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16.共謀


午後の授業は何も頭に入って来なかった。教科書を開いて体裁を保っているものの心ここに在らずで、死人のような青白い顔でただ席に座っているだけだ。

隣にいるミュイは、昼休み後から彼女の様子がおかしいことにとっくに気付いていたが、敢えて言及しなかった。


放課後、荷物をしまって帰り支度を始めたミュイに、シュシュアが眉を下げてひどく申し訳なさそうな顔を向けてきた。



「ミュイごめん、やっぱり今日は私…」

「行くわよ。」


ミュイは最後まで言わせなかった。勝手にシュシュアの鞄を持つと無理やり彼女の腕を取る。



「せっかく今日はその髪飾り付けているんだから、街中で見せびらかすわよ。」


強引だけどやっぱり何も聞いて来ないミュイに、シュシュアの冷え切って砕けそうだった心がじんわりと温かくなる。



「……うん、ありがとう。」

「どうせなら、似合うドレスに着替えましょうか。うちのドレスサロンに寄って行くわよ。」

「え」

「これから行くパンケーキ屋はカクテルドレスでも浮かない立派な内装だから問題ないわよ。むしろそのくらい洒落こまないと浮くわ。」

「は…?今から盛装させる気!?」


思っていたより大事になりそうだと思ったシュシュアだが、残念ながら彼女に拒否権は無かった。こうと決めたら動かないミュイについて行くしかなかったのだった。


ミュイの宣言通りドレスショップに連れて行かれたシュシュアは、何着も着せ替え人形をさせられた挙句、やっぱりこれが良いわと一番最初のドレスに決まった。


それは目にした瞬間、この中で最も華美で値が張りそうだと見ていたドレスだった。



「本当にこの姿で行くの…?」


最後の悪あがきでサロンから出ることを躊躇うシュシュア。



「とてもよく似合ってるわよ。自信持ちなさいって。」


自信満々に頷くミュイは自身の髪色に合わせて、赤茶色のサテン生地のドレスを来ている。裾には彼女の瞳と同じ金の刺繍が贅沢にほどこされており、こちらもかなり豪華な見た目だ。



「素敵なドレスだけれど…」


シュシュアのドレスはピンクの刺繍が入った淡い紫色のシフォン生地で出て来ており、ウエスト部分には幅の広いシルクのリボンが巻かれている。スクエア型の胸元にはアクセントにアメジストが散りばめられていた。



「ねぇ、ちょっと紫多くない?」

「文句は私に言われても困るわ。」


なぜ彼女が困るのか意味が分からないまま、ミュイに押し出される形で店の外に出たシュシュア。その瞬間、ひゅっと息を呑んだ。



「え…………いや、ちょっと待って。は?なんで…え?」


そこで待ち構えていた光景に、シュシュアが驚愕の表情で固まっていた。目の前の状況に脳の処理が追いつかず、ひどく混乱した頭のまま無意味に言葉を繰り返している。


その相手は張り詰めた空気を纏い、今から前線に赴くような険しい表情で待っていたが、シュシュアの挙動不審な様子にふっと笑みをこぼした。



「俺が無理を言ってシュシュとの時間を譲ってもらったんだ。ミュイ嬢、協力感謝する。」


控えめな微笑みを見せたのはレヴィアスだった。

仕事終わりなのか、彼も制服ではなくいつか目にしたスーツ姿だった。今日は従者は控えておらず彼一人だ。



「今回だけよ。販路の確保に尽力頂いたお返しだわ。次からは高く付くわよ。じゃあ私はこれで失礼するわね。」

「ちょっ、ミュイ…」


ひらひらと片手を振ったミュイは、いつの間にか迎えに来ていた自分の馬車に乗り帰って行ってしまった。ここでようやく、二人が共謀していたのだと気付いた。

今日出かけることは今朝決まったはずなのに、二人の段取りの良さに思わず遠い目になる。



「シュシュ、この前のことを忘れて今日は俺とデートして欲しい。」


そう言って真剣な表情をしたレヴィアスは、エスコートの腕を差し出した。その腕を凝視したまま凍りつくシュシュア。


彼の真意が分からず、行動を選べずにいる。本当は今すぐにでもここから逃げ出したかったが、馬車を呼ばないと帰りの足が無かった。



「帰りは家まで送るから。まさかその格好で学園に戻るわけにはいかないだろう?」

(痛いところを突かれた………)


言い当てられたシュシュアは、ぐうの音もでない。手口が卑怯だとつい恨めしく視線を投げてしまったが、返ってきたのは軽やかな笑い声だった。



「深く考えなくていいからさ。せっかくお洒落したんだから一緒に出掛けよう。俺にシュシュの隣を歩かせて欲しい。まぁ暗い顔をさせている元凶である俺が言うのも大変烏滸がましいんだけど。」


「レヴィアス様のせいではないです…私も昨日はひどいことを言いましたから…」


複雑な感情が込み上げ、シュシュアはどうして良いか分からず目を伏せた。



「ごめん、そんな顔をさせたいわけじゃなかったんだ。ほら、俺が3段重ねのパンケーキをたべたいってだけだからほんと。」


「絶対そんなわけないですよね。」


そう言いながらも見え透いた嘘をついてまで必死に誘ってくれるレヴィアスがおかしくて、やっぱり愛おしくて、シュシュアもつい笑顔になってしまう。



「やっと笑った。さぁ、行こう。」


レヴィアスは花が開いたように嬉しそうに笑うと、エスコートの代わりにふわりとシュシュアの手を掴んで半歩先を歩き出した。




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