折角やってきた鴨葱の古代竜は私の前から逃げ去ってしまいました
巨大な古代竜がドンドン大きく迫ってくるのが見えた。
「ん?」
なんか見覚えがあるような気がするんだけど、気のせいだろうか?
「総員戦闘配置!」
古代竜を見て急遽、ペーテルス騎士団長が全員に指示を出す。
「総員戦闘配置だ」
「固まって全員で攻撃するぞ」
騎士達かテキパキと動き出した。
集団で空に向けて剣を構えている。
皆、必死に戦おうとしているみたいだ。
「来た! でかい魔石がネギ背負ってきた」
でも、私にはその古代竜が大きな魔石に見えたのだ。
「あれだけ大きいと、魔石のお金で給食一年分くらいになるかな」
私が胸算用していると、
「いや、絶対にそれ以上あるから……というか、アミ、まさか戦う気じゃないよね」
リックが慌てて聞いてきたけれど、
「そんなのさっさと戦うに決まっているわよ。
お母様の前まで来たら一瞬で燃やされて終わりだからね。お母様はお父様が古代竜に殺されてから古代竜を目の敵にしているから。お母様の手にかかったら、跡には魔石も肉も何も残らないのよ。あれだけデカいんだからステーキにしたら絶対に美味しいって!」
私がよだれを垂らさんばかりに言うと、
「いや、アミ、肉食獣はまずいって聞いたことがあるぞ」
リックが否定してくれるんだけど、
「そうかな。絶対に美味しいと思うけどな。あれだけ大きいとステーキ2万食くらいあるわよ。絶対に騎士さん達よりも先にやっつけないと」
そう叫ぶ私の目がステーキマークに変わっていたと思う。
ネギかもを取られたら大変だ。
私がすぐにでも走りだそうと考えていると、
「おい、普通は古代竜を見たら逃げるよな?」
「そうだ。ふつうはな」
ジムさん達が何か言いだした。
「姉御の母娘ん所が異常なだけだからな」
「強い魔物見て、ステーキがネギ背負って歩いてきたとか、歩く魔石だっていうのはアミちゃんだけだから」
お母様のグループの仲間達が大声で私の悪口言ってくれているんだけど、それは今は無視だ。
その時だ。遠くにいた右の方の軍勢がこちらに向けて行進を始めたんだけど……
「あの軍は何なの? 私のステーキを横取りするつもり?」
私がむっとして睨み付けると、
「いや、違うぞ。あれは魔導公国軍だ」
ジムさんが指摘してくれた。
「魔導公国軍?」
「今回は帝国とランフォース王国軍と魔導公国軍が合同で攻め込んできたんだ」
ジムさんが教えてくれた。
勇んで戦ってきたのは帝国軍とランフォース軍で魔導公国軍は今まで後方で高みの見物をしていたんだそうだ。
ぞくりと私の背中に寒いものが走った。
魔導公国と言えば私に呪術をかけてきた魔術師が確か魔導公国の出身だったはずだ。
あれは最悪だった。
またいたらやっかいだ。
まあ、でも、ここにはお母様もいるから大丈夫だろう。
「儂は魔導公国騎士団長のティルピッツだ」
いきなり拡声魔術を使った大音声が聞こえてきた。
「帝国とランフォースはいきなり、我が方を裏切ってノルトハイムと組んだみたいだな。
だが、裏切り者には我が配下の古代竜を向かわせてやるわ。古代竜の威力を身に染みて感じるが良い」
男の大声とともに
「ギャオーーーー」
古代竜の咆哮が響いた。
奴らは古代竜を自分たちの都合の良いように扱えるみたいだった。
ということはこちらに飛んでくるのは確実だ。
「じゃあ、すぐにやっつけないと」
私は駆け出したのだ。
「ちょっと、アミ!」
リックが慌てて追いかけてきてくれた。
「おい、アミ、どこに行くんだ!」
帝国の騎士達に指示を与えていたレオさんも慌ててこちらに向けて駆け出してくれた。
「おい、陛下を守れ!」
「一同、続け!」
騎士達が騎乗してこちらに向けて駆け出してくれたんだけど……
とょっと待ってよ。絶対にネギかもは渡さないんだから!
私は古代竜に向けて加速した。
「ちょっとアミ、危ないって」
「待てアミ!」
後ろからリックとレオさんが慌てる声がした。
目の前に急激に古代竜が大きくなる。
私を獲物と勘違いしてくれたみたいだ。
よし、これで頂きだ。
私は手に魔力を込めた。
ドッジボール大のファイアーボールができる。
これくらいの大きさなら、肉を全部灰にしないはずだ。
「私のお肉、覚悟!」
私が叫んだときだ。
「ゲッ」
確かに古代竜が変な声でなく音が聞こえた。
目を見開いて私を見る。
その顔が何故か驚愕に見開かれているんだけど、こんな可愛い女の子を見て、古代竜が恐怖に震えるって訳が判らない。あんたの方が余程図体もデカいし、見た目も怖いでしょ!
後でエーレンに文句を言ったら、「アミの事がお腹を空かしたハイエナか何かに見えたんじゃないの?」
めちゃくちゃ失礼な事を言ってくれたんだけど……
何故か古代竜は空中で急ブレーキをかけてくれた。
ちょっと、待ってよ。
「喰らえ!」
私がファイアーボールを放ったんだけど、それを古代竜は間一髪で躱してくれた。何故?
そのファイアーボールはそのままこちらに進軍してくる魔導公国軍の真ん中で爆発した。
「ちょっと、ネギかも、待ちなさいよ」
私は逃げようとした古代竜にもう一発放った。
「ギャオーーーー」
しかし、古代竜は起用にそれを避けてくれた。
ドカーーーーン!
「ギャーーーー」
遠くで爆発と魔導公国軍の悲鳴が聞こえるが私はそれどころではなかった。
「死ね!」
「ギャオーーーー」
「喰らえ!」
「ギャオーーーー」
私の攻撃の尽くを躱してくれて、命からがら私のネギかもが空の彼方に逃げて行ってくれたのだった。
「私のネギかもが……」
私は地面に膝をついていた。
古代竜が逃げ去ったた後には、取り逃がしてがっくりした私と、その攻撃を勝手に受けて息も絶え絶えになった半死半生の魔導公国軍が残ったのだった。
アミを見た瞬間、正気に返った古代竜のジルでした……








