第11話 嘘はつけないクール美少女
「お、おはようございます……」
「あ、あぁ……おはよう」
翌朝の学校、クラスに綾乃が来た途端に俺は目を逸らしてしまった。
『どんないじわるをするのですか……?』
鮮明に思い出せる。
そして、何度も悶えてしまった。
「……なんかあった?」
「うるせえな」
「否定しないってことは、そういうことなのでかい兄さんや」
「お前誰だよ。あと、別に何かあったわけじゃ」
『へ、変な気があるのかな、と思ったり……』
「…………あったわけじゃ、ねーよ」
「ふぅん?」
席につく俺の前から、俺の顔をニヤけながら覗き込む柊。その頬を人差し指でつつく。
「あれ、叩かねえのか?」
「叩いてほしいのか?」
「オレはドMか」
「うちもするね」
「おう……えっ?」
いつの間にか来ていた胡桃が、柊の頬つつきに参戦する。
……なんだこの時間。
「……野郎のほっぺつついても面白くないだろ」
「当たり前じゃん」
「当たり前だろ」
「じゃあなんの時間なんだよ!」
「柊の頬だから」
「そういうこと」
「ちょっと恥ずいじゃん……恥ずいじゃん!!」
ムスッとして口を"へ"の字にしつつも、俺と胡桃にされるがままの柊。
満更でもなさそうな顔を浮かべてるの、ちょっと可愛すぎないか。男に惚れる趣味はないぞ。
「で、柊くんと蒼汰くんは何を話してたのかな?」
「聞かないでくれ」
「聞いてやってく…………いて、いててて」
胡桃に質問を勧める柊の頬を、力強くグリグリする。ちょっと、かなり、やめてほしい。
「あのぶっきらぼうな蒼汰くんが本気で嫌がる…………つまり、すーちゃん関係!?」
「へっ……!?」
しかし、察しのいい胡桃はすぐに気づいてしまった。
隣でなんとか冷静を装っていた綾乃は、急に名前を出されたことに驚き変な声を出してしまう。
「え、ほんとに?」
「蒼汰……お前、やることやってんだな……」
「う、うちら邪魔者かな……!?」
恋愛脳が良くない方向に発達しているバカ高校生二人は、最悪の勘違いをしていた。
「お前らいい加減にしろよ」
「あらやだ柊さん、彼氏さん照れちゃってますよ」
「いけませんよあおさん、彼氏さんが嫉妬してしまいますわよ」
「…………綾乃、俺にはコイツらを抑えられない」
この二人の世界が展開されてしまえば、俺でもどうしょうもない。
声までニヤニヤが移っているので、クラスの誰も本気にしていないのは唯一の救いだが……どうにも居心地が悪い。
「あ、葵さん、倉田さん……別に、何かあったわけではなくてですね……?」
「えぇー? ほんとにぃ?」
俺と綾乃に何かあったのではないか、という話題性だけでクラス中が興味を持つ。
下手なことを言って殺されるのは俺なので、情報開示の主導権は俺と綾乃で握って置かなければ。
「昨日の夕飯の後にちょっといろいろあっただけで、別に変なことは…………」
「…………?」
「………………え?」
……綾乃?
「あれ、皆さんどうし────っ! な、何でもないですウソです冗談です忘れてください」
両手で顔を覆い、椅子に座り直して前を向く。
その行動と慌てた言動が、クラスメイトがまさかと思っていた『夕飯を一緒に食べた』ということを裏付けてしまった。
「え、マジ?」
柊が心底困惑した様子で俺に聞いてくる。
いや……聞かないでほしいのだが……。
「まぁ……うん、夕飯は食べたけどな。うん……」
念の為「一緒に」という言葉は省いておいたが、大して意味はなかったようで。
しん、と静まり返る教室。
俺と綾乃の言葉の意味をしっかりと噛み締める。
……この空気、一週間前に味わったばかりだ。
「ど、どういうことだ桐原ッ!!!」
「夕飯!? 弁当に留まらず、夕飯まで作ってるの!?」
「おい! 濁しても無駄だぞ!」
「熱愛……熱愛!?」
さて、と……。
「綾乃」
「はい」
「俺は今、猛烈に逃げたい」
「奇遇ですね。私もです」
俺と綾乃は教室を出た。
現在時刻は午前八時。裁判は残り七時間というところか……。




