22.告白
「あの…これ…レヴィアス様が冷えてしまいます。」
彼のジャケットを肩にかけて貰っていることに気付いたシュシュアが慌てて返そうとするが、レヴィアスはその手を優しく押し返した。
「俺は大丈夫。その代わりといってはなんだけど…少しだけ俺の話を聞いてくれないかな?」
「……はい」
本当は聞きたくなかったが、レヴィアスの瞳があまりに真剣で切なげで、シュシュアは逃げることが出来なかった。
「しつこいって呆れられるかもしれないけれど…」
自信無さげに視線を迷わせていたレヴィアスだったが、一つ息を吐くと覚悟を決めた瞳でシュシュアのことを見る。空気がヒリつくほど真剣な眼差しには、並々ならぬ熱と欲が込められていた。
「俺はシュシュのことが好きだ。」
「…っ」
真正面からぶつけられた言葉に、トクンッとシュシュアの心臓が跳ねた。抗えない悦びと恐怖が入り混じった感情が心の中に蠢く。
受け入れられないと頭では分かっているのに、浮き足立つ心を止められない。だから、喜びに満たされたその後で、またこれを拒絶しなければいけないのかと絶望に染まっていくのだ。
(だから関わりたくなかったのに)
下を向いたシュシュアが泣きそうな顔をして奥歯を噛み締めた。
「ねぇ、シュシュは俺のことをどう思ってる?」
少しだけ近づいて距離を詰めたレヴィアスが俯くシュシュアに、ひどく優しい声で尋ねてきた。責めることも急かすこともせず、ただ真っ直ぐに彼女の心に問いかけてくる。
「家のこととか将来のこととか何も考えず、君の気持ちを聞かせて欲しいんだ。シュシュが俺のことを嫌いだと言うなら今この瞬間きっぱり諦める。もう近づかないと約束する。でももし、少しでも気があると言ってくれるなら…」
レヴィアスが優しく包み込むようにシュシュアの手を取る。
「その時は、俺が立ちはだかる問題を全て解決すると誓う。」
「……っ」
シュシュアは顔を上げられなかった。
(それは…レヴィアスと結婚出来ることを暗に示してる?…でも実際にそんなこと出来るわけがない。私に家を見捨てることなんて出来ないから。)
「俺に必要なのは君の気持ちだけだ。今だけ、公爵家の嫡男じゃなく、ただの幼馴染のレヴィーとして見て欲しい。……それとも俺はシュシュにとってどうでもいい存在なんだろうか。」
(どうでもいいなんて……そんなこと…)
昔と変わってなくて
いつだって優しくて
私を理解してくれて
陽だまりのように暖かくて
こんなに自分のことを想ってくれる人が
私にとってどうでもいいわけない。
私だってレヴィアスのこと
「シュシュ」
泣きたくなるような優しい声で名前を呼ばれた。見上げると自分を見つめる菫色の瞳と視線がぶつかる。
どこまでも真っ直ぐな彼の瞳には、やっぱり見透かされているような気がした。自分の気持ちを知っていてワザと言わせようとしてるんじゃないかとか、そんなことさえ考えてしまう。
(どうにもならなくても、自分の気持ちを言うだけなら…一生に一度くらい…)
シュシュアは、レヴィアスの瞳から目を逸らさずに深く息を吸い込んだ。
「……私だってレヴィーのこと好き。」
初めて口にした自分の本音は想像した以上に素っ気ない口振りだった。まるで言わされたかのようなイヤイヤ感さえ感じられる。だが、ようやくシュシュアの本当の想いを聞くことが出来た当人は破顔した。
「きゃっ!」
「……っ。俺もシュシュアのことを愛してる。」
抱きしめられたと認識すると同時に足元が地面から離れて浮遊感に包まれ、悲鳴を上げるシュシュア。有頂天になったレヴィアスに抱き上げられ、くるくると回されていたのだ。
「ああもうどうしようっ…嬉しくて嬉しくて心臓止まりそう。…いや、その前に式を挙げないと。死んでいる場合じゃないな。」
「ちょっ…早く下ろしてっ…」
目が回ってきたシュシュアを支えながら優しく地面に立たせると、レヴィアスが今度は正面から抱きしめてきた。
「ねぇちょっと……」
「嫌ならすぐにやめるけど?……うん、ならやめてあげない。」
「///////////////」
沈黙を了承と捉えたレヴィアスがシュシュアの肩に顔をうずめて、抱きしめる腕に力を込める。ようやく手にした幸せを噛み締めるように、全身で愛する彼女を堪能していた。
「悪いけどしばらく離せそうにない。10年分抱きしめさせて。」
「誰かに見られたら…」
「明日、シュシュのご両親に挨拶に行こう。結婚のお許しを頂く。」
「えっ」
シュシュアが驚いた声を出した。レヴィアスは晴れ晴れとした表情をしているが、まだ気持ちを伝えただけの彼女は展開の速さについていけない。
「詳しいことはまた明日話すから、今はシュシュを堪能させて。ね?」
「…………っ」
ぎゅうぎゅうと確認するように抱きしめられ、シュシュアの顔が限界まで赤く染まっていく。
「おい、その辺にしておかないと風邪引かせるぞ。」
「…チッ」
空気を読まずに声を掛けてきたのはレッカだった。様子を見ていたのか手には厚手のブランケットを携えており、それをレヴィアスに手渡した。
彼は受け取ったそれでシュシュアの身体を包み込んだ。
「その様子だと…合意の上か?よもや無理やりということは…」
「水を差すな。晴れてシュシュと両思いになれて浮かれまくっているところだよ。」
本当か?とレッカがシュシュアに視線で尋ねてきたため、恥ずかしそうにしながらも彼女はコクコクと何度も頷いていた。
「ならいいが。明日は予定通りか?」
「お前はもう少し情緒というものを…」
レッカの現実的な一言に、浮かれまくっていたレヴィアスが落ち着きを取り戻した。
「ああ、明日はよろしく。」
「任せておけ」
頷き合う二人を頭に疑問符を浮かべて眺めるシュシュア。
(レッカ様も何か関係があるの…?)
男二人だけ理解した空気を醸し出しており、シュシュアは置いていかれたままだった。




