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距離を置きたいのに、幼馴染が本気を出してきました  作者: いか人参


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24.説得


馬車の旅は順調で、途中昼休憩を挟みながら午後のお茶の時間にはトーキン伯爵家本邸に到着することが出来た。


レヴィアスのエスコートでシュシュアが馬車を降りると、正面玄関前に使用人が一同に介しており、二人は熱烈な歓迎を受けた。



「お帰りなさいませ、お嬢様。ようこそお越し下さいました、レヴィアス様。」


代表してこの邸の家令が前に進み出て、美しい礼と共に挨拶の言葉を口にした。



「短い間だけどお世話になるから宜しくね。」


「お世話になります。」


「勿体なきお言葉です。久しぶりにお嬢様のお顔が見られると旦那様方が心待ちにしておりましたよ。ご案内いたします。」


二人は案内されたのは、庭園を一望出来るガラス張りのサロンだった。


大理石の円卓の上座には、既にシュシュアの両親が並んで座っていた。円卓の中央には花が飾られ、人数分のティーセットと茶菓子が用意されている。



「お父さん、お母さん、ただいま。」

「おかえり。」「おかえりなさい。待ってたわよ。」


シュシュアの両親がにこにこと穏やかに出迎えてくれた。



「あの、今日は…」

「それで、どうして君がうちの娘と一緒にいるんだ?」


シュシュアがレヴィアスのことを両親に紹介しようとしたその時、父親である伯爵の雰囲気が一変した。その表情は険しく、穏やかだった声音は氷のように冷え切っていた。



「お父さん、そんな言い方っ…」

「本日は、シュシュア嬢との結婚を認めて頂きたく参りました。改めまして、レルモント公爵家が嫡男レヴィアスと申します。」  


レヴィアスはシュシュアに笑顔を向けると、怯むことなく堂々とした美しい所作で挨拶をした。



「君の家にも、君自身にも、跡取りの君に娘はやれないと再三言ったはずだが?忘れてしまったのか?」


「…いえ、覚えております。それでも俺は彼女のことを諦め切れなかったのです。シュシュア嬢は俺の初恋で、俺の人生になくてはならないたった一人の存在なんです。彼女に恋をして愛を知って、彼女も自分と同じ気持ちだと知ることが出来ました。愛する相手と同じ気持ちなのに、どうしてそれを手放せましょう。」


レヴィアスの声には熱がこもっており、愛しげにシュシュアに向ける瞳には深い愛が込められていた。だが、そんな彼を見る伯爵の目はどこまでも冷淡だ。



「愛だの恋だの言えるのは、所詮責任を持たない平民だけだ。私たち貴族には領民を守る義務と責任がある。それともレルモント公爵家は好きな相手が出来たら簡単に領民ごと領地を見捨てるのか?」


「いいえ。領民は私たち領主が守るべき存在であり、その繁栄に尽くすのが貴族の役目です。そのための税収入だと理解しております。」


「それなら分かるだろう?理想論だけで領地経営は出来ないのだよ。」


全く譲る気のない伯爵は、鼻で笑いながら紅茶を口にした。


(どうしよう…私からも何か言うべきだよ…ね?)


普段柔和な父の姿からは想像もつかないほど厳しい姿勢を見せる伯爵に、シュシュアの動揺が止まらない。

突如として始まった応酬に、どうしていいか分からず横にいるレヴィアスの顔を見上げたが、彼の目は澄んでいて穏やかであった。



「ええ、仰る通りだと思います。だから俺は、代わりにトーレン領を任せられる人物を紹介したく参ったのです。」


「代わりに任せるだと…?」


伯爵の怒りが強くなった。こめかみに青スジが出始めている。レヴィアスの突飛な申し出に、隣に座っている伯爵夫人もあまりよく思っていなそうな顔をしていた。


彼が控えていた使用人に声を掛けると、しばらくして一人の人物がサロンへとやって来た。



「ご無沙汰しております。」

「君はまさか…レッカ君か…?」「まぁ!」


現れたのは黒縁眼鏡を外して前髪を分け、麗しい碧眼を露わにしたレッカだった。


(どうしてレッカ様が…?)


彼が来てから一気に空気が変わった。



「実習では大変お世話になりました。ただ一つ謝らなければならないことがあります。私は貴方方に嘘を吐いていました。」


「なんのことだ…?」


「私の本名はレカリア・ギンガムルードです。」


「ギンガムルード…まさか…」


本来の姿を見て本名を知った伯爵が顔色を変えてわなわなと震え出した。



「御察しの通り、私はギンガムルード王国の第三王子です。騙すような真似をして申し訳なかった。」


「なぜそんなことを…いや、なぜこのようなことをされたのですか?」


相手の本来の立場を知り、伯爵が言葉を言い直した。本来であれば口を聞くことも許されない高貴な相手に、緊張と動揺で変な汗が額に滲む。



「そこのレヴィアスに口説かれたんだ。王位継承争いに疲弊していたこの俺に、命を狙われない場所で穏やかに生きたくはないかと。魅力的な誘いだったよ。王位継承権を捨てても自国に留まれば、派閥に担ぎ上げられる可能性が高い。暗殺に怯えてまで生きたくはなかった。」


「待ってください…お気持ちはわかりましたが話が見えません。……ま、まさか…うちに養子に入って領地を継ぎたいということでしょうか…」


「ああ、俺は安寧の地が欲しい。貴方達は領地経営の跡継ぎが欲しい。利害の一致だと思わないか?俺の手腕はあの時見せた通りだ。まさか不服だとは言うまい。」


淡々と話すレッカと、徐々に顔色を失っていく伯爵。最後は疲れ果てたようにため息を吐いた。



「君はこのために隣国に留学していたのか?」


覇気のない声で伯爵がレヴィアスに問う。



「もちろんです。俺の行動原理は全て彼女ですから。一番良いと思うやり方考えて実行した次第です。」


「……私が血縁者しか認めないと言ったらどうする?」


「調べたところ、前々当主は養子だったとか。そのため、血筋よりも領地経営の手腕を重要視するだろうと推察しました。」


淀みなくスラスラと答えるレヴィアスに、伯爵が諦めた顔で深く息を吐いた。



「私の完敗だよ、レヴィアス君。これだけの気概と豪胆さがあるんだ。娘のこともきっと幸せにしてくれるだろう。」


「お許しいただき誠にありがとうございます。俺の全てをかけて必ず幸せにします。」


互いに頭を下げ、固い握手を交わした二人。


伯爵はまだ複雑そうな顔をしていたが、伯爵夫人の方はレヴィアスの手腕に感服しているようだった。


年月をかけて用意周到に準備をしていたレヴィアスのおかげで、シュシュアが口を挟む隙はひとつも無かったのだった。



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