第20話 信頼できる男友達
「がんばれー!」
「ファイト!」
「絶対勝つぞ!!」
応援テントから声援を送る先には男女混合リレーの出場メンバーたち。
柊と胡桃が元気に手を振ってくる中、一人身体をほぐしている綾乃はなんとも綾乃らしい。
「隣いいかな?」
いつもの三人がグラウンドに行ったので一人で応援テントにいると、一人の男子生徒が俺の隣の空席に腰を下ろした。
「ん、黒瀬はリレー出なかったのか」
黒瀬優希。
同じクラスになり、初めて会ったときは名前通りの人だなと思った。
綺麗な黒髪黒目、誰にでも優しく物腰が柔らかい性格。その圧倒的なリーダー気質は『優希』という名に相応しい人格者だ。
「おれはあとブロック対抗リレーだけだよ。桐原はもう終わり?」
「そ。あいつらの応援して終わり」
「じゃ、一緒に応援しよーぜっ」
俺の腕に拳を当てて笑う。
学期初めから他人との交流が少ない俺みたいなやつでも、自分から接してくる良いやつだ。
裏表も感じさせない。だからこそ俺も安心して関わることができる。
「んでさ、綾乃さんとはどこで関わり始めたんだ?」
「……やっぱ気になる?」
「あったりまえよ」
競技のアナウンスを待っている間に黒瀬が聞いてくる。
他の男子たちのような妬みではなく、純粋な興味本位なのだろう。声色と表情からなんとなくそれが分かった。
「彼女持ちなんだから、綾乃さんを奪うつもりが無いことは分かるっしょ」
「それはそうだけど……って、別に綾乃は俺のものじゃねえよ」
「今はまだ、ってことね」
「お前さ」
「冗談だって」
花が咲いたような笑顔。見るものを照らす顔に、皮肉を言う気力は失われてしまった。
……まぁ信頼してるから別にいいか。
「前に忘れ物を取りに行った時に、たまたま綾乃が教室にいてさ。その時にいろいろあって俺が飯をやるって流れになったんだ」
「その"いろいろ"を詳しく聞きたいんだけど」
「俺は言ってもいいけど、綾乃の名誉がマズいのでここは秘密」
「ははっ! そこまで教えてくれれば、もう十分だよ」
いくら信頼していても、『クール美少女』のお腹の音という最大の羞恥を晒すわけにはいかない。
「ま、なんかあったらおれを頼ってくれてもいいからな。特にほら、今日みたいなことがあったらさ」
「それはめちゃくちゃありがたいな」
「その代わりって訳でもないけど、今度桐原んちに行ってもいい?」
「俺の家? 全然いいけど、一応なんでだ?」
「もうすぐ結月の──あ、おれの彼女の誕生日なんだけど、プレゼントの他になんかお菓子でもあげたいなーって」
黒瀬の彼女である花里結月は、俺たちとは別のクラスに配属されている。
顔は知らないが名前は聞いたことがあるので、黒瀬に「名前でも分かるぞ」と伝えておく。
そっか、誕生日か。
そういえば綾乃の誕生日知らないな……って、何考えてんだか。
「了解。いつでもいいぞ」
「さんきゅ! 体育祭終わったら連絡先交換しようぜ」
「おう。って、もう始まるみたいだな」
スタートラインに並んだ生徒たち。
胡桃は第一走者のようだな。
「胡桃ー! 頑張れー!」
ボルテージが上がってきた生徒たちに負けじと大声で応援すると、俺に気づいた胡桃が手を振って応えてくれた。
そしてピストルが鳴り、リレーが始まった。
「さすが胡桃。はやいね」
「だな。こんなにはやいのは知らなかった」
「中学も高校も、一応陸上部らしいよ」
「あ、そうなのか。そういや中学も同じなんだっけか」
「なんとびっくり小学校から」
「まじか。もしかして柊も?」
「正解」
そんなに長い付き合いだったのか。
まぁでも、それなら確かにあの接触も納得できる……のか?
「おっ、胡桃一位じゃん。ナイスー!」
「胡桃ー! お疲れー!」
二走者にトップでバトンを渡した胡桃。
めっちゃはやいじゃん。教えてくれよ。
「あ、そういえばさ」
胡桃の功績で、応援の声がさらに大きくなる中、黒瀬は俺にだけ聞こえる声量で話しかけてくる。
「今日の夜クラスのみんなで打ち上げしようと思ってるんだけど来る?」
「あー……俺は遠慮しようかな」
「ほんと? 多分倉田と胡桃は来ると思うけど」
「まだ分からんけど、綾乃は行かないだろ。俺はこんな性格だからさ、あんまり関わりがないクラスメイトよりも綾乃を優先したい」
「ひゅー、カッコいい。もしかして、もう何か準備してた感じ?」
「……悪いかよ」
「いや、尊敬するよ。それだけ尽くされたら綾乃さんも嬉しいだろうね。なんとなく弁当を渡す関係になった理由が分かった気がする」
馬鹿にするでもなく、尊敬してくれる黒瀬。
だからこそ誘いを断わるのは少し心が痛むが、せっかくだ。俺は綾乃を労いたい。
別におかしなことではないはずだ。




