6.噂話とアイスクリーム
「トーキン家にレルモント公爵家の馬車が停まっていたんですって。高価そうなものを次々と運び入れていたとか。」
「まぁ!公爵家に輿入れなさるのかしら?でもおかしいですわね…トーキン家は婿養子を希望でしたわよね?一人娘ですもの。」
「だからみんな言ってるわ。きっとこれは一時的になものなんだろうって。それに公爵家には同じ家格じゃないと釣り合わないわよ。」
「同じ公爵家のエリザベス様とお並びになったらきっと絵になって素敵ですわよね。」
休み明けの教室は、レヴィアスがシュシュアに貢いだという話題で持ちきりだった。
好き勝手に言い、最後はエリザベスの方がレヴィアスにお似合いだという勝手な話をするのだからタチが悪い。
1限目の授業が始まるまでの間、シュシュアは席について空気に徹していた。教科書を見るフリをしてレヴィアスの席に視線を向ける。
(この話題の元凶は休みなの……?)
朝イチの授業が始まっても、彼の席は空いたままだった。
「今日は災難だったね。でも人の噂なんてすぐに収まるから気にしなくて大丈夫だよ。」
「ありがとう」
次の休み時間に声を掛けてくれたのは、メルケン・ハーヴィー子爵令息だ。今年に入ってから声を掛けられることが増え、今ではたまに雑談や勉強の話をする仲だ。
「って、頭では分かっていても有る事無い事言われたら堪えるよね…そうだ!放課後アイス食べに行かない?僕が奢るから。」
「アイス…うん、良いかも。せっかくだからご馳走になろうかな。」
メルケンの誘いにシュシュアが笑顔を見せる。
結婚相手は親が決めるからと学園の異性とは一定の距離を保っていたが、今日はもうそんなことどうでも良くなってしまった。
(たまにはいいよね)
また教室から噂話が聞こえてきたが、目先の楽しみを得たシュシュアの心は挫けなかった。
放課後、いつもならミュイと共に帰りの馬車を待つのだが今日は予定があるからと先に帰ってもらった。
「シュシュア、行こうか。」
「うん」
二人で連れ立って王都の街へ向かう。学園から歩いてすぐの距離だったが、ミュイ以外とこうしているのは初めてでなんだか少し落ち着かなかった。
「あそこのアイス屋最近出来たんだ。そこのベンチに座って待っててね。」
いいよ私も一緒に行くと言いたかったのに、メルケンは返事を待たずに行ってしまった。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう」
手が汚れないようにとアイスのカップに自分のハンカチを添えて差し出してくれた。
その気遣いが嬉しいのと同時に、なんだかデートみたいに思えて少し気恥ずかしかった。
「あれ…これ中身は違う味なの?」
「気が付いた?それが面白くて人気なんだって。」
二人はアイスを食べながら次の試験の話や学期末パーティーの話など、たわいもないことを取り留めもなく話した。
甘いものを口にしながらおしゃべりに夢中になる内に、シュシュアの心はすっかり元気を取り戻していた。
「今日は誘ってくれてありがとう。アイスご馳走様。」
「気分転換になったなら良かった。またいつでも話聞くからね。溜め込んじゃだめだよ?」
「うん、気を付ける。」
じゃあまた明日ねと二人が立ち上がったその時、背後から声を掛けられた。
「シュシュ…?こんなところで何やってるの?」
そこには驚愕の表情でシュシュアのことを見ているレヴィアスの姿があった。
彼はスーツの上にフロックコートを羽織り、後ろには従者が控えていた。
「レヴィアス様?今日はお仕事だったんですね。お疲れ様です。」
シュシュアが落ち着いた動作で当たり障りのない挨拶をするが、隣にいるメルケンの顔色は悪い。ばつが悪そうにしている。
「何をやっているのかって聞いているんだけど。」
苛立ちを込めた声でレヴィアスが再度尋ねた。その凍てつく眼光はメルケンに突き刺さっている。貫通しそうな勢いだ。
「メルケンにアイスをご馳走になってました。」
「二人きりで…?」
「ええ」
シュシュアはどうして彼が苛立っているのか見当がつかず、首を傾げながらも簡潔に事実だけを答えた。だが、彼の機嫌は悪くなる一方だ。
「……勘違いされるから、軽率な行動は控えた方がいいよ。」
「勘違い…?ああ、異性とは二人きりだからですか?それなら、休日に異性の邸を尋ねることも控えた方が宜しいかと。」
学園での噂話を思い出し、シュシュアは売り言葉に買い言葉で思わず嫌味を言い返してしまった。
(何も知らないくせに)
恨めしく思う感情が心の奥底から沸き起こる。こんなの八つ当たりでしかないと頭では分かっているのに、意地を張ってしまい止められなかった。
「私たちもう帰るところなので、こちらで失礼しますね。」
隣で固まっているメルケンに帰ろうと声を掛けると、シュシュアはレヴィアスの目を見ることなくその場から立ち去って行った。




