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アンチ・エンジェル

作者: 月永ヒロト


とある村、今日この村に1人の赤子が産まれた。

産まれた赤子を取り囲む大人達。


「おぉ…本当に赤子だ…!」


「この子はワシらの繁栄の希望じゃ!よう産まれてきてくれた!」


皆が物珍しそうに赤子を覗き込む。


「皆さん、もう夜も更けてきました。この子にもゆっくりさせてあげたいですから今日はもうお帰りください」


病院…と呼ぶにはかなり小さな建物、そこに村中の人が集まっていた。医者である女性が皆へ帰るよう促す。


「一目見られただけでも十分だ、皆帰るぞ」


1人がそういうと皆ぞろぞろと帰っていく。赤子は両親の元へ帰され3人は眠りにつく。


「あなたは必ず私たちが守るからね…」


「あぁ、必ずだ。そして村の希望になってくれ」


この赤子は“イカロス”と名付けられこの村で成長していく…


◇◇◇


イカロス誕生から10年後ー


10歳となったイカロスは今日も元気に村を走り回っていた。母親譲りの綺麗な金髪に蒼い眼、サンダルをパタパタいわせいつもの場所へ向かっていた。


「おぅ!イカロス!今日も工房かい?」


「うん!ベルさんは?」


「鉱石堀りだよ、“魔鉄鋼まてっこう”のね」


「今度僕も連れて行ってよ!」


「お前にゃまだ早ぇよ!」


「ちぇ!」と言いながらイカロスは工房へ向かう。


「ゴールさーん!!」


名前を呼びながら工房の扉を叩く。

中からドスドスと歩いてくる音が聞こえる、それを聞いてイカロスは一歩引く、その瞬間扉がバーンと開いた。


「まぁた来たんかいっ!!」


「ゴールさんが僕の武器を作ってくれるまで来るよ!」


「ったく!あと5年は早いわ!」


「待てないよ!僕も“天使てんし”と戦う!」


「バカ言うない!!それにお前に武器渡したらフェルとルーシーに何言われるか!」


フェルとルーシー、イカロスの父と母である。


カーーン!カーーン!


その時、鐘が鳴る。


「この鐘!!」


「天使だ!イカロス!工房へ入れ!!」


イカロスは慌てて工房の中へ入る。

天使襲来を知らせる鐘、それがこの工房のすぐ近くで鳴り響く。


「ったく!近いぞ!この辺りに来る!」


次の瞬間、上空から2つの白い影が舞い降りる。


「天使だ…」


イカロスは工房の小窓から外を覗く。

天使…この村を襲う正体不明の生命体。基本的に白い装束に仮面を付け、肌が一切出ていない、そもそも服なのかどうかも不明。

だが、行動は一貫してこの村人を殺すこと…


2人の天使、1人は槍を持ち1人は短刀を両手に1本ずつ持っている。

それに対して村人も各々武器を持ち天使を取り囲む。

短刀を持った天使が動く、1人の村人を狙うがそれを他の村人が許さない。

天使の動きは機敏で跳躍力も人間のそれではない。短刀の天使が跳躍し飛びかかる、だが薙刀を持った村人はそれを的確に弾く、そして着地と同時に槍を持った村人が斬りかかる。その斬撃は天使の肩を掠めた。

天使は僅かに斬られた肩を押さえ後ずさる。見ると肩がジワジワと崩れていた。


イカロスはその様子に目を輝かせていた。

そしてあの武器、それの刃に使用されている天使特攻の鉱石、魔鉄鋼まてっこう。その魅力に取り憑かれていた。


槍を持った天使が突如槍を振り回し始めた、だが2人がかりで槍を止め、もう1人が天使の腹を突いた。

その瞬間、天使は崩れ落ち腹からボロボロと崩れていく。

短刀の天使はそれを見て、空へ跳躍した。上を見上げるともうそこに姿はなく撤退したようだった。


「すごい…!」


天使の襲来にもはや慣れている村人は並大抵ではなく、今のような弱い天使では怪我人すら出さずに対処できる。


「ゴールさん!」


「待て!まだ出るな、あの天使の処理がまだだ」


村人の1人が胸の辺りに剣を刺す。確実に天使の死亡が確認され、2人がかりで担いでどこかへ持って行った。

その瞬間、イカロスは工房から飛び出す。


「ゴールさん!やっぱり武器欲しいよ!」


「ったく、あれ見て怖がらねぇんだもんな」


イカロスは工房やその周りでひとしきり遊んだ後家へ帰る。


「ただいま!」


「イカロス、ゴールさんから連絡あったわよ。近くで天使が出たって」


「うん!みんなすごいかっこよかった!」


「そういうことじゃなくて…」


母・ルーシーは息子の能天気さに呆れる。


「ただいま」


「お父さん!おかえり!」


父・フェルが帰宅する。


「イカロス大丈夫だったか?天使が出ただろう」


「うん!平気!僕も早く戦えるようになりたい!」


「まだ早いよ」


と頭をくしゃくしゃと撫でる。


「最近増えたわよね…天使」


「あぁ」


「もしかして…」


「深く考えないで、昔も同じような時期があった」


「大丈夫!お父さんもお母さんも僕が守る!!」


両親はそれを見て目を見合わせる。


「そうだな、じゃあご飯にするか」


「うん!」


そうして父と母、村人に育てられながらイカロスは成長していく。

しかし2年後、ある事件が起こる…天使襲来により父・フェルが死亡する…


家の窓、カーテンの間から外を見るイカロス。

父を含め5人を殺した天使が立ち尽くしている、白い体は血で染まっているが、片腕が無く、体も所々崩れている。

そんな天使がイカロスの家の方を見る。イカロスはその仮面と目が合った気がした…するとその天使はこちらを指差す。イカロスはドキッとした、がその瞬間3人の村人によってその天使は滅多刺しにされた…


「はぁ…はぁ…」


指を差された、明らかに自分を、その事実に計り知れない恐怖がイカロスを襲った。


次の日、強大な天使により死亡者5名、負傷者3名と発表された。ゴールがイカロスの家を訪れる。


「ルーシー、イカロスはいるか?」


「えぇ…」


夫を失い、ルーシーはやつれていた。

そんなルーシーの肩にぽんと手を乗せたあと、ゴールはイカロスの前に膝をつく。


「イカロス、これをお前にやる」


ゴールは1本の短刀をイカロスへ手渡した。


「これは…」


「フェルの使っていた槍の刃を加工した短刀だ、これはお前が持っておけ」


「…ありがとう…ゴールさん…!!」


イカロスは短刀を握り締め泣いた。

そしてこの時、イカロスの中に天使への深い復讐心が芽生える。


ー3年後・イカロス15歳


イカロスはある計画を立てていた。

それは天使を殺すため、全ての天使を根絶やしにし村の平和を守るための計画。

天使はどこからやってくるのか、その根本を叩けば良いのではないかとイカロスは考えていた。だがそれは村人の誰も知らない。自分が確かめるしかないと、イカロスは動いていた。

そしてこの計画はあの3年前から始まっており、計画実行の日が近づいていた。


「最終確認だ」


イカロスは家を出る。


「お母さんちょっと出てくるよ」


「えぇ、気を付けてね」


ルーシーは一時期はやつれていたものの徐々に回復し普通の生活を送れるようにはなっていた。


イカロスは他の人の目に付かぬよう移動し、ある物を用意してあるところへ向かう。


「よし、今日も異常なし」


そこには自分で作った気球が隠されていた。

イカロスの計画とは、気球で空へ行き天使のいる場所を見つけることそして可能ならばそこで天使の根本を叩くことだった。


「もう、明日にでも実行しよう。早く行わなければまたいつ強い天使が来るか分からない」


次の日、イカロスは朝早く家を出る。

足速に気球の元へ行き火を点けた。上手く気球は膨らみ空へ行く準備が出来た。

イカロスはこっそりくすねておいた槍を乗せ気球に乗り込む。


「お父さん、必ず仇を取るから」


そう言って父の形見の短刀で気球を繋ぎ止めていたロープを切る。

みるみる空へ上がっていく気球。それに気づいた人々がこちらを見上げていた。


「みんな!必ず戻るから!僕が天使を殺してみせる!!」


イカロスは空を見上げ天を目指す。


◇◇◇


ゴールとルーシーが並ぶ。


「ルーシー、本当にこれで良かったのか」


「分からないわ、でもイカロスなら…だってイカロスは私達の最高傑作きぼうでしょ…?」


他の村人も、イカロスへ「頼んだぞ」と各々が言葉を漏らす…


◇◇◇


「だいぶ高くまで来たな…」


下を見てその高さを実感するイカロス。

ただ青い空と太陽それだけの世界、天使はどこから来るのだろう…と辺りを見回していたその時だった。


「ん?」


気球が止まる。上昇していた気球それ以上上へ行かない。


「???」


かと思うと今度は斜め上へ滑るように移動し始める。


「どうなってる??」


よく見るとまるで太陽へ吸い込まれるように気球が移動していく。


「太陽がすぐそこにある?」


太陽が近づく、だがイカロスが見たのは大きな穴だった。巨大な穴から光が差し込んでいる、太陽とは天体ではなく、空という天井に空いた穴だったのだ。


「なんだ…これ…」


気球はその穴へ入り上昇していく。


「眩しいっ!!」


その光は尋常ではなく、とても目を開けていられない。

イカロスは籠の影に隠れる。


「なんだ!どうなっているんだ!意味が分からない!!」


やがて光が弱くなっていく。

そして、穴を抜ける。イカロスは立ち上がるとその光景に顔をしかめる。


「なんだ…ここは…」


そこは、巨大な施設の中。何人もの人がイカロスの気球を見ている。気球が引っかかり止まる。


〈よく来たな、殺戮兵器よ〉


イカロスはスピーカーから呼びかけられる。


「なんだ!これは!声がしたぞ!」


〈よかった、言葉は分かるな?本来なら撃ち落とすところだが、今まで無かった事例だその勇気にここまで通してやった〉


「一体誰なんだ!天使か!!?」


〈はははははははっ!!俺たちはお前らの言う天使ではない、人間だよ〉


スピーカーからの声は続ける。


〈知りたいか?ここが何で、俺たちは何者でお前たちが何者なのか?〉


「僕は天使を根絶やしに来た!天使はどこだ!」


〈そうか!じゃあ聞け!聞けば分かる!そしてお前の判断を聞いてみたい!〉


「……分かった、聞こう」


イカロスの心は穏やかではなかった、だがあまりにも意味がわからない状況に、説明をすると言っているこの声へ耳を傾けるしかなかった。


〈まず、ここは“巨大地下プラント『鳥籠とりかご』管理施設・天界てんかい”だ!お前らの住む“鳥籠”の管理をしている。そして俺はここの所長・田神たがみという者だ、20年ここでお前らを観察していたよ。さて、お前が聞きたいのは天使とは何でお前らは何者かだが、端的に言えばお前らも天使も“兵器”だ。分かるか?戦争で使う道具だよ〉


「兵器…?」


〈戦闘用自立型生物兵器・通称“天使エンジェル”…それがお前らの名前だ。開発した国の人々を救う天使を目指して作られたからそう名付けたらしい…お前らは戦後、不要の殺戮兵器としてこの地下プラントにて幽閉し実験施設として管理されてきた。そして、お前らが“天使”と呼ぶこれ・・は〉


天井から今まで襲ってきていた天使が吊り下げられた状態で降りてくる。


〈対天使エンジェル用遠隔操作型人型兵器・通称“反・天使アンチ・エンジェル”…つまりは、お前ら天使エンジェルを狩るための兵器だ。これはこの場所から人間が遠隔操作にて操る、だが高度な感覚共有を実現させたがために反・天使アンチ・エンジェルが受けたダメージはそのまま操縦者に返ってくる、つまり下で死ねばここでも死ぬ…今までお前らに何人も殺されたよ…まぁ、操縦していたのは終身刑や死刑を言い渡された囚人だがなっ!奴らは天使を殺せば刑が軽くなるという言葉に釣られてきたモルモット、お陰で良いデータが取れているよ…〉


〈おっとここまで理解できたかな?要はお前たちは戦争のために作られた生物兵器、そして天使とはお前たち生物兵器を倒すために作られた兵器だ、どうかな?ドゥーユーアンダースタン?〉


「……じゃあ、つまりお前らが天使ってことだな!!ここにいる全員を殺す!!それが僕がここに来た理由だ!」


イカロスは槍を持ち、気球から降りようとする。


〈おっと、待て待て!俺たちを敵だとするにはまだ早い、この次を聞いてから判断してくれ〉


「なんだと!?お前の話だと、お前たちこそが天使の元凶じゃないか!!」


〈理解が早くて助かるよ、だが、もう一つ重要な話がある。何故お前は産まれたのか、何故生殖機能を持たない奴らから産まれることができたのか…最初に見つけた時は本当に驚いたよ〉


「何!?」


〈親からどういう教育をされた?子どもはコウノトリさんが運んでくるとでも言われたか?奴らはどうやっても増えないはずなんだよ。しかしながら奴らの脳は高性能、倒した反・天使アンチ・エンジェルを解析し、ボディを溶かす魔鉄鋼なんて物を創り出したりした…お前はどうやって産まれた?生憎カメラを設置しようものなら片っ端から壊されてね…予想では身体の僅かな人間の体組織からどうにかしたと思っているのだが…いやそんなことはもうどうでもよいか…つまりは、お前は俺たちへの復讐の道具として作られたんだよ〉


「復讐の道具…?」


イカロスは槍を握り締めわなわなと震える。


〈そうだ、奴らは皆全てを知った上でお前に何も教えず、今日この日を待っていたんだよ!お前は良いように育てられ使われた道具だ!〉


イカロスは気球を飛び降り施設内へ着地する。


「本望…!!!」


〈何…?〉


「僕のことはなんでもいい!僕はみんなを守るためにここに来た!お前らを駆逐するために来た!僕がここへ来るのがみんなの願いなら、たとえ知っていても僕はここへ来たぞ!!」


イカロスは飛び上がり、吊り下がっていた反・天使を切り裂いた。


「みんなの復讐は僕の復讐だ…必ず殺す!!」


〈所詮は何も知らねぇガキか…〉


田神がそう言ったのと同時に上階から何かが降ってくる。

ガシャァアン!!

とイカロスの前に着地したのは、黒い体に3mはあろうかという巨躯に角と尻尾の生えた人型のマシン…


〈対天使用遠隔操作型人型兵器“悪魔デビル”だ、ここ数年でようやくプロトタイプが完成してね。お前で実験しよう〉


「うおぉぉおおおお!!!」


イカロスは悪魔デビルへ向かっていく、だが…


「うぐっ…!!?」


悪魔の尻尾がギュンと伸びイカロスの右腕を貫いた…イカロスの視界の端に映る宙を舞う腕


「うわぁあああ!!」


イカロスはうずくまり腕を押さえる。


〈血は出ない、やはりお前も天使エンジェルであることは間違いないな〉


イカロスの脳が心が怒りに侵食されていく、視界が赤くなる。イカロスの綺麗な蒼い眼は真っ赤に染まっていた。


〈損傷がトリガーか!職員は全員防毒スーツを来て退避だ!こいつは奴らがもがれた“翼”を持っているぞ!!〉


天使エンジェルそれ即ち、翼を待つ神の使い。皆は幽閉される際に翼をもがれていた。だがイカロスは新たに産まれた天使エンジェル…その翼を有していた…

イカロスの背中から生える6つの翼、それは徐々に大きくなりまるでその真っ白な姿を見せつけるようにはためかせる。

ザクッ!とイカロスの肩に悪魔の尻尾が刺さる。だが、先程のように尻尾はそれ以上動かない。


〈っ…!!〉


尻尾を引き戻すと刺さった部分が崩れ、溶けていた。


〈なるほど、お前は奴らの最高傑作というわけか…!〉


イカロスは既に自我を失っていた。頭にあるのは“人間の駆逐”それだけだった。

イカロスは天井へ向かって飛ぶ。


〈まずい!外へ出る気か!?〉


それを追う悪魔、だが数秒後…悪魔の頭と体が別々に落下し、床に叩きつけられた…

イカロスは天井に到達、体を巡る猛毒で天井を溶かし上階へ上がる、それを繰り返しやがて地上へ出る…


その姿はすでに人間の姿のそれではなかった、毛は逆立ち、目は吊り上がり、その顔は怒りに歪んでいた。


咆哮…

その声は世界にこだまする。

真っ白なその翼は真っ青な空に消える…

彼が消えた後にヒラリヒラリと舞い落ちた羽…それはまるでからの憎悪を具現化したかのように触れた草花を腐らせていた…



読んでいただきありがとうございます!

初短編執筆でした。後半詰めすぎたかなと少し反省。

この作品はある日見た夢から着想を得た作品です、筆が乗ったので一気に書き上げました。

短編を書くのも楽しいですね、連載の合間にまた書こうと思います。

ではまたどこかで〜

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