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距離を置きたいのに、幼馴染が本気を出してきました  作者: いか人参


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25.ドキドキ晩餐会



「いやはや、公爵家サイン済みの婚約届まで用意しているとはな。準備が良いにもほどがある。これがレルモント公爵家次期当主の手腕か。」


「恐れ入ります。」


「別に褒めてないんだがな。」


「・・・・はい」


伯爵の嫌味に、レヴィアスが苦笑いをして小さくなっている。



「あなた、もう認めたのですからグチグチ言うのはいけませんわ。レヴィアス君、隣国のお土産どうもありがとう。見たこともない素敵な布地が沢山あって、眺めているだけで嬉しくなるわ。」


「お気に召して頂けたのなら幸いです。」


「……ああ、分かってるよ。」


伯爵夫人のフォローに、レヴィアスが息を吹き返した。緊張しながら隣で見守っていたシュシュアも内心ホッとしていた。


レッカは自分には関係のないことだとひとり優雅にグラスを傾け、トーキン領名産のワインに舌鼓を打っている。



無事に結婚の許しを得た後、3人は晩餐の席に招待されていた。テーブルの上には、領地の特産品とこの国の高級食材をふんだんに使った華やかな品々が並んでいる。

ぼやきの止まらない伯爵を除けば、先ほどのサロンとは異なり和やかな雰囲気であった。



「レッ…レカリア様はいつからこちらに?」


「これまで通りレッカでいい。口調も気安いもので構わない。俺もこの口調を変えるのは面倒だからお互い様だ。」


レッカの正体を知ってから変によそよそしい態度の伯爵に、彼は面倒だと手で払う仕草をしながら言い含めた。

 


「………では、お言葉に甘えて。そうさせてもらおう。」


伯爵も緊張しながらその有り難い提案に頷いた。



「俺は高等教育は全て履修済みだから本来であれば今すぐにでも可能なのだが…そこの睨んでくるやつがちと面倒でな。」


レヴィアスの視線を受け、はぁと鬱陶しそうにため息を吐いたレッカが、グラスを手にして一気にワインを流し込んだ。



「シュシュア嬢がレルモント家に輿入れするのと同時に俺をトーキン伯爵家に移籍させたいらしい。一時的でも俺と彼女が家族になるのが許せないそうだ。くっくっく。」


「え」

(まさかのそんな理由で?)


話を聞いているだけだったシュシュアから思わず声が出た。やや引いた目つきで隣に座っているレヴィアスへ目を向ける。



「そんなこと当たり前だろう。それに、お前だって保留にしていた王位継承権を放棄してこの国に帰化する手続きをするんだから、最低でも半年は掛かるはず。大差ないって。」


「まぁそういうことにしてやろう。」


レッカは酔いが回っているのか、くつくつと愉快そうに笑っていた。


(そういう事情もあるんだ…なら良いのかな)


レヴィアスの説明に納得したしたシュシュアは、グラスに注がれたアルコール度数の低い果実酒で乾いた喉を潤した。



「今回の長期休暇は特に予定が無いからこのまま滞在することも可能だ。あとはそちらの都合次第だな。」


レッカからの提案に、伯爵がぱっと顔を上げて分かりやすく表情を明るくする。



「うちとしても是非そうしてもらいたい。この時期は事務作業が多くて大変なんだ。…だから最初からそのつもりで馬車2台で来ていたのか。いやぁありがたい。」


これで締めのこの時期も乗り切れると伯爵がひとり手を叩いて喜んでいる。


(馬車を分けたのはたぶんそういうことじゃなかったと思うけど…でもお父さんがご機嫌だからいっか。)


シュシュアは余計なことを言わないようにして、伯爵に合わせてにこにこと微笑んでいた。



「いや?馬車を分けたのは、そこの矮小な男が俺とシュシュア嬢を同席させたくなかっただけだ。それ以外の理由など存在しない。」

「は?」


(………レッカ様どうして余計なことを!)


しれっと本当のことをバラしたレッカ。シュシュアの顔が青くなっていく。


伯爵からは地を這うような低い声が返ってきた。その人を殺しそうな威圧的な視線の先はもちろんレヴィアスだ。



「娘とは節度を保った付き合いをしてくれよ。まだ婚約者の身だ。いいな?」  


「もちろんです。肝に銘じておきます。」


手にしていたカトラリーを音を立てずにテーブルに置くと、膝の上に両手を置いて背筋を伸ばしたレヴィアスが真っ直ぐに頷いた。


その凛々しい横顔を盗み見たシュシュア。胸の内側にじんわりと温かなものが広がっていた。




晩餐後は皆それぞれの部屋に引き上げた。

客室と反対方向だったが、シュシュアは自室の前までレヴィアスに送ってもらっていた。



「シュシュ、今日は本当にありがとう。疲れたよね。ゆっくり休んで。」


「こちらこそ、ありがとう。でも私、レヴィーがあんなに準備してくれてたのに何も知らなくて…これまであんな酷い態度を…」


「言わなかったのは俺だから。ちょっとこれにもわけがあってね。また明日帰りの馬車の中で話をしよう。シュシュは何も悪くないよ。」


レヴィアスはふんわり微笑むと、握っていたシュシュアの手を持ち上げその甲にそっと唇を押し当てた。

その動作は目を奪うほど優雅で美しく、シュシュアは頬を染めて見惚れてしまった。



「ちょっとシュシュ、そんな可愛い顔しないで。俺今浮かれてて何するか分からないから。嬉しいけど、今はまだやめて。」


「なっ…………………」


「ふふふ。おやすみ、俺の可愛い人。」


レヴィアスはシュシュアの頭のてっぺんにキスを落とすと、自分の部屋に戻って行った。



「はぁ…慣れないなぁ…」


中に入り、自室のドアを後ろ手で閉めたシュシュア。


ドアを背にしたままずるずると下がって床に尻をつき、しばらくの間動けずにいたのだった。




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