第21話 体育祭お疲れ様
「優勝おめでとーっ!」
胡桃は教室に入るやいなや、拳を突き上げて飛び上がった。
男女混合リレーもブロック対抗リレーも俺たちのブロックが上位入賞し、見事優勝を勝ち取った。
一年生たちも好成績を残したことが勝因に繋がった。
綾乃に関して言えば、現役運動部員たちを相手に遅れを取らず、しかも順位を一つ上げることすらできていた。
授業の体育で文武両道というのはよく知っていたが、これほどすごいとは知らなかった。放課後のランニングなど、努力を知っているからこそ、なお尊敬する。
「黒瀬、おつかれ」
「ありがとー。最後の見た?」
「見た見た。一年生アンカー、一人抜き去って堂々の一位。流石としか言えないな」
「だろ!? うちの優希はすごくてよぉ!」
教室に帰ってきた黒瀬と話していると、後ろから勢いよく柊に抱きつかれる。
「柊、暑い」
「えぇー! いいじゃんかよぉ! 喜びを分かち合おうぜっ」
「でも倉田って順位一つ落とさなかったっけ」
「それは男女混合リレー! ブロ対じゃ維持したし?」
「プラマイぎりマイナスだろ」
「蒼汰ひどくないですか」
「ま、おれは順位上げたし」
「優希~! お前まで見捨てんなよぉー!」
柊が泣き真似をしながら俺の頬に指を押し付けてくる。痛いんだけど?
「そういえば、倉田は打ち上げ来る?」
「あー、どうしよ」
「柊なら即答『行く!』だと思ってたんだが」
「え、蒼汰は行くのか? なら行こっかな~」
「いや行かんけど」
「なんだよ。まーオレはあお次第かな」
ようやく柊から解放された俺は自分の席に座る。
しばらく自由時間なので、クラスメイトたちも別のクラスの遊びに行ったり、談笑したりとおもいおもいに過ごしている。
柊も自分の席に座り、黒瀬は柊の椅子に割り込むように座る。
「優希あついー」
「功労者に座らせてくれよー」
「くっ……それを言われちゃなんも言えんな……座り給え」
体育祭であまり良い結果を残せなかった身として椅子から立ち上がる。
黒瀬は「くるしゅうない」と言いながら柊の席に深々と座り、柊は机に座った。
「てか、なんか胡桃と用事あったのか?」
「ん? なんで?」
「いや、胡桃次第って言うからにはそういうことなんかな、と」
打ち上げみたいなクラスの集まりは柊も好きだと思っていたので、すぐに頷かないのは意外だったが、その理由に胡桃が出てくるほうがとっぽど驚きだった。
「別に用事ってわけじゃねえけど……いや、用事ではある、のか?」
「どういうことだよ……」
「オレも詳しくは知らないけど、「体育祭の日の夜どっか打ち上げ行かない?」って言われててさ。それがクラスなのか、それとも二人でなのか分かんなくて」
隠すことでもないようで正直に話してくれた。
くれたが……これ、あんまり人に話していいやつじゃない気がするんだが。
そう思って黒瀬を見ると、やはり引きつった笑顔を浮かべていた。
「そういえばさ。今日の桐原めっちゃカッコいいじゃん。やっぱ体育祭だから?」
胡桃のためにも話題を変えようと、黒瀬は俺のことを話題に出す。
「柊と胡桃に朝イジられた」
「はっはー、感謝したまえ若人よ」
「さすがの二人だね。よく似合ってる」
「普段からカッコいい黒瀬に言ってもらえるのは嬉しいな」
「ねぇオレのこと忘れてる?」
「覚えてる」
「覚えてる上で無視してるってこと!? ひどいわ!」
「面倒くさいなコイツ」
「でも実際、他の女子たちからも高評価だったじゃん」
黒瀬の言う通り、体育祭中に何度か話したこともない女子から「似合ってるじゃん」とか「カッコいい」とかの称賛をもらった。
柊と胡桃にしてもらったことなので素直に嬉しかったが、どうにも居心地が悪かった。
「高評価だったからこそしばらくしねえよ」
「もったいない」
「女子に容姿を言われるのあんまり好きじゃないから。めんどい」
「めんどくさがらずにもうちょっと頑張ればモテモテなのに」
「モテたいとも思わないからな」
「綾乃さんに夕飯は作るけど?」
「それは……それも、モテたくてやってるわけじゃないし」
下心が無いからこそ今の関係があると思うし、実際昼休みに本人の口から聞くことが出来た。
綾乃の純粋な姿が無ければ――、今日みたいに女子に上手く言葉を返せたかもわからない。
それこそが、俺がわざわざ他県の私立高に来た理由なんだから。
「なーんっのはっなしーをしってるーのっ!」
そこで教室に帰ってきた胡桃が、机に座る柊の足を蹴飛ばした。
続いてその後ろから綾乃も帰ってくる。
「今日の蒼汰がカッコいいって話だ」
「ふふ、感謝するんだぞ若人よ」
「威張り方柊と同じじゃねえか」
「昔から息ぴったりだよね、倉田と胡桃は」
「別にそんなことないけど?」
「別にそんなことはないぞ?」
「ぴったりじゃん」
否定まで息ぴったりな二人に俺と黒瀬はケラケラと笑う。
でももし、胡桃の誘いが「二人だけで打ち上げしよう」ということなら、良いパートナーってことになるのかもしれないな。
「桐原さんの応援も、私しっかり聞こえてましたよ」
「俺も珍しく声を張ったからな。よかったよ」
「それに……その」
「ん?」
「そういえば言ってなかったと思うのですが、私もカッコいいと思ってます、よ?」
柊と胡桃が騒いでいる間に、綾乃は囁くように告げてくれる。
俺にしか聞こえない状況で教えてくれたまっすぐな褒め言葉に、他の女子のときは感じなかった恥ずかしさから「……あんがと」と小さく返すことしか出来なかった。
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