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距離を置きたいのに、幼馴染が本気を出してきました  作者: いか人参


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3.レヴィアスの噂


二人で歩くこと僅か30秒、世間話をする間も無く食堂に続く渡り廊下の始まりに到着した。役目を果たしたシュシュアがそこでピタリと足を止める。



「では私はこれで」


「ありがとう。とても助かったよ。御礼にランチをご馳走させて欲しい。」


ここからが本番だとレヴィアスがにっこりと微笑み掛けるが、シシュシュアは思い切り目を逸らした。



「私は友人と約束しているので失礼しますね。」


「あ、シュシュ…」


言葉の途中から彼女は既に後ろを振り返っており、言い終わるや否や脱兎の如くその場から逃げ出した。彼女に伸ばしかけたレヴィアスの手が空を掴む。


落胆して肩を落としている彼の背後から鼻で笑う声が聞こえた。



「フッ…強引な男は嫌われるぞ。」


「レッカ煩い。」


「お前から愛称呼びされるって複雑な気分になるな。」


通りがかりに話しかけて来たレッカに構わずレヴィアスが食堂へと向かっていく。

中で待っていればシュシュアに会えるかもしれないという下心で、入り口がよく見える窓に面した席を陣取ったのだった。



***



「シュシュア、いつの間にレヴィアス・レルモントと仲を深めてたのよ。私に隠し事なんて良い度胸ね。さぁ、洗いざらい話しなさい。」


サンドイッチを摘んだ手をシュシュアに突き出し、ミュイが厳しい目を向けて追求してくる。


昼休みの今、二人はシュシュアの強い要望により、食堂ではなく、購買で購入したランチを中庭のベンチでとっていた。

やや乾いた風が心地よく、降り注ぐ日差しが暖かい。絶好のピクニック日和だったが、シュシュアの胸中には波風が立ちまくっている。



「昔からの知り合いってだけだよ。」


「昔からの知り合いねぇ…彼の方はそんな風には見えなかったけど?かなり親しげに声を掛けられていたわね。」


「久しぶりに戻って来た母国で知り合い見つけてテンション上がっただけじゃない?あっという間に人気者になって私に構うことなんてなくなるよ。」


(………たぶん)


シュシュアは心の中で付け足した。

そうだと思うのに、なぜか嫌な予感がしてならない。



「でも前は仲良かったんでしょう?愛称呼びしてたくらいだし。」


「う゛」


「だったら別にわざわざ避けなくてもいいじゃない。無理に距離を置かず普通に仲良くすれば?」


「………だってほら、彼の好きな人や彼を好きな人の邪魔になるし。だから私は余計なことをしたくなくて、もう関わらないことにしたの。」


シュシュアは手にしていたサンドイッチを口いっぱい頬張って紅茶を飲み、胸の内から込み上げそうになる想いと共に腹の奥底へと流し込んだ。


貴族令嬢らしからぬ粗雑な食べ方にミュイが呆れている。



「まぁ、彼には色々と良くない噂もあったし、少し様子を見ても良いかもしれないわね。」


「良くない噂って………?」


「あらもうこんな時間!早く戻らないと。購買が混んでたせいね。明日からはまた学食で食べるわよ。いいわね?」


「あ、うん。」


シュシュアは話をはぐらかされたように思ったが、授業に遅れるわけにもいかず、結局ミュイに急かされるまま教室へと戻って行った。



***



学園から帰宅したシュシュアは、着替えを済ませるとエリクを自室に呼びつけた。彼は幼い頃から仕えている彼女専任の執事だ。


将来領地経営に関わることもあるため、父親からの指示で早々に執事を雇い、勉強を兼ねて彼と共に家業を手伝っているのだ。



「エリク、調べて欲しいことがあるんだけど。」


執事服を着たエリクはシュシュアより5つ年上で、黒髪に赤い瞳をしており、前髪は上にあげて几帳面にセットしている。白い肌は陶器のように滑らかで、黙っていれば見た目は美青年だ。



「本日編入されたレヴィアス様のことですね?隣国に行った経緯ですか?それとも貴族社会で噂されていたことの真相でしょうか。」


シュシュアの表情から瞬時に読み取ったエリクは、寸分の狂いなく言い当ててくる。


(うわ……的確過ぎてちょっと…気持ち悪)


「お嬢様そこは、さすがは私の執事とだけ頂ければ幸甚かと。……それと、引いた目を向けるのはおやめ下さいませ。」


エリクは言葉とは裏腹に、何一つ気分を害することなく手袋をつけた手で優雅に紅茶を用意し、彼女が座っているソファーセットのテーブルに音を立てずに置いた。



「彼の噂ってどんなものなの?」


シュシュアが紅茶を口にしながら尋ねる。



「複数ありますが、どれも良くないものですね。無断外泊を繰り返している、女遊びがひどい、親の罰で隣国に行かされたなど。夜会に頻繁に足を運ぶような噂に敏感な貴族達の間では有名な話です。」


「え゛…なにそれ。彼ってそんな酷い人間だったの?人って見かけによらないんだね…」


(なんか二度目の失恋をしたような気分だ)


頭を抱えて呻き声を上げるシュシュアに、エリクが銀のトレーに乗ったチョコレートを差し出した。それはこの国では貴族にとっても高級品であり、シュシュアの好物だ。



「噂はあくまでも噂ですので、本当のことを知りたければ本人に尋ねる他ありません。」


「それは…そうだけど。」


(確かに少しだけ気になるけど、今更そんなことを聞いてもね…)


だって、


彼が変わり果ててしまったとしても、私にはもう関係のない話だから。こんなこと気にするだけ時間の無駄だよ。


彼のことを考えるのはこれでおしまいにしよう。

もうこれ以上心を乱されたくないから…



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