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クラスのクール美少女が、俺の弁当以外は食べないと宣言した件について  作者: もかの


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第13話 目、閉じててください

「頼む!」

「明日のお弁当作ってほしいな〜、なんて!」


 体育祭前日。

 今から帰宅しようというところだったが、目の前に立つ二人に止められてしまった。

 柊は手を合わせて、胡桃は両手を握っておねだりするように頼んでくる。


「別にいいけど……一応なんでだよ」

「まっじで!? 最高かよ! 俺はあれだ、いつも母親が作ってくれてんだけど、明日仕事で朝いないらしくてさ。コンビニで買おうかなって思ったけど、お前の弁当食べたいなって」

「うちは柊くんと一緒に頼んだら、うちも食べれるかなって!」

「胡桃だけ不純な動機だったけど、分かった」

「きゃっ……不純だなんて、蒼汰くんのえっち!」

「お前どういう頭してるんだよ」


 しかし、明日は俺と綾乃、柊と胡桃の四人分を準備しないといけないのか。

 作る分にはいいが、持っていくのがちょっとめんどくさいな。


「んじゃ、明日の朝うちまで来てくれ。弁当準備しておくからさ」

「あざっす!」

「うち、蒼汰くんの家知らないから柊くん案内よろしくね〜」

「任せろ」




「──ってわけなんだが、明日いつ取りに来る?」


 夕飯のときに今日のことを綾乃に伝えておく。


「私は桐原さんが都合の良い時ならいつでもいいんですけど……さすがに大変じゃないですか?」

「んー、量は問題ないが、弁当に詰めるのがちょっとなぁって感じ。って言っても、明日は学校の準備も大して必要ないから間に合うだろ」


 綾乃を安心させつつ、材料を買いに行かないといけないなぁと考える。

 平日はなかなか買い物に行く時間を取れないので、材料がだいぶ減ってしまっているからな。


「……何か隠してますね?」

「いや? なんで?」

「いつもの桐原さんよりかっこいいです」

「んぐっ……何を言い出すんだよ……」

「わざとカッコつけてる感じがします」


 んな滅茶苦茶な……。

 聞いたこともないところに動揺が出てしまっていたようで、綾乃は俺が嘘をついていることを確信している様子だった。


「なんでもないでーす」

「ほら、やっぱりあるじゃないですか。言ってください」

「言いませーん」

「言わないと、いじわる……します」

「ほう? どんないじわるをするんですかね、お嬢さん?」


「いじわるする」という言葉を言うことすら少しためらっていた綾乃。

 純粋無垢な『クール美少女』は、異性に何かするということすら躊躇して、顔を赤らめていた。

 そんな小動物らしい姿を見れば、嗜虐心が刺激されるのも仕方がない……はずだ。


 口角を上げながら聞くと、綾乃は一瞬考えるような表情を浮かべる。

 相変わらずかわいすぎるだろ。しかし、影の努力を知ってから思うと、何か別の……例えば、愛くるしさとかが芽生えてくるな。


 しばらく眺めていると、何かを決意した様子でテーブルに手をつく。

 しかしその体勢で少し静止すると、顔を赤らめて座り直した。


「……綾乃?」

「ま、待ってください。私は今から桐原さんに、いじわる、しますので」


 それを言ってしまえば意味ないんじゃないか。

 綾乃らしいと言えば綾乃らしいし、普段はあまり見られない方向で頑張る姿が微笑ましいので、もう少し見守ってみる。


 すると少しして、意を決して立ち上がった綾乃。


「目、閉じててください」

「え、何すんの?」

「いいから閉じてくださいっ」

「えぇ……怖いんだけど」


 ひとまず綾乃の指示に従って、目を閉じる。

 マットの上を歩くサッサッという音が段々と近づいて来たと思うと、綾乃の香りが漂ってくる。

 というか……いつも以上に頭がクラクラしてくるし、目の前まで来てないか?


 ──鼻と鼻が触れ合いそうな距離。

 ──目を閉じてください、という指示。


 ドクン、と。

 一際大きく心臓が跳ねた。


「あ、綾乃……?」

「──静かにしてください」


 目を閉じたまま綾乃に再度するも、開いた口は綾乃の指で閉じられてしまった。

 ゆっくりと、焦らすように俺の唇をなぞる。


 はふ……、と綾乃は一つ息を漏らす。

 まるで覚悟を決めるような、そんな息。


 俺は固唾を飲み、少しでも緊張を抑えながら綾乃の行動を待つ。

 そして────、


 ぷにっ。


「…………え?」

「い、いじわる……です。隠しごと言ってくれるまでは、続けます」


 綾乃の指が俺の頬をつつく、そんないじわる。

 小さな子供が親に構ってもおうとするような行動でしかなく、さすがに笑いを堪えられなかった。


「ははっ」

「なんですか。いじわる止めませんよ」

「それはいじわるでも何でもないだろ。まぁでも、頑張った綾乃ちゃんに免じてヒミツはなしにしようか」

「ば、バカにしてませんか?」

「バカにはしてないけど、子供扱いはしてる」

「子どもじゃないです! ……あと、ちゃん呼びはやめてください」

「そうだね綾乃ちゃ……いててて、ごめんって」


 もう一回ちゃん呼びをしたら、頬をグリグリと押し込まれてしまった。

 綾乃のかよわい力では大して痛くもないが、そんなに触られるとあまりよろしくないので、謝っておく。


「材料がちょっと不安だからこのあと買い物に行くってだけの話だ」

「それくらいなら最初から言ってくださいよ」


 ジト目になる綾乃。

 もう一度「ごめんごめん」と笑っておく。


「あんなに頑張っていじわるしたのに……」

「そんなに頑張るものじゃなかっただろ」


 頬をつつくくらい胡桃にいくらでもされてるし。


「……いじわるという名目で、異性に自分から触れることなんて、初めてだったんですから」


 しかし、そんなことを言われてしまえば、俺はもう何も言い返せなかった。

 とはいえ……これだけは言っておかないと。


「お前の頑張りは認めてやるから……その、唇だけはやめてくれ。何もしないという約束でも、やっぱ、俺も男だから」

「くちび……、っっ!!」


 たぶん俺の頬をつつくことだけに集中していて、無意識にやったことだったのだろう。

 俺の言葉で自らの行動を思い出した綾乃は、これほどかと言いたくなるほど耳まで真っ赤に染めて、俺の部屋から逃げるように帰ってしまった。


 しばらくして。


 ピロン。


『お買い物は私もお手伝いしますので、行くときはご連絡してください』


「……まじで?」


 顔から熱が冷めるまで、俺は天井を見上げた。

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