20.着ていくドレスは
2学年最後となった今日、授業は午前中で終わり、レヴィアスは久しぶりに登校したレッカと共に帰りの馬車に揺られていた。
「どうだった?」
「とても良くしてもらった。だいぶ気に入られたみたいで、婚約者はまだ決まってないのかとしつこく聞かれたぞ。」
「……それでなんて答えた?」
「まだ決まってな……冗談だからそう睨むな。当初の計画通り、親の方で検討している相手がいるようだとぼかしておいた。」
「チッ」
「協力者にその態度はないだろう。相変わらず矮小な奴め。」
嫉妬心を剥き出しにしてくるレヴィアスに、レッカが心底呆れている。
「お前の方は芳しくないようだな。フフッ」
「……そんなことない。二人きりでランチしたし、放課後にお茶だってした。ほら、何もかも順調だろ。」
「それを成せたのは、ミュイ嬢の口添えがあったからか?」
「う…」
図星のため何も言い返せなかった。レッカが勝ち誇ったような強者の笑みを向けてくる。
「まぁ俺としては、お前が無様に散るのを見たい気持ちも山々なんだがな。」
「おい」
「俺の人生も掛かっている。好きな女の一人くらい手に入れてみせろ。」
「分かってる。」
けしかけられてばかりいるレヴィアスは鬱陶しそうにため息をつき、窓の外に視線を向けた。
「どうして期日が2学年の終了までなんだ?あと1年あればもっと確実だろうに。」
レッカが今更なんだがと疑問に思っていたことをふと口にした。それに対して、レヴィアスは目を丸くしてぽかんとした顔で彼のことを見ている。
「なんでって…そんなの婚約期間は最低1年と王法で定められているからだろう?」
「要領を得ないな。どうして婚約期間が1年だと3学年まで待てないのだ?」
「いやだって、卒業と同時に結婚したいじゃん。」
「は」
「10年も待ったんだ。もうこれ以上は耐えられない。一分でも一秒でも早く俺だけのものにしたい。」
「酷いな。」
レッカはドン引きを通り越して軽く軽蔑した目でレヴィアスのことを見ていたが、シュシュアとの結婚に思いを馳せる彼の視界には映っていなかったのだった。
***
「明日はその髪飾りをつけていかれるのですか?」
「うーん、ミュイには良い機会だから必ずつけてきてと言われちゃったけど、これに合わせるドレスが問題だよね…」
明日は学期末パーティーだというのに、シュシュアは未だ着ていくドレスを決められずにいた。
一応この日のためにと親が送ってくれたドレスがあるのだが、如何せん存在感のあるこの髪飾りと相性が悪いのだ。
「髪飾りと合わせるのなら…以前土産に紛れ込ませて送って来たレヴィアス様のドレスか、先日ミュイ様から頂いたドレスかの二択になりますね。ただ残念ながら後者は現在クリーニング中のため明日には間に合いません。」
「そうなんだよね…」
エリクの言う通り、この場合髪飾りに合わせてレヴィアスのドレスを着るか、それとも髪飾りをせずに両親のドレスを着るのか、の二択なのだ。
ドレスルームにて、トルソーに飾られた二つのドレスを真剣な顔で見比べるシュシュア。
一方は彼女の瞳と同じ紺碧のドレス生地で、その上からレース素材を重ね付けた海に住まう妖精のような雰囲気のものだ。もう一方は、薄紫と白の生地を裏表で縫い合わせた素材を何重にも重ねてボリュームを出したスカート部分が特徴のものだ。
どちらもシュシュアの雰囲気と良く合っている。
「……両親のやつにしようかな。」
レヴィアスのドレスを横目で見つつ、青色のドレスに手を伸ばしてそっと触れた。
(さすがに彼の色を纏うわけには…)
「本当にそれで宜しいのですか?ご自身の色のドレスなら今後お茶会など着ていく機会はありますが、紫のお色味は婚約者が決まっていない今しか着れませんよ。高位貴族を連想させるお色味ですからね。」
「それはそうだけど…」
「こんなに素敵なドレスを一生しまっておくつもりですか?…いえ、結婚相手が決まった暁には処分しないと相手方に失礼ですね。いつかは処分されるドレス…1度くらい袖を通して差し上げても宜しいのでは?」
「そうかもしれないけど…」
「明日は広告塔という立派な言い訳があるのでしょう?」
「…………たしかに」
エリクの理詰めに陥落したシュシュア。レヴィアスのドレスを選ばない理由が見当たらなかった。
「約束は果たしましたからね。そちらもお忘れなく。」
悩んだ末にレヴィアスのドレスに決めたシュシュアを見ながらエリクが一人呟いていた。




