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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第三章 三老五更の巻
17/50

名物エビフリャ?

 「あれがエビフリャかなあ」


 翌日街道を進んでいると、ようやくそれらしき物が見えてきた。

 高い柱の上に載っている。

 二つあった。狛犬(こまいぬ)のよう、に二体で一揃いのようだ。


 「カアクローが教えてくれれば確実なのに」


 「先に近くへ行って見物すると言っていた。お前は、まず買取屋を回るのだろう?」


 ピンピンが言う。上空は大小さまざまの鳥が飛び交っている。ヒチコックの映画ほどではないにしろ、飛べない俺には落ち着かない光景だ。


 「そうだった。早く換金して、食事しよう。さっきから、『あんこ』って気になるんだよね〜」


 「また無駄遣いを」


 立ち並ぶ家々の間に、店が増えてきた。茶店の看板に、『あんこ』とか、『ホコヤ名物』とある。俺の知るあんこは、小豆を砂糖と煮て潰した甘味だ。同じなら食べたい。


 「おっと。馬車が増えてきたな」


 馬車を避けようとしたパンダにぶつかりそうになったピンピンが身をかわす。

 ゴンゴンは、横道を覗き込む。


 「買取屋って裏の方にあるのかなあ」


 街道から枝分かれする道も結構広く、案内板がなければ迷いそうだ。ずっと上り坂で山の中の筈なのに、家が多くて木の方が少なく見えた。平屋ばかりではあるものの、都会の光景である。


 「県庁の近くへ行って見つからなければ、店で聞くといい」


 「そうだね。あんこも食べられるし」


 「あんこを食べなくても聞くことはできるぞ」


 いつの間にか、道路が倍の幅になっていた。店でもないのに、休憩所みたくパンダが溜まっている場所がある。

 道の中央は馬車が通り、店に近い端の方を徒歩の者が行く、というルールがあるようだ。


 荷馬車ばかりでなく、明らかに移動手段用の箱型貨車を引いた馬も結構いた。うち一つが、パンダ溜まりに停車した。

 中に入っていたパンダが降り、溜まっていたパンダが馬車へ乗り込む。馬車停留所だ。


 「すグッ」


 凄い、と口に出しかけ、慌てて軌道修正した。ピンピンが怪訝(けげん)そうに俺を見る。危ない危ない。


 「ソウもお腹すいたよね。僕も〜」


 ゴンゴンは脇道を覗き出した。今のところ、表通りに買取屋らしき店は見当たらない。

 行く手には例のエビフリャが(そび)えている。裏道へ入っても迷うことはなさそうだ。


 「あそこの店、良さそう」


 脇道へ入ったゴンゴンは、すたすた進んで行く。俺はワイヤに引っ張られ、ピンピンは、はぐれまいと後を追う。

 脇道と言っても、馬車がすれ違えるくらいの幅はある。表通りが規格外なのだ。こちらにも店が立ち並んで、パンダ通りが多かった。


 「ほら、あんこもある。こんにちは〜」


 入り口から想像したより店内は広く、その割に空いていた。

 ゴンゴンは俺を連れて入店しても良いか尋ねてから、隅の方へ席を占めた。


 人間連れだと断られることもあることを、すっかり忘れていた。中心街の動物通りの多さで、視線に鈍感になっていた。


 「まず、あんこを注文しないとね〜」


 ゴンゴンが自分用にあんこ、俺用にみかん盛りを注文する。ピンピンは普通に日替わりセット。

 店員は俺を一瞥しただけで、普通に接客を続けた。他の客も、一度は見るがそのあとは素知らぬ顔をする。

 ひょっとしたら、そういう礼儀なのか。都会的だ。


 「どうぞ。ご注文の品はお揃いですか?」


 作り置いているのか、あんこを含めて全部すぐに届いた。あんこの見た目は、記憶と同じ、()でて潰してある。


 「ソウも味見する?」


 間接接触を嫌がる俺を知るゴンゴンが、先に声をかけてくれる。カトラリーがないのでみかんの皮でつまみ取る。


 「う」


 旨い。いやもちろん、前の世界で食べた味には劣るのだけれど、基本生で食べるパンダの世界で、茹でて調味した料理が存在したことが奇跡だ。


 「気に入ったみたい。よかった〜」


 と言いつつほぼ一口で食べ切るゴンゴン。みかんが山盛りなのに比べて、量としては茶碗一杯分。確かに少ない。


 「あんこ、もう一つください」


 お代わりをした。そして、俺が残したみかんの皮も食べた。

 あんこは名物とあって、値段高めだ。お代わりまでした甲斐(かい)あって、店員から買取屋の場所を丁寧に教えてもらえた。やはり裏通りにあった。


 無事買取屋で換金した後、表通りまで戻ってエビフリャを目指す。近付くにつれ、徐々に形がはっきりしてきた。

 それは金色で、太陽光を反射し、きらきら輝いている。


 「着いた〜!」


 ホコヤ県庁前は、ちょっとした広場になっていた。一見して観光客とわかる小集団が、あちこち散らばっていた。

 そして黒塗りの太い柱のてっぺんに、どーんと載ったエビフリャ。


 尻尾まで全部金色の衣に覆われているけれども、何に似ているかといえばエビフライだ。

 ただエビフライを模して作ったのではなく、元々の何かが溶けた結果それっぽい形になった感じがした。

 例えば勾玉(まがたま)とか魚像とか。


 「真下まで行くよりも、少し離れた方がよく見える」


 ピンピンの言う通りだ。県庁へ近寄らない口実にも聞こえる。

 エビフリャの向こうに、ホコヤ県庁の建物があった。エビフリャの柱に、どでかい看板がついていた。

 県庁は総石造りの二階建てで、俺から見ても立派な建物だった。たくさんある窓から暖簾(のれん)かカーテンのようなものがひらひら動く。


 ()を使っているのだ。俺は密かに興奮する。とりあえず毛皮で一通り被服は揃ったものの、やはり布が欲しい。


 「あれ? エビフリャって、食べられるみたいだよ」


 ゴンゴンの視線を追うと、広場周辺に並ぶ屋台にたどり着いた。あんこ、果物、土産物、といった看板の中に、エビフリャ、とある。


 「おい、待て」


 ピンピンが止める隙もあらばこそ、目指す屋台にまっしぐらのゴンゴン。ワイヤで繋がる俺は、必然的に引っ張られた。

 結局全員でエビフリャの前に立つ。


 「いらっしゃい! ホコヤ名物エビフリャが、何と食べられるんだよっ」


 しかしエビフライは見当たらない。いや、誰もエビフリャがエビフライとは言っていないが。

 代わりに整然と並ぶのは、バナナだった。皮が黄色くなった物で、形といい、似てなくもない。


 「一つください」


 「まいどっ。二パーンね」


 「高っ」


 突っ込んだのはピンピンだ。俺も同感。バナナ一本で、外食二回分の値段なのだ。

 ただ、バナナはその辺に生えていなかった。日本でもかつてそうであったように、稀少品とも考えられる。

 問題は、躊躇いなく金を投じるゴンゴンだ。


 「このまま食べられるの?」


 「あいよ。頭からがぶりとやってくれ」


 「ありがとう。いただくね」


 その場でかぶりつかずに、店から離れる。広場の方へ戻り、柱の上のエビフリャにバナナをかざして見比べた。カメラがあれば、間違いなく写している。


 「そんなに使ったら、また金欠になるぞ」


 「だってエビフリャだよ。ここでしか食べられないんだよ。カアクローに自慢してやろうっと」


 つられて俺とピンピンも空を見上げた。地面に劣らず、空にも鳥影が舞っている。どれがカアクローか見分けがつかない。

 上空監視勤務時間内を良いことに、スルグのカラスが降りてくる様子はなかった。そもそも不在かもしれない。


 「ソウ、食べる?」


 俺は首を振った。バナナを皮ごと食べられない。かと言って、初見の果物をいきなり皮()くのも、怪しまれる気がした。それに、皮を剥けば、エビフリャとは似ても似つかなくなる。大枚はたいたゴンゴンに気の毒だ。


 「じゃ、僕だけ〜」


 ゴンゴンは店主に教わった通り、頭から皮ごとバナナを食い尽くした。


 「甘〜い。もう一本欲しいなあ」


 「やめとけ。長居は無用だ」


 ピンピンに引っ張られるようにして、俺たちは広場を後にした。

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