侯爵家の令息を吹っ飛ばしました
「始め!」
先生の合図でいきなり始まってしまったので、私は少し初動が遅れてしまった。
このままではまずい!
私があわてて構えた瞬間だ。
クレーメンスはさあっと一気に後方に下がってくれた。
ただ一撃の射程から逃れようとしたらしい。
「何、あの子?」
「どうしたの? 何で下がるの?」
「アミちゃんを恐れているんだわ」
「そんなにアミちゃんが怖いの?」
「ただ逃げ回るなんて」
「本当に貴族の風上にも置けないわね」
「「「最低!」」」
貴族の応援団が一斉に叫んでくれた。
人文字も『最低、ハウゼン!』に変わっていた。
「クレーメンス、何を逃げているのじゃ。一瞬で仕留めてしまえ!」
「お祖父様、無理です」
ハウゼン侯爵の叱責に必死にクレーメンスが必死に首を振っている。
「アミ、頑張って!」
「敵は逃げたわよ」
「逃げ侯爵令息をやるのよ!」
「今こそ仕留めなさいよ!」
エッダとビアンカがむちゃくちゃ言ってくれる。
いくら私のただ一撃とはいえ、ここまで離れると流石に無理だ。
やむを得ない。
前世でお母さんがよく見ていたアニメ赤胴鈴之助の要領だ。
近寄るしかないだろう。
私が思った時だ。
「はははは、平民女よ。これだけ離れたらいくら貴様のただ一撃でも効果はあるまい」
クレーメンスが笑ってくれたのだ。
「二年生のくせに卑怯よ」
「最低」
「上級生らしくないわ」
クラスメートが軽蔑してくれた。
「卑怯者!」
「流石に裏切り者のアグネスの息子だけあるわ」
「本当ね」
おばさま応援団が貶してくれた。
「誰が裏切り者よ」
その横の方にいた侯爵の隣に座っていた夫人らしき人が言い返した。
「あなた、忘れたの? クリスティーネ様を裏切って王太子についたじゃない!」
「はああああ! 王妃様を虐めたクリスティーネから離れただけじゃない。私は何も悪くないわ」
堂々と侯爵夫人は集団を前に言い返した。凄い自信だ。私ならあんな大軍相手に言い返せない。
「アグネス、クリスティーネ様を呼び捨てにするなんて許さないわ」
「本当よ。信じられないわ」
全員頷いている。皆怒り顔だ。
「何を言っているのよ。クリスティーネは陛下に断罪されて平民に叩き落とされたのよ。そんな平民のことを呼び捨てにしても問題ないじゃない」
「何ですって、アグネス、もう許さないわ」
ボーテ子爵夫人がアグネスの方に向かって突撃しようとして、間に入った騎士とつかみ合いになる。
「退きなさいよ。このぼけ騎士」
ボーテ子爵夫人が暴れている。
「何言っているのよ。あなたの家のベッカー子爵家なんて、三代前は平民だったくせに。たまたま侯爵家に入れたからって平民崩れがデカい顔するんじゃないわよ」
「な、何ですって! 誰が平民崩れなのよ。それが侯爵夫人の私に対して言うことなの」
「何言っているのよ。そんなこと言ったら私は由緒正しきヨーク公爵家の夫人よ」
「ふんっ、クリスティーネが断罪されてから落ち目の公爵家でしょうが。それに比べて我が侯爵家は第一王子殿下の母上を出してその勢いたるやもはやあなたの公爵家なんて目じゃないわよ」
「ふんっ、高々側妃風情を出したからって威張っているんじゃないわよ」
「な、何ですって、エミール様を貶めるというの」
「だから側妃風情がどうしたの? 私はアリーナ・ヨークよ。このヨーク公爵家をクリスティーネ様から守るように仰せつかったのよ。そのクリスティーネ様をけなすなんて公爵家の名にかけて許さないわ」
「はああああ! あなたは第一王子殿下のご生母様に喧嘩を売る気なの?」
「ふんっ、そっくりそのまま返してあげるわ。あなた、クリスティーネ様に喧嘩を売ると言うことはこの私達クリスティーネ様親衛隊全員に喧嘩を売っているのよ。その意味が判っているのでしょうね」
全員がギロッと侯爵夫人を睨んでくれたんだけど……
「えっ!」
流石の侯爵夫人も固まってしまった。
「アミ!」
その時私は悲鳴を聞いた。
しまった。クレーメンスを無視して場外を注視してしまった。
いつの間にかクレーメンスが剣を構えて目の前にいたのだ。
「「「キャッ!」」」
全員の悲鳴が上がる。
クレーメンスは上段から斬り降ろそうとしてきたので、私が剣を掲げて防ごうとした。
でも、それを見てクレーメンスはニタッと笑ってくれたのだ。
上段から剣を一瞬にして動かして横から斬り込んできた。
クレーメンスの横殴りの剣が私を襲い、私は全く防げなかった。
そう、剣術の稽古などただ一撃しかしていないから横殴りの剣なんて防げるわけはないのだ。
私のしていたのは後はただただ、身体強化だった。
「もらった!」
嬉々としたクレーメンス声と共にクレーメンスの横殴りの剣が私の胴を襲ったのだ。
ガキン!
「ギャッ!」
叫び声と共に吹っ飛んだのはクレーメンスだった。
私は襲いかかられた瞬間、身体強化して体を鋼鉄よりも硬くしたのだ。
私の莫大な魔力の全てを身体強化に当てた私を斬れるわけはないのだ。
私はこの4日間、ただただ魔力で身体強化の訓練をさせられたのだ。
何回もヨゼーフ先生に痛い目に遭わされて本当に大変だった。
でも、そのかいがあった。
後はただ一撃だった。
両腕に衝撃を受けて吹っ飛んで地面に叩きつけられたクレーメンス目がけて私は剣を振り下ろしたのだ。
剣の爆風、ソニックブレードがクレーメンスを襲った。
この近距離では絶対に逃れられない。
「ギャーーーー!」
悲鳴を残してクレーメンスは吹っ飛ばされて特設会場の障壁を吹っ飛んで観客席に飛んで行った。
そのまま叫んでいたハウゼン侯爵家の応援席に突っ込んでいった。
「やったー!」
「アミ、勝ったわ!」
「凄い!」
クラスのみんなが喜んでくれた。
「アミちゃん凄いわ」
「やったわ」
「アグネスもろともやっつけてくれるなんて、さすがアミちゃんよ」
公爵夫人達は大喜びだった。
私はファイナルまず一勝したのだった。








