5.もはや貢ぎ物
次の休みの日、レヴィアスは本当にトーキン伯爵家までやって来た。正面玄関前の石畳で出来た停車場に、レルモント公爵家の紋章を付けた豪奢な馬車がずらりと並ぶ。
(量が多いって冗談じゃなかったんだ…)
玄関の前で出迎えをしていたシュシュアの顔が引き攣る。彼女の後ろには気配を消したエリクが控えていた。
「シュシュ、今日はありがとう。これ運ぶの使用人にお願いしていいかな?」
先頭の馬車から降りたレヴィアスが満遍の笑みでシュシュアの前にやって来た。
その後ろの馬車から公爵家の使用人が降りて来て地べたに真紅の絨毯を敷くと、その上に持参した土産物を並べ始めた。
「レヴィアス様、こんなに沢山…ありがとうございます。両親も喜びます。エリク、頂いた品を丁重に邸の中に運んで。」
「畏まりました。」
一礼したエリクが並べられた土産物の山に近づき、一つずつ確認しながら他の使用人に指示して邸の中へ運び入れていく。
(それにしてもかなりの量…これってもはやお土産の域を超えてない?)
その作業を眺めていたシュシュアの目にスルーできないものが次々と飛び込んできた。驚いてギョッとしている。
(え、今ドレス混じってなかった…?なぜか花束もあるんだけど。それにあの山のようなアクセサリーって…)
「レヴィアス様、あのトルソーに掛けられているのはもしや、ドレスでは…?」
「ああ、シュシュアに似合いそうだなと思って。」
「あのアクセサリー類は隣国のものではないですよね?」
「うん、王都みやげ」
「あの赤い薔薇の花束はもはやお土産ではないですよね?」
「あれは俺の気持ち」
「・・・・・」
(言ってること全部おかしいんだけど……………)
悪びれることなく言い放つレヴィアスに、シュシュアは脱力して床に膝をつきそうになる。ちらりと見えた薔薇は12本あったような気がしたが、それは気付かないフリをした。
「お返しはそうだな…贈ったドレスを着たシュシュと出掛けーー」
「レルモント公爵家から頂いたものですから、父に相談してトーキン家としてお返しをさせてもらいますね。」
余計なことを言われる前にシュシュアが先手を打った。笑顔を携えながら、あくまでも家同士の付き合いであることを全面に出す。
「分かったよ。ご両親にはお返しはいらないと伝えてくれ。」
「何から何までありがとうございます。」
すぐに引いてくれたことに安堵しつつ、シュシュアの胸がチクッと痛んだ。
(社交辞令を本気にしちゃった。彼は形式的に声を掛けてくれただけなのに。)
二人が話している間に品は全て邸内に運び込まれたようだ。絨毯も回収され、片付けまで終わっていた。報告を受けたレヴィアスが最終確認を行い、御者に撤収の指示を出す。
「俺はこれで失礼するよ。」
「もうお帰りですか?せっかくいらしたのですから紅茶の一杯くらい…」
未練なく立ち去ろうとするレヴィアスに、シュシュアは彼の腕を取って引き止めたい衝動に駆られた。
彼が来る直前まで、「やっぱりお茶くらい誘わないと失礼だよね。でも何を話したらいいの…」と青い顔をしていたのに、いざ本物を目の前にすると湧き上がる感情がまだ胸の内にあることを自覚してしまうのだ。
「シュシュが誘ってくれるなんて…社交辞令でも嬉しい。でも今は帰国したばかりで予定が立て込んでいて…本当にすまない。また学園で。ランチも一緒にとろう。」
「そうですよね…いえ、忙しいのに引き止めてしまってすみません。気を遣って頂かなくて大丈夫です。気にしないでください。」
「もう少ししたら落ち着くから、また改めてデートに誘わせて。その時に贈ったドレスを着てくれることを楽しみにしてる。」
レヴィアスは少年のように屈託のない笑顔を見せた。喜びに胸弾ませたいような嬉々とした最後の言葉はとてもじゃないが、社交辞令には聞こえなかった。
どう返して良いか分からず狼狽るシュシュアを、彼は微笑ましく眺めている。
放っておいたらいつまでも彼女のことを見ていそうだったが、御者にそろそろ時間ですと催促され、亀よりも遅い動作でノロノロと未練がましく帰って行ったのだった。
馬車を見送ったシュシュアは現実を受け止めきれず、しばらくの間その場から動けずにいた。
(デートって言ったよね………)
あの真剣な双眸が脳裏に焼きついて離れず、どう穿った見方をしても言葉通りデートの誘いにしか思えなかった。
呆然とした様子で棒立ちしているシュシュアの元へ、自分の仕事を終えたエリクがやって来た。
「お嬢様、貰った品は全てリストにし、領地にいる旦那様へ知らせる手紙を用意しました。」
「さすがエリク、仕事が早くてちょっと引く。」
「お褒めに預かり光栄です。」
エリクがわざと大仰に一礼をした。それが様になっていて余計に腹が立つ。
「お土産…というよりプレゼント?あれ全部でとんでもない金額になるんじゃない?」
「もはや貢ぎ物ですね。ざっと目にした肌感ではありますが、手頃な大きさの邸1棟は余裕だと思われます。」
「ですよね……………………」
公爵家の恐ろしさを目の当たりにしたシュシュア。これは自分の手には負えないと、父親に丸投げすることに決めたのだった。




