第15話 俺の部屋に四人で
「悪いな。朝から手伝ってもらって」
「いえ。これくらいは手伝わせてください」
翌朝。
本人の申し出もあって、朝から俺の家に来た綾乃と一緒に弁当を作っていた。
「体育祭、だなぁ……」
「以前教室でも話してましたね」
「スポーツは嫌いじゃないんだけどなぁ。綾乃こそあんまり好きじゃないのでは?」
「まぁ……男性陣の視線が少し……というのはありますが」
苦笑い。
美人も美人で悩みものだな。
「…………」
「……あー、余りそうな分は朝飯にするか? たしかに少し作りすぎたかもしれない」
「! そういうことなら、いただきましょうかね」
仕方がありません、とため息をつく綾乃。
あんなに物欲しそうな目で見つめておいて、何を言うか。
きんぴらとポテサラを小皿に少量移す。
それを渡すと口を小さく開いて顔を輝かせ、しかしチラリと視線だけ俺に向けた。
「それ以上はやらんぞ」
「少ないです」
「朝食べ過ぎたらリレー走れないぞ」
「桐原さんのお料理は速くしてくれる気がします」
「んなエンジンじゃないんだから……」
呆れつつも、綾乃は引き下がってくれないので、ほんの気持ちだけ追加してやる。
不満げに見つめてくるが、これ以上追加するつもりはないので首を横に振っておく。
その調子で弁当を作り上げていくと、ピンポーンと部屋に鳴り響いた。
「……やべ」
予定では、綾乃には先に学校に行ってもらう予定だった。
しかし談笑しながらまったりと準備を進めていたら、二人の訪問の方が早くなってしまった。
「まぁ、もうどうしようもないか」
「何か怪しまれますかね……」
「いや、うん。それは間違いないだろうなぁ」
しかし、どのみちバレることだっただろう。
俺は一つため息をついて、玄関を開けた。
「よっ」
「どもども〜っ」
「朝から元気なことで」
体育祭に向けてちゃんとセットしてきた柊と胡桃の仲良しに、またため息をつきつつ、二人を家の中に招き入れる。
そして……予想通りの反応をされた。
「え、綾乃さん?」
「すーちゃん!?」
「お、おはようございます」
キッチンで弁当を袋に入れていた綾乃を見て、二人は驚きの声をあげる。
そりゃ、男子の部屋に『クール美少女』がいるんだもんな……。
「え、えっと……」
胡桃は、二人の後ろからリビングに帰ってきた俺と綾乃を交互に見て。
「こ、これって、あの……『昨日はお楽しみでしたね』って、やつ……ですか?」
「あ……あ、ああ葵さん!?!?」
「お前は何を言ってるんだ!!」
俺はこの時初めて、人の頭をスリッパで叩く気持ちを理解した。
スパーン、という軽快な音が部屋に響いた。
◇ ◆ ◇
「いちち……なんでうちは体育祭の日に運動以外で体を痛めてるのさ……」
「変なことを言ったお前が悪い」
「綾乃さんを家に引き込んだ蒼汰にも非がある」
「ま、まぁまぁ、結局は私が原因なのでお三方は落ち着いて……」
胡桃は一度綾乃の部屋に行き、身だしなみを整え直して、再度俺の部屋に集まっていた。
編み込みポニーテールにした頭を支えながら、ジト目で俺を睨んでくる胡桃。
薄くメイクもしているようで、いつもよりも特段可愛らしく見える。
普段センターパートにセットしている柊は、シースルーバングに整えていて、落ち着きが増しているのが男の俺でもカッコいいと感じる。
綾乃は簡単にポニーテールに結っているだけだが、さすが。可愛さと綺麗さを完璧に引き立てている。
俺はもう見慣れた髪型だが、なぜか少し顔が赤いので心臓が高鳴ってしまう。
「……綾乃?」
「は、はい」
「顔赤いけど……体調悪いのか?」
「いえっ。お気になさらず」
「……胡桃。なんかした?」
「べっつにぃー?」
「柊、あとで聞き出してくれ」
「了解した」
「ちょ、柊くん!?」
胡桃はひとまず置いておき、何が言いたいかって、俺が見劣りしすぎることだ。
おそらくこのあと四人で登校するのだろうが、さすがに俺が異分子すぎる。
「三人で先に登校しててくれ」
「え、蒼汰は?」
「……お前ら美男美女に混ざって登校するのは気が引けんだよ」
こういうことは気にしてしまう。
ま、学校ではどうせまた話すのだからあまり意味がないかもしれないが、気持ちの問題だ。
「なるほどな」
「さすが柊。己のイケメンを理解してる」
「つまり──俺たちでお前をイメチェンしろってことか」
「柊?」
「つまり──この私の出番ってことか……」
「胡桃?」
「あ、えっと……私は待ってますね?」
「綾乃。それは嬉しいがこの二人を止めてほしいかもしれな…………あ、おい! お前ら引っ張るな!」
弁当のお礼と無理やり理由付けられながら、俺は洗面台に連れて行かれた。




