから弁当を時間が好きだったのに、今日は邪魔されてしまった。
その分を味わいたいと思うのは変なことではないと思う。
クラスではあんなにクールに振る舞っていたのに、今じゃ幸せで溶けたり、顔を赤くしたり。
俺の前でしかしないという背徳感が湧いてくるが、それも俺の幸福に繋がる。
「…………それでしたら」
「ん?」
自分で話を切り出したのに、より一層顔を赤くする綾乃。
口元を手で覆いながら、綺麗に整えられた前髪から俺を覗いた。
「今日はもう少し、一緒にいてもいいですか」
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よければ!




