29.【番外編】新学期初日
婚約後、初めて登校した時のお話です。
新学期初日、朝の教室でレヴィアスが堂々と宣言をしたため、お昼休みを迎える頃には婚約の話題は落ち着きつつあった。
仲睦まじく昼食に向かおうとする二人に、いくつもの微笑ましい視線が集中する。だがその中には異なる視線もいくつか混じっていた。
「…なんか見られてる?」
良くない視線に気付いたシュシュアが教室を出ようとした足を止め、軽く後ろを向く。男子生徒数名がこちらを見て何か話しているようだった。
「俺たちのことが羨ましいんだろう。」
朝から頬が緩みっぱなしのレヴィアスが握りしめたシュシュアの手を軽く引っ張る。早く二人きりになりたくて仕方ないらしい。
「うん…」
シュシュアが視線を前に戻そうとした時、彼らの会話が聞こえて来た。
「婚約って本当なのかよ。」
「そりゃそうでしょ。朝からあんなイチャついてたし。クソ羨ましい。」
「でもあのレヴィアスだぜ?いつもシュシュアに断られてただろう?何がどうなっていきなり婚約なんだよ。」
「それはもう………金と顔か?」
「あと、地位な。」
「「「たしかに」」」
一同が納得したように大きく頷き合う。
どうやら彼らの中では、シュシュアはレヴィアスのスペックに堕ちたことになったらしい。
(なんてことを言うの…………!!)
話を聞いてしまったシュシュアの顔から血の気が引く。
(つっけんどんに振る舞ってきた私のせいだ…どうしよう…このままだとレヴィアスのことを悪く思われちゃう。)
自分が冷たくしていたせいでレヴィアスの心象を悪くしてしまっている。出来ることなら出会った初日からやり直したいとさえ思ってしまった。
すぐ隣に立つレヴィアスのことを仰ぎ見る勇気はなく、きゅっと唇をキツく結んで下を向いた。
その時、身体の向きを変えたレヴィアスにつられて繋がれていた手が少し引っ張られた。
「おい」
短い呼びかけは低く高圧的で、教室内が静まり返る。
会話をしていた男子生徒達だけでなく、この場にいた全員の視線がレヴィアスに集まった。緊張が走る。
「レヴィー?早く行こう?」
引き止めようと軽く手を引っ張るが、レヴィアスは微動だにしない。彼の全身から怒りのオーラがみなぎっていた。
(どうしようっ…このままじゃ暴力沙汰になってレヴィーが退学させられるっ…)
シュシュアの頭の中に最悪の事態が浮かぶ。自分の過去の振る舞いのせいで彼の将来を潰すわけにはいかない。
覚悟を決めてレヴィアスの前に出た。
「あのっ!私だって小さい頃からずっとレヴィーのことが好きで好きで好きで…だから婚約出来たのが今も夢みたいで…それは家柄とか顔とかそんなことは全く関係なくて、レヴィーそのものが大好きなんですっー!!」
静寂を破り、ひと息で言い切ったシュシュア。頬を紅潮させ、はぁはぁと肩で息をしている。
「………それは反則でしょ。」
耳まで真っ赤にしたレヴィアスが両手で顔を覆った。喜びに心臓を貫かれ、全身の血液が沸騰する。頭がおかしくなりそうなほど、歓喜に湧いていた。
「「「すいませんでしたーーーー!!」」」
女の子の本気の告白を目の当たりにした男子生徒達は飛び上がるようにして直立し、シュシュアに向かって思い切り頭を下げた。
自分たちがどれだけ品のない話をしていたか気付いたらしい。
「い、いえ!こちらこそ勝手にすみません!どうぞお気になさらず!」
シュシュアがよくわからないことを言いながら、両手を振り回した。今頃羞恥心が襲って来たらしい。林檎のように頬が真っ赤に染まっている。
「シュシュ、ちょっと俺の後ろに隠れてて。これ以上その可愛い顔を見せたくないから。」
「えっ?」
小柄なシュシュアは彼の後ろにすっぽりと隠されてしまった。
ガラリと表情を変え、凶悪な笑みを浮かべたレヴィアスが元凶の男子生徒達に向き合う。
「お前ら」
「「「は、はいっ………」」」
蛇に睨まれた蛙のごとく、自ら床に正座をし始めた男達。背筋を正して今にも泣きそうな顔でレヴィアスのことを見上げる。
「二度と俺のシュシュのことを呼び捨てにするな。いいな?今度やったら家ごと潰すぞ。」
「「「ひゃいっ!!!」」」
あまりの迫力に悲鳴のような声で返事をした男子生徒達。その顔は恐怖に染まり、プルプルと子鹿のように震えていた。
「え」
(怒っていた理由って、そんなこと…?それじゃあ私の言ったことって…)
予想と違ったレヴィアスの怒りポイントに、シュシュアの心臓が早鐘を打ち始める。今度は自分のしでかした失態に全身から血の気が引いていった。
「れ、レヴィー!今のはなんていうかその…忘れて!!」
「ん?好きな人のあんなにも熱い想いを忘れるわけがないだろう?」
「ちがっ…」
「え、違うの?シュシュは俺のことを好きで好きで好きでたまらないんじゃないの?」
「………もうっ!!」
肯定も否定も出来ず、速くなる鼓動に耐えきれなくなったシュシュアがふくれ面をしてそっぽを向く。
「ねぇ、シュシュ。」
繋いだままの手を引っ張り、シュシュアのことを自分の腕の中に閉じ込めたレヴィアス。恍惚の表情で大きく息を吸い込むと、首を曲げて彼女の耳に唇を寄せた。
「俺だって、シュシュのことが好きで好きで好きで好きで好きで堪らないんだ。だからさ、少しだけ浮かれさせて。」
「……っ」
大好きなレヴィアスの声がすぐそばで聞こえる。甘美な声音はシュシュアの奥深くまで侵食していき、彼女の心を掴んで離さない。
際限なく愛しさが込み上げてくる。
「……うん」
腕の中でこくりと頷いたシュシュア。抱きしめるレヴィアスの腕の力が一層強くなる。
空気を読んだ他の生徒達が一人また一人と、足音を殺して教室から出て行った。
その後、二人がお昼を食べ損ねたことは言うまでもない。
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