第17話 活発な子供
葵さんとのお話をトリガーに、私は昔のことを思い出してしまった。
『みんなー! 次の運動会の事決めよ!』
私は──活発な子どもだったと思う。
クラスの中心にいて、みんなを引っ張るような。
昔から先頭に立つのが好きな子どもだった。だから、それが使命なんだと思っていた。
『澄香ちゃんほんっとにかわいー!』
『ねね、どんなお手入れしてるの!?』
小学生の頃から、私が可愛くなるなるため、綺麗になるための努力は欠かさなかった。
お母さんが初めて私に教えてくれた日から、ただの一度もサボることはなかった。
毎日丁寧にケアをして、体型維持のため運動も頑張った。キツいと思った日なんて何度もあったけど、自分を磨いて損することなんて無いと信じていた。
『ねー! ここ全然分かんないんだけど!』
勉強だってそう。
小学生を卒業する頃には、中学の内容をほとんど終えていた。
見た目と運動だけじゃダメだと思って。
誰からも、何でも、私を頼ってくれるような人にならなくちゃと思って。
そういう捉え方をすれば、私は自分の時間が無かったのかもしれない。
でもそれが苦しかったわけじゃなくて、誰からも認められる人間になるのがすごく嬉しかった。
そのためなら、私如きの努力なんて気にすることもなかった。
才色兼備。
容姿端麗。
文武両道。
そんな言葉が私の代名詞となったのは、それこそ中学に上がって間もないことだったと思います。
『ねー澄香ちゃん! 聞いてぇ!』
『綾乃さん、これ手伝ってくれない?』
『ほんとすごい……尊敬するよ』
そんな努力も実を結んだ。
友達も──先輩も、後輩も、先生からも。
誰からも愛されるような人間だったと、私は胸を張って言えたと思う。
『好きです。俺と付き合ってください!』
その愛が、恋に変わるのも必然だったようで。
中学ニ年生に上がった頃。
私は殿方から告白されることが増えました。
クラスメイト、部活の先輩、そして、顔も知らない同級生。
私を好きになってくれるのは嬉しかった。
好意を向けられて、嫌な気持ちになれるわけがなかった。
でも…………みんな、表面上の『綾乃澄香』しか見てくれていない気がして。
いえ、実際そうでした。視線とか態度とか、彼らは気づいていないのでしょうけど、全てが透けて見えて、気分が悪かったのです。
だから、全てお断りしました。
申し訳なくは思っています。こんな理由、話せる訳ないのですから。
それでも、私が告白を断り続けていることを知っているらしく、「そっか」とか「これからも友達でいてください」とか、すぐに受け入れようとしてくれた。
それが嬉しく、そして苦しい。
それでも、私は頷くことができなかった。
しかしそれは、私が思っている以上に彼らの心を締め付けていたようだった。
『……澄香がいるから』
『あなたのせいで、私は〇〇くんに振られたッ!』
『一人くらい付き合ってよ。うちらにまで迷惑かけないで』
それを知ったのは、仲が良いと信じていた女子たちからでした。
多くの男性から好意を持たれていて、その全てが私の「ごめんなさい」で諦めてくれるわけもありません。
それは、私以外の女子生徒に好意を持つ男性が少ないという言い方もできてしまいました。
結局、私が何を言っても無駄で。
私がしてきた努力は、すべて女子生徒の怒りに火を注ぐだけで。
信頼してきたお友達全員から距離を置かれ、嫌われ、壁を置かれ。
でも……誰も悪くないと思っています。
友達も、告白してくれた男子生徒も、そして私自身も間違っていなかった。それだけは絶対に合っていると信じています。
信じていたからこそ、私は人と関わるのが怖くなりました。
生きた心地のしない中学生活を終え。
無理を言って何県も離れた私立高校に通わせてもらい。
今度は私から、他人に対して壁を作りました。
自分磨きをしなくなることだけは嫌だった。
でも、それが原因でまた最悪な人間関係になるのも嫌だった。
恥ずかしながら『クール美少女』と呼ばれるのも、しょうがないのです。
それが私の高校生活。
それが私──『綾乃澄香』なのです。
『ここ俺んちだから帰るときに寄ってけ。余りもんしかないけど分けてやる』
そんな凍りついた私の心に、桐原さんは土足で踏み入ってきました。
高校でも表面だけの私しか見てくれない中、私を一人の女の子……いえ、一人の人間として見て、ぶっきらぼうながら手を差し伸べてくれました。
そんな「普通の友達」のような扱いが、私の心の奥深くまで染みて、あたたかかった。
『私は、ずっと柊くんが大好きなんだ』
どこまでも自分の気持ちに素直な葵さん。
それは中学の私とは正反対で、キラキラと輝いていた。
私にとっての希望の星だったと思います。
だから──私も、桐原さんに対する気持ちが何なのか、向き合わないといけません。
向き合ってもいいと……思えてしまいます。
この気持ちを理解するために。




