敵わぬとみた公王は魔人になってくれました
「もう逃げられんぞ」
変態公王がアナおばちゃんを掴もうと手を伸ばした時だ。
「出でよ、稲!」
アナおばちゃんが胸の中から黒い魔石のペンダントを引きちぎって、公王に投げつけた。
一体何をしたんだろう?
『出でよ、稲』ってお米の稲を出してどうするのよ?
私はアナおばちゃんが何をしたのかよく判らなかった。
それが公王の顔にぶち当たった。
魔石がバラバラに砕け散った。
でも、お米の稲も現れなかった。
「ふんっ、愚かな抵抗だな」
「キャーーーー」
公王がアナおばちゃんに掴みかかった時だ。
ピカッ
と、魔石が砕け散ったところが光ったのだ。
「ま、まぶしい! な、何だ?」
公王は目を押えた。
その時だ。
「ギャーーーー」
公王の悲鳴が部屋の中に響いた。
公王は吹っ飛んでいた。
現れた何かに蹴り飛ばされたようだった。
そして、光が消え去った跡には、両手を腰に当てて仁王立ちしているお母様がいたのだ。
「お、お母様?」
私達が唖然とした。
「稲!」
いきなりアナおばちゃんがお母様に抱きついていたんだけど……ええええ! 稲ってお母様のことだったの?
「どうしたの? 阿奈。いきなり私を呼び出すからびっくりしたじゃない」
稲と呼ばれたお母様はそのアナおばちゃんを抱きしめていた。
「ああああん。稲。この変態が薄樹だったのよ」
泣きながらアナおばちゃんが倒れている公王を指さした。
「薄樹って貴女に襲いかかって殺してくれたストーカーの?」
「そうよ。この男、転生までしていたのよ」
お母様の胸でアナおばちゃんが泣いていた。
「そうなの。判ったわ。今回こそ、私が地獄に送ってあげる」
お母様はきっとして変態公王を睨み付けた。
「き、貴様、クリスティーネか! そして、お前が稲だったんだな!」
公王は驚いてお母様を見ていた。
「前世と今世、良くも俺様を何回も邪魔してくれたな!
何故悪役令嬢がヒロインを助けているのかよく判らなかったんだ、そうか、お前が稲で、それで阿奈を助けていたのか!」
私にはよく判らなかったが、判ったような顔をして公王がお母様を睨み付けた。
どうやらお母様も転生者で、元々アナおばちゃんとは前世から親しかったらしい事は判った。
「ふんっ、この屑公王。貴様を今から地獄の底に叩き落としてやるわ。死ね!」
お母様がそう叫ぶと爆裂魔術を公王に叩きつけていた。
ドカーン!
爆発が起こったが、公王は障壁で防いでいた。
「貴様。クリスティーネ」
公国の魔術師達がお母様の行く手を遮ろうとしたので、私は手錠を引きちぎっていた。
「えっ? な、何故千切れた? これは魔術封じの手錠なのに!」
私の前にいた魔術師が唖然としていたが、
「ふんっ、魔術封じの手錠を作った者が、私より魔力がないと効く訳はないでしょう」
私はそう言うと身体強化した手でその魔術師を張り倒したのだ。
「ギャーーーー」
男は周りにいた魔術師達を巻き込んで吹っ飛んでいった。
「リック」
私はリックに駆け寄るとリックの手錠を外す。
リックが剣を握って襲いかかってくる魔術師を斬り捨てる。
私は雷撃を放っていた。
いつの間にか公国の魔術師で立っているものはいなくなっていた。
一方のお母様の方を見ると蹴りで公王の障壁を叩き割っていた。
「なっ」
「喰らえ!」
驚く公王の顔を蹴り飛ばしていた。
「ギャーーーー」
公王が吹っ飛んで壁に激突した。
「ふんっ、口ほどにもないのね」
お母様はそう言うと王妃様の所に戻ってきた。
「稲!」
「よしよし、もう大丈夫だからね」
アナおばちゃんをお母様がよしよししていたんだけど……
「ギャーーーー」
その時、今まで公王のいたところでまた悲鳴が聞こえた。
「おいおい、魔術をぶっ放そうとしていたぞ。この男。油断するんじゃないぞ。クリス」
そこには転移してきたらしい、帝国皇帝陛下のレオさんがいた。
「レオ、公国はほってきて良かったの?」
「二個師団がいるんだ。後はあいつらに任せておけば良いだろう」
レオさんは適当に言っているんだけど、
「え、ええええ! クリス、お前は何をしているんだ」
レオさんはその時になって初めてお母様がアナおばちゃんを抱きしめて慰めているのを見て、目を剥いていた。
「何しているって、アナを慰めているのよ」
「アナって、お前らいつからそんなに親しくなったんだ?」
どうやらレオさんはお母様とアナおばちゃんが仲良しなのを知らなかったみたいだ。
「いつからって、昔からよ。言っていなかったっけ?」
お母様が平然と確認していたが、
「聞いておらんわ! そもそもお前はディアナに嵌められて王宮から追放されたんじゃないのか?」
レオさんは二人を見て目を見開いていたんだけど、
「元々私はアーデルベルトが趣味じゃなかったから、アナに譲ってあげたのよ」
「じゃあ、嵌められたっていうのは?」
「あれは計画的よ。婚約破棄して私も自由になりたかったのよね」
いけしゃあしゃあとお母様はレオさんに言い訳しているんだけど……
「ええええ! 礼男は全然聞いていなかったの?」
アナおばちゃんが驚いてレオさんに聞いていた。
「おい、待て、俺のことを勝手に呼び捨てにするな!」
レオさんはアナおばちゃんに怒っているんだけど、今までアナおばちゃんとお母様が敵同士だと理解していたからいきなり呼び捨てにされても突いていけなかったんだと思う。
「ええええ! 何故? 前世では呼び捨てにしていたのに!」
衝撃の発言をアナおばちゃんはしてくれた。ひょっとしてレオさんも転生者でこの二人も前世からの知り合い?
「前世? 何の話だ?」
良かった。レオさんには全然通じていなかった。
でも、それはまだ記憶を取り戻していないだけってこと?
「稲、全く話していないの?」
驚いてアナおばちゃんがお母様を見ていた。
その時だ。
「ええい、貴様等! 俺の阿奈に親しく話しかけるな!」
壁に激突していた公王がそう叫ぶと、立ち上っていた。
「何だ? まだ意識があったのか? じゃあ眠らせてやろうか?」
レオさんが公王に宣言した。
「ふんっ、貴様ではもう俺には敵わないぞ。後で地獄で後悔するが良い」
公王はそう叫ぶといきなり黒い瓶を開けてそれを一気飲みしてくれた。
「えっ、毒を飲んだの?」
私が驚いて呟くと、
「それはないんじゃないか」
リックが返事してくれたが、それどころではなかった。
「おおおおおお」
公王は喉を押えて苦しみだしたのだ。
そして、体がどす黒く変色していく。
「な、何だ?」
レオさんが驚いて見ていた。
レオさんの前で苦しげに喉を押えてのたうち回っていた公王がドンドンデカくなっていくんだけど……
服が張り裂けて飛び散る。
公王だった体はあっという間に身長が4メートルを超えた。
なんなのこれは?
「魔人の薬よ!」
お母様が叫んでくれた。
「何だと、こいつは人間を止めて魔人になったというのか?」
レオさんはさっと公王から遠ざかる。
男が天井を突き破っていた。
「キャーーーー」
天井から板や石が落ちてくる。
私は障壁を張って防いだ。
そして、その衝撃が終わった時だ。
天井がなくなった部屋の中に10メートルは超えている魔人が立っていたのだった。
ここまで読んで頂いて有り難うございました
ついに勝てないと判って魔人になった公王。
アミ達はどうなる?
続きをお楽しみに!








