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クラスのクール美少女が、俺の弁当以外は食べないと宣言した件について  作者: もかの


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第19話 一悶着

「これくらい、ですか?」


 沈黙を貫いていた綾乃が、男子生徒の言葉を聞いて口を開いた。

 ただの質問。しかし俺や柊、胡桃にとっては聞いたことのない声色で、この場が凍りついたような錯覚すら覚えてしまった。


 対する男子生徒は声の違いに気づかず、


「そうそう。別にバカにしてるわけじゃないけどな? ただ、綾乃さんがお弁当を頼むレベルはどんなのなんだーって期待してたから」


 火に油、いや、クール美少女に冷却スプレーを吹きかける。

 言葉の節々から感じる小馬鹿にした雰囲気は、直接的に俺を下に見る意図はないと思う。

 おそらく「俺の弁当は特別なものじゃない」の綾乃に思わせたいのだろうが…………


「ふふ……なるほど」

「「「(アッ…………ッ!)」」」


 キレてるなんてものじゃない。

 ブチギレていた。


「たしかに、特別なものではないかもしれません」


 クラスのざわめきはいつも通り。いや、体育祭の影響で少し騒がしいくらいだ。

 別に揉め事でもないし、言うならば丁寧な話し合いといったところだろう。


「誤解は招きたくないからもう一回言っておくけど、バカにはしてないからな?」

「えぇ、別にそこは気にしていません」


 綾乃の返事にどこかホッとした様子を浮かべる男子生徒。


 綾乃は分かっています、ではなく「気にしていません」と言った。

 それは分かった上で気にしていないということ。

 それでもキレているということは、その他に原因があるということで。


 俺たちは見守ることしかできなかった。


「でしたら、あなたはどのようなお弁当を作ってくださるのですか?」

「えぇ!? そ、それは考えてなかったけど……そうだな、ハンバーグとかなら作れるぜ! あぁでも綾乃さんはあんまり食べられなかったんだっけ……なら簡単な、そう、サラダとかさ!」


 必死に自分の実力をアピールする男子生徒。

 

 おそらく少しは料理もできるタイプの人なのだろう。だから人一倍俺に対していろいろな思いを抱えているのかもしれない。


 綾乃好みのものを作ろうといろいろ考えている。


「ハンバーグも美味しいですよね」

「お、だろ? 今度作って持ってきて──」

「それで、何故そのお料理を選んだのでしょう?」

「な……なぜ、って言うと?」

「お料理に込めた思いとか、まぁ理由を聞きたいだけですよ」


 男子生徒が言葉に詰まる。

 綾乃の言っている意味が分からない様子だった。


「美味しく食べてほしい、とか?」

「あら、それも大切なことですね」

「あとほら! 嬉しい顔が見たいと──」

「──なので、お断りさせていただきます」

「…………え?」


 いい反応を貰えたと感じていた男子生徒は、鳩に豆鉄砲を食らったような顔になった。


 綾乃は男子生徒と話しだして、初めて口角をわずかに上げる。

 貼り付けたような笑顔だった。


「初めて、桐原さんが私にご飯をくれた時、なんて言ったと思いますか?」

「え? えっと……」

「『食べなかったら秘密バラすぞ』……って、脅してきたんです」


 思い出すように笑いをこぼす。

 俺の話になった途端、少し冷たさが和らいだ気がする。


「それでしょうがなく行ったら、ご飯をあまり食べてない私のために、重たくないもの、薄味のもの、食べきれなくても日持ちしてくれるもの。桐原さんが私のためにしてくれたことを何も言わず、私を気遣ってくれる」

「…………綾乃、言わなくていいと言っだろ」

「すみません。でも、私が言いたいんです。私が、嬉しかったことをお伝えしておきたいんです」


 さすがに恥ずかしくなってきた。

 しかし綾乃の言う通りである。

 結局、この男子たちもほかのやつらと同じってことなんだろうな、綾乃にとって。


「あ! すみません、私も誤解は招きたくないので言っておきますが、あなたの考えも大変素晴らしいと思いますよ。私に合わないというだけで」

「あ、ありがとう……ございます?」

「ですから私以外で、あなたの事を好いてくれるお姫様を見つけなさってください」


 綾乃はよそ行きの笑顔で話し終える。

 もう話すつもりはないという意思表示でもあったかもしれない。


 それだけは感じ取った男子生徒たちは、「邪魔して悪かったな」と言って俺たちから離れていった。


「お、オレ……綾乃さんが怖いよ……」

「えぇ……? な、なんでですか!」

「すごいね……すーちゃん…………」

「葵さんまで……っ」

「なんか、うん、慣れてない姿だからな」

「そりゃあ、皆さんは私の中を見てくださりますからね。皆さん大好きです、よ……?」


 流れで言ってしまった綾乃は、その失言に気づき顔が少しずつ赤くなってしまう。


 それを皮切りに胡桃が綾乃の頭をイヌのようにワシャワシャと撫で始めた。

 からかいの対象が俺から綾乃に変わった瞬間だった。また、明るい空気が帰ってきた。


 一悶着あったものの、弁当を食べ終えて昼休みが終わった。

 これから体育祭午後の部が始まる。

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