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距離を置きたいのに、幼馴染が本気を出してきました  作者: いか人参


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7.髪飾り



(まだ噂収まってないかな…)


翌朝、シュシュアが重い身体を引きずるようにして教室に向かうと昨日とは空気が一変していた。


教壇に向かって半円型の人だかりが出来ており、なぜだか賑わっていた。その騒ぎの中心から溌剌とした声が聞こえてくる。



「これが隣国で流行っているガラスペンだ。中に宝石が仕込んであって光に当てると煌めくんだ。こっちのカフスボタンはピアスと対になっていて、恋人同士で揃えられるようになってる。本国でもすぐに流行るだろう。」


机の上に並べた数々の品を声高に紹介していたのは、レヴィアスであった。皆見たことのない品に夢中になっている。


しかも彼は紹介するだけでなく、次々と欲しがる者の手に渡していた。大盤振る舞いだ。




「ミュイ、何これどうなってるの?」


後ろのドアから目立たないように中に入ったシュシュアが声を抑えて尋ねた。



「私が朝来た時にはもう始まってたわよ。皆目新しい品に夢中で昨日の噂話なんて綿毛のようにどかに飛んでいったわ。公爵家ならではの力技ね。」


「まさか私のために……?」


「勝手なことをしてシュシュアを悪目立ちさせて昨日はいないんだもの。これくらいして当然よ。むしろまだ足りないくらいだわ。こういう時にガッツリ頂いておかないと。借りとして残しておくとのも良いかもしれないわ。」


「さすがの商人魂」


シュシュアが彼女の貪欲さに舌を巻いた。


商才のあるミュイの家では貴族向けの商会を立ち上げ、それを生業としている。損得勘定に敏感で、ガザベル商会が目を付けた品は必ず流行ると有名だ。




「レヴィアス、お前朝から何をやっている。」

「何って隣国の布教だよ。レッカ、お前も手伝え。後よろしくな。」

「おい、ちょっと待て…………」


レヴィアスは登校してきたばかりのレッカに次の目玉である羽付のつばの広い帽子を被せると、トンッと教壇から降りて輪から抜け出した。



「シュシュ」


気付いた時にはシュシュアの目の前にレヴィアスの姿があった。

彼は沈痛な面持ちで堪えるように拳を握りしめている。その顔にはよく見るとクマがあり、並々ならぬ悲壮感が漂っていた。



「昨日は勝手なことを言ってすまなかった。自分の考えを押し付けて一方的に言い過ぎた。君の家に行ったことも軽率だった。重ねて謝罪させて欲しい。」


床に額をこすりつけて謝罪したい気持ちを押さえつけて、レヴィアスは立ったまま真摯な気持ちを伝える。これ以上身分差のことでシュシュアを巻き込みたくなかった。



「……私もひどい言い方をしてしまいました。昨日はその…ごめんなさい。」


きっかけを与えてもらったシュシュアが素直な思いを伝えた。

椅子に座ったまませめてもと頭を下げようとしたが、動きを読んでいたレヴィアスに頭を抑えられてしまった。同時にさっと何かが髪に触れる。



「うん、シュシュにはその色が一番似合う。」


あっという間にいつもの調子に戻ったレヴィアスがシュシュアの頭を見てにこにこしている。とてつもなくご機嫌だ。



「え…なにこれ」


違和感のあった側頭部に手を伸ばすと、硬い何かに手が触れた。



「髪飾り………?」


シュシュアの顔からサーっと血の気が引いていく。急いで取ろうとしたが、結った髪にしっかりくっついており髪が乱れてしまいそうで自分では取ることができない。



「ミュイ、これ早く取って」


ミュイは立ち上がり、キラキラとした瞳で興味深そうに髪飾りに見入っている。その瞳には金儲けの文字がチラついており、頭の中では既に販売経路のシミュレーションが始まっていた。



「これは…隣国の伝統工芸品ね。本物を初めて見たわ。繊細な細工を銀素材に付与出来るなんて凄い技。これはぜひとも販路を確保したいわ。王都で絶対流行るわよ。ふふふ、いくらの儲けになるかしら。」


「商売の話はいいから早くこれを…」


「さすがガザベル商会のご令嬢、お目が高い。商談したければ俺から紹介しようか?」


「ぜひお願いしたいわ!」


「……二人で勝手に話を進めないでよ。レヴィアス様、こちらお返しします。そんな高価なもの頂けません。」


「シュシュアに頂いたそれは広告塔に使わせて頂くわ。他にも品があればぜひうちにご紹介ください。レヴィアス様、今後ともどうぞガザベル商会をご贔屓に。」


「ああ、こちらこそよろしく頼む。」


シュシュアを無視してあっという間に商談が成立してしまった。満足顔のレヴィアスが軽やかな足取りで去っていく。


(嵌められた…………)


返す理由を取られてしまったシュシュアががっくりと項垂れた。


(仕方ない…この分もお返しに乗せるよう親に言おう。……そういえば、メルケン来てるかな?)


頭ではお返しのことを考えつつ、視線でメルケンのことを探した。朝一番に昨日のお礼を言おうと決めていたのだ。


ちょうど今教室にやって来た彼が自席に向かったため、シュシュアも彼の席に向かう。



「メルケン、おはよう。昨日はありがとう。楽しかった。」

「おはよう。うん、僕も楽しかったよ。また行こうね。」


昨日レヴィアスとの諍いで微妙な空気にしてしまったが、メルケンの態度がいつもと変わらなかったためシュシュアが安堵の息をつく。


だが、メルケンの視線が彼女の髪飾りに止まった途端、彼の纏う空気が一気に重くなった。



「ねぇそれ誰に貰ったの?」  


それは普段の明るい彼の声とはまるで異なり、低い声で咎めるような口調であった。



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