公爵の独り言 妻が姉並みに切れて、抑えるのに大変でした。
「あなた、どういう事ですの? 何故アマーリアちゃんが呪術などに掛けられたのですか?」
俺は王宮から帰った途端に、妻のアリーナに責められていた。
アリーナはおしとやかで大人しい女性だと思っていた。
そう、俺と二人でいるときはそうだった。
とても気のつく人で優しい性格だと思っていたのだ。
でも、姉のこととなると百八十度変わるのだ。
それが先日発覚した。
とてもきつくなって恐ろしくなる。
今も目が釣り上っている。
そう言えば元々アリーナは姉の取り巻きの一人だった。
俺は思い出したのだ。
俺を迎えに来た息子も一歩引いていた。
いや、お前はもっと前に出ろ!
俺が迎えに来た息子を捕まえて妻との衝立にしようとしたら、さっと逃げてくれたのだ。
「おい、フランツ!」
逃げるな!
私は叫びたかった。
「あなた、フランツはどうでも良いでしょう」
妻が言うが
「いや、学園にいるのだからフランツも関係するだろう」
「それはそうですわね」
「いえ、母上、私は……」
「フランツもいらっしゃい。良いわね」
「ハイ、母上」
フランツは必死に逃げようとしたが、母の念押しに頭を垂れてくれた。
フランツの恨みがましい視線を受けるが、俺も一人でこの妻と対決するのは嫌だ。
「で、あなた、我が家のアミちゃん襲撃犯はどうなりましたの?」
妻は最初から詰問口調だった。
「いや、彼らは決してアマーリアを襲撃した訳では……」
「あなた! 魔術師が3人がかりで呪術をアミちゃんに掛けたのですよ。これを襲撃と言わずして何というのです」
「いや、しかしだな、アマーリアは我が姉の子供とはいえ、姉は父から勘当されて平民になっているのだからしてだな」
俺は言い訳した。
「あなた、何を言っているのです? 私は前当主のお義父様からは外面上はクリスティーナ様を勘当したようにしているが、本当は勘当はしていないとはっきり言われております。事実そうですよね?」
「いや、まあ、事実はそうなのだが建前上は」
「建前も本音も同じです。現実にクリスティーネ様の籍は我が公爵家にあるのです。当然クリステイーネ様のお腹から生まれたアミちゃんはこの公爵家の人間です」
「しかし、本当にアマーリアが姉のお腹から生まれたかどうかはわからないではないか?」
そうだ。その確認は出来ていない。
「何を言っているのですか、あなた。アミちゃんは姿形、性格からして本当にクリスティーネ様そっくりではないですか!」
「いや、まあ、それはそうだが」
俺は何とか適当に流そうとした。
男には男の世界があって全て杓子定規にはいかない。
でも、アリーナは許してくれそうになかった。
「あなた、何が言いたいのですか? アミちゃんはこの公爵家の人間です。それを例え学園内とはいえ攻撃したのです。これは我がヨーク公爵家に対しての攻撃です。当然王家には抗議して頂けたのでしょうね?」
アリーナは俺を睨み付けてくれた。
「まあ、それはそうなのだが、そこはだな、まだ年端もいかないディートリヒ殿下のしたことで、陛下としてもなんとか許してほしいと言われてだな」
「ひょっとしてあなた、それを認められたのですか?」
すーーーーっと空気が凍った。
アリーナのこんな表情は初めてだった。
俺は姉と同じ空気を感じた。こうなった姉も本当に怖かった。
ここは間違えると俺がただでは済まない。
俺は固唾を飲んだ。
「いや、陛下からそう言われたが、取りあえず妻とも相談せねばならないし考えさせてほしいと言って帰ってきたのだ」
俺は陛下に即答しなくて本当に良かったとこの時思った。
虫が知らせてくれたのだと思う。
本来は陛下が頭を下げて頼んで来たので喜んで頷くところだったが、連れて行った執事のセバスチャンが首を振ってくれたのだ。
今回はセバスチャンの言う通りにして本当に良かった。
「本当ですの、セバスチャン?」
アリーナは俺の後ろに立っていたセバスチャンに確認していた。
本来ならばむっとするところだが、アリーナの怖い視線が俺からそれて、俺はほっとした。
「はい、奥様。旦那様は陛下から頭を下げられましたが、持ち帰らせていただきますとはっきりとおっしゃいました」
セバスチャンはちゃんと話してくれた。
俺がほっとしたときだ。
「別にその場で即座に断って頂いて良かったですのに」
しかし、アリーナは納得出来ないみたいだった。
「いや、しかし、陛下に頭を下げられてだな即決お断りは出来ないだろう」
「元々陛下は我が家のクリステイーナに冤罪を掛けて断罪して、ディアナ風情と結婚してくれたどうしようもない男ではないですか!」
アリーナははっきりと言ってくれた。
「いや、アリーナ、ディアナ様は今は王妃様であってだな……」
「はああああ! 何を言っているのです」
屋内の空気が確実に一度下がった。
「私はクリスティーナ様が王太子殿下にはディアナ風情がお似合いよと申されたから仕方なしに王妃であることを認めているのです。私、本人が認めている訳ではありませんからね!」
アリーナはとんでもないことを言ってくれたし、心からそう思っているみたいだった。
「そもそも今回の襲撃はディートリヒ殿下お一人でされたことではないでしょう。あの卑怯なエミーリアが噛んでいるに違いありませんわ」
「アリーナ。相手は側妃様だぞ」
「何を言っているのです。高々相手は陛下の妾ではないですか? そんな妾に敬称など必要ございません」
アリーナは取りつく島もなかった。
「あなた、陛下に念や押ししておいてくださいね。次にアミちゃんに側妃かハウゼン侯爵が手を出したらこのヨーク公爵家の総力を挙げて叩き潰すと。お二人にもそうお伝えください」
そして、とんでもないことを言い出してくれたのだ。
「いや、お前、それはさすがにまずいだろう……」
「あなた、私はクリスティーネ様からこの公爵家の事をくれぐれも宜しく頼むと言われてこの公爵家に嫁いで来たのです。そのクリスティーネ様のお子様に危害が加えられるようなことなど到底看過できませんわ。ここははっきりと公爵家の立場を見せてください。それとフランツ!」
「はい、母上!」
いきなり当てられた息子はぎょっとした。
「あなたもアミちゃんに危害を加えるものがいないかしっかりと見張るのですよ。特にあの側妃の息子は要注意です。もし危害を加えようとしたときは攻撃して構いません」
アリーナはとんでもないことを付け加えてくれた。
「いや、お前、それはさすがに不敬だろう」
俺は必死に止めようとしたが、
「我が公爵家に危害を加えようとしたのです。反撃されるのは当然でしょう。そうなったら我が公爵家はクリスティーネ様親衛隊を率いて第二王子を立てて侯爵家を攻撃します。侯爵家風情に負けはしませんわ」
そう言うとアリーナは立ち上ったのだ。
「こうはしていられませんわ。直ちに親衛隊の面々を集めて今後の対策を練らないと」
「いや、アリーナお前」
私が止めようとしても無視して妻は出て行った。
「旦那様。ああなったら奥様は止められません。ここは奥様のなさりたいようにされた方が良いのではないかと」
セバスチャンまでとんでもないことを言い出した。
「それにもし、万が一アマーリア様に危害が加えられるようなことがあれば、今度はクリステイーネ様がお戻りになるかもしれません」
と爆弾発言をしてくれたのだ。
あの人間狂気の姉が戻ったら、下手をしなくても、側妃も侯爵家も一瞬で王都から消滅するだろう。
それだけは避けないといけない。俺は妻の言う通りに陛下に言上しようと心に決めたのだった。








