とある子爵夫人の独り言 平民娘がまた騒いでいると聞いて見に出かけて唖然としました
私は学園時代、とある公爵令嬢様とご一緒させて頂いて、学園生活を謳歌させていただいた。
その方は気さくな方で、私が困っているときにさっと手を差し出して助けていただけた。
我が実家の領地で魔物が大発生して大変になった時はわざわざお越しいただけて、魔物を退治していただけた。
最後に古代竜を叩き出していただけたときは度肝を抜かれた。
あの世界最強の古代竜が涙を流して這々の体で逃げ出したのだ。
「ほほほほ。私にかかればあのような爬虫類、一撃でしてよ。いつでも困ったことがあれば私をお呼びになって」
帝国の皇太子殿下と学園一の剣士を後に従えて、腰に片手を当てて口元をセンスでかくして笑われた姿はとても神々しかった。
そのクリスティーナ様は魔術は当時学園一を誇られ、世界最強の魔術師でもあられるヨーゼフ師の一番弟子として学園に君臨しておられた。
年に一度の学園の魔術大会では、二番弟子の帝国の皇子殿下と対決されて、決勝ではいつも凄まじい戦いを繰り広げられた。確か戦績は三勝三敗の五分だったと記憶している。
私達は余程クリスティーナ様の婚約者があの平民に骨抜きにされたへぼ王子なんかよりも帝国の皇太子殿下の方が良かったのにと思っていた。
私はあの最悪の卒業パーティーのことも覚えていた。
私達クリスティーネ様の取り巻きは当日、クリスティーネ様から絶対に王子のすることに逆らわないように釘を刺されていた。
そうでなかったら絶対にあの時に蜂起して王子とその取り巻き、あの平民女をぎったんぎったんにしてやったのに!
いや、釘を刺されても王家から睨まれようがクリスティーネ様の言うことなど聞かねば良かったのだ。
我らクリステーネ様の親衛隊は当時のAクラスだけで五名、Bクラスで10名いたのだ。魔術部、下級生も含めれば全学園の二割位を占めたと思う。
最強の魔術部の面々はクリスティーネ様に心酔していたから蜂起すれば絶対に王子を圧倒できたと思う。
クリスティーネ様の右腕の皇子殿下は帝国に呼び戻されて不在、クリスティーネ様の隣は剣士のゲオルクのみしかいなかった。
まあ、ゲオルクだけでも、ある程度の支えにはなると思ったんだけど……
本当にそれからの断罪劇は反吐が出そうに気持ち悪かった。
我らのクリスティーネ様は王子と平民女に断罪されて婚約破棄、国外追放されたのだ。
我らクリスティーネ親衛隊は解散、それ以来クリスティーネ様にはお会いすることはなかった。
私も婿を取って領地の運営等に忙しかったのだ。
王宮では皆の総スカンを食った平民女のディアナは孤立、代わりに側妃に入った元侯爵家のエミーリアが王宮で大きい顔をしているとか。クリスティーネ様がいらっしゃれば王宮はクリスティーネ様が支配しておられたと思うが、今はもうどうでも良かった。エミーリア風情が大きな顔をしているのが気に入らないが、まあ、あのディアナが苦労しているのならば、それはそれで良かろう。
私はクリスティーネ様に魔物達から守っていただけた領地の運営に勢力を注いでいたのだ。
その年、私は王都にいたのはたまたまだった。
丁度時間的な余裕が出来て娘が三年生に在学しているので、王立魔術学園の魔術大会を見に出かけたのだ。
何か平民の女が昔のディアナみたいにでかい顔をして、クリスティーネ様の家の公爵家嫡男を叩きのめして威張っていると聞いて、見に出かけた。娘達は平民女に鉄槌を下すと息巻いていたから、さっさと早めに下しておいた方が良いわよと経験則を伝えていた。
そうだ。ディアナとの時も、ディアナが王太子に近づいていると私達は早めにクリスティーネ様にご注進していたのだ。なのに、クリスティーネ様は「下らない。そのんなの、ほっておいたら良いわ」と取り合われなかったので、ほっておいた。
それが良くなかった。
私達は後で泣いて皆で反省したのだ。
相手はでかい顔をしているとはいえ、高々一年生だ。
今のうちに鉄槌を下して、貴族の洗礼を浴びせれば良いのだ。
そうすれば間違って王子殿下になど近づかないだろう。
それを私も横から見守ろうと思った。
何、いざとなれば横から顔を出して、娘達が叩き潰すのを手伝ってやろうと思っていた。
でも、そこに現れた少女を見て私は唖然とした。
「く、クリスティーネ様!」
思わず口から言葉が漏れた。
その少女はクリスティーネ様にそっくりだった。
違いは金の瞳だけだった。金の瞳は帝国の皇子殿下とそっくりだったんだけど……
でかい顔をしている平民の女って、これはどう見てもクリスティーネ様のお子様だった。
クリスティーネ様のお子様がこの地に帰られた。
これは大ニュースだった。
慌ててクリスティーネ様の娘に失礼なことを叫んでいる娘達を止めようとしたら、横から出てきたヨーク公爵令息が止められていた。
あの公爵家はクリスティーネ様の御実家だ。
ちょっと待って、あの家には私の親友の当時伯爵令嬢だったアリーナが嫁いでいるはずだ。
「アリーナ! クリスティーネ様のお子様が学園にいるのなら、なんで教えてくれないのよ!」
むっとした私は直ちにヨーク公爵夫人に会って文句を言おうと訪問依頼を出したのだ。
「早速公爵令息をたぶらかしていたわ」
「何をふざけたことを言っているの!」
ととんちんかんな事を言った娘の頬を張り倒したのは言うまでもない。
「な、何をするのよ、お母様。私の頬を張るなんて!」
「煩いわね。あなた、あなたが貴族を続けられているのはあの子のお母様が我が領地の魔物を倒していただけたからなのよ。恩知らずのことを言うと領地から放り出すわ」
私は目くじらを立てたのだ。
「えっ、でも、お母様も平民の女には鉄槌を下せっておっしゃっていたじゃない」
「状況は変ったのよ。良いわね、ピーア! あなたはもしあの子が他の貴族から虐められていたら、どんなことがあっても助けるのよ」
「そんなお母様。私にも付き合いのがあるのよ」
娘が青い顔をして反論しだか、娘の付き合いなんて知ったことではなかった。
「はああああ! あんたが言っているのはクッツアーの娘の事でしょ。あそこの母親にも釘を刺して起きなさい。クリスティーネ様を裏切るのならば我が子爵家は縁を切ると」
あの母もクリスティーネ様の取り巻きだったはずだ。文句を言うまい。
「そんな、横暴よ」
娘が目を見開いて抗議するが
「我が家はそれだけクリスティーネ様に恩を受けているのよ。それに、あの子はヨーク公爵様の姪よ。令息様が庇っていらっしゃったじゃない。味方になっておいて損はないわよ」
「えっ、そうなの? 平民ではないの?」
「其れはどうでも良いから、どんなことがあってもあの娘を守るのよ。あなたのお仲間も手伝わせればよいわ」
そう言いながらクリスティーネ様の事を黙っていたアリーナに対してどう文句を言うか私は考えていたのだ。
ここまで読んでいただいて有難うございます。
アミが知らないところで母の取り巻き令嬢達の暗躍が始まります。
続きをお楽しみに!








