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カラパン 喋るパンダは着ぐるみではない  作者: 在江
第三章 三老五更の巻
13/50

六色戦隊パンダーズ

 ホコヤ領へ入ったからといって、すぐに襲撃を喰らうことはなかった。街道を近付いてきたパンダたちは、たまたま一列に見えただけで、ばらばらに俺たちとすれ違っていった。


 街道周辺の雑木林は徐々に減って、畑や民家がぼちぼち増えてきた。

 道を歩くパンダやその他の動物も、視界から途切れない程度に行き来している。


 地形的には平野が続いていて、歩きやすい。左手遠方に海があるはずだが、遠すぎて見えなかった。

 海辺は大抵、崖になっていて、海抜数百メートルにもなるのが普通らしい。

 宿に泊まる度に、少しずつゴンゴンから教わった。


 スルグでは野宿が多かったが、ホコヤでは畑で野宿などしたら捕縛されかねず、宿へ泊まることが増えていた。スルグ県庁の威光は通じず、観光客価格で出費が(かさ)む。自然、持ち金は目減りする。


 「オサカどころか、ホコヤまで持つかなあ」


 時折、ゴンゴンが財布を見ながら呟くようになっていた。換金資源の発掘品は、小さな宿場町では売る先がない。


 「買い食いが多すぎるからだ。名物なぞと銘打って売る物は、高いに決まっている」


 ピンピンが一刀両断する。確かに、ゴンゴンは珍しい物に弱い。

 スルグではその辺に生えている、大好物の笹が、ここでは見当たらないせいもある。虫や肉魚系の食べ物にはさほど興味を抱かない代わりに、果物や野菜系の看板に気付くと、とりあえず見に行く習慣がある。


 そして店員のセールストークに乗せられて、うかうか買ってしまうのだ。これでも半分以上は、ピンピンが止めている。


 「だってえ、初めて来たところだし、思い出が欲しいでしょ」


 「通り過ぎるだけの場所で、食べたら消える物に、思い出はいらん」


 それも言い過ぎとは思うが、出費が問題になるほどなのだから、致し方ない。どのみち俺は喋れないことになっている。

 夕方近くなると、カアクローが降りてくる。


 「ホコヤの中心に行ったら、エビ、エビリャ? を見なきゃいけないカア」


 この(カラス)も、ゴンゴンの出費に一役買っている。観光地やグルメ情報をやたらに吹き込むのだ。


 「エビリャ?」


 「なんでも、大きな魚みたいな形をしているらしい。嫁さんが、ホコヤへ行ったら、絶対見てきてって言ってたカア」


 「食べられるの?」


 「カア、それは言ってなかった」


 カアクローは喋っている間、ゴンゴンの頭に止まっている。爪がさぞかし痛かろうに、毎度のことで慣れてしまったようだ。もはやゴンゴンも、逐一(ちくいち)反応しない。


 「その見せ物なら、ホコヤ県庁の目の前だぞ。襲撃の危険に晒される」


 ピンピンが言う。オサカまでの道のりと、そこまでの地理情報が大体頭に入っているのだ。いちいち教えなかったのは、寄り道させないためだろう。


 「どうせ近くまで行くんだから、遠くから見えればいいんじゃないの。どのくらいの大きさ?」


 「カア? すごく大きいって聞いたカア」


 「じゃあ、目の前に行かなくても見えるね。大体、県庁の真ん前で観光客を襲撃するような危ないことは、ホコヤもしないでしょ」


 「普通に襲撃するとは限らないだろうに」


 ピンピンの懸念はもっともだ。だが、ゴンゴンもカアクローも気にしていなかった。



 小さな宿場町で泊まった翌日、街道を進んでいくと、看板が立っていた。


 『この先サカス 一キロペートル』


 キロペートル? 長さの単位らしい。キロが千の意味だったら、俺の感覚と同じで覚えやすいのだが。


 「次の宿近いねえ。通り過ぎて先へ泊まろう」


 「それがいい」


 珍しくピンピンがゴンゴンの意見に賛成する。幸いに天気も良い。時間が早いせいか、行き交う動物もまばらだ。

 カラフルパンダの集団が、視界に入ってきた。


 黄緑白、黄白、(だいだい)白、臙脂(えんじ)白、茶白、紫白と全員違う色合いで、そこそこ広い街道の道幅いっぱいに広がるようにして、こちらへ向かってやってくる。

 戦隊物の登場シーンを思わせるのが微笑ましいが、ここは公道で、俺たちが進む方向を(ふさ)ぐ形だ。


 「団体さんかなあ」


 ゴンゴンがのんびり言いながら、おもむろに道端へ寄った。ピンピンも端へ行く。

 俺も二体のパンダに挟まれる位置で端へ移動した。俺たちの後ろからこちらへ向かう犬猫コンビは、警戒心が強いのか、随分遠くで立ち止まって様子を窺っている。


 カラフルパンダ集団の列は、とうとう俺たちが待つ場所まで到達した。今度こそ、気のせいではない。


 「おおっとう、危ねえな。よく見て歩けよ、このサル」


 一番端にいた紫白パンダが、わざとらしくよろけてゴンゴンへ体当たりした。意外にもぶつかった方が跳ね返された。ゴンゴンは突っ立ったままだ。


 「お、本当にサルがいやがるぜ」


 「ここはパンダ様のお通りする道だ。サルどもはお呼びじゃねえよ」


 「姉ちゃん、可愛いじゃねえか。俺たちと一緒に来るなら遊んでやるぜ」


 「てめえ、ぶつかっておいて謝らねえとは、いい度胸じゃねえか」


 「詫びを入れろ、詫びを」


 あっという間にカラフルパンダに取り囲まれた。頭数では六対三。声を聞いた感じでは全員雄だ。色鮮やかな毛皮に囲まれて、辺りの気温が上がったように感じる。


 「これ、警告されていたやつかなあ?」


 ゴンゴンがのんびりとピンピンに尋ねる。一見ぼーっとしているようだが、無駄のない構えをしている。俺も武道経験者だから、できる奴は分かるのだ。


 「いや。違うだろう」


 ピンピンはそう答えつつも、油断がない。殺気すら感じて、味方の俺でさえ怖いと思う。

 一方でカラフルパンダ集団は、余裕をかました態度でいる。こちらが、例えば土下座するのを待っている感じ。


 「じゃあ、後攻なら問題ないね」


 「殺さないよう気をつけろ」


 「そりゃあ、君の方だろ」


 期待した反応が一向に得られず、カラフルパンダたちは苛立ち始めた。


 「何をごちゃごちゃ言ってやがる」


 「さっさと出すもの出せや、こら」


 「姉ちゃんは、こっちへこい」


 紫白パンダがゴンゴンの首へ手を伸ばすのと、黄白パンダがピンピンへ手を伸ばすのが同時だった。俺の両サイドが動いた。


 「うわっ」


 「ぐげえっ」


 (またた)きする間に、紫白パンダと黄白パンダが地面に()いつくばっていた。残った黄緑白、橙白、臙脂白、茶白が呆然とする。


 「そっちから手を出してきたんだからね〜」


 「私はお前たちと一緒に行く気はない」


 「てめえらっ。こっちが下手に出れば調子に乗りやがって」


 橙白が、焦りからか意味の通らない台詞を吐く。

 残るカラフルパンダは、仲間のパンダを踏まないよう、少し足を引いた。無理に助け出そうとして、俯いたところで襲われるのを警戒している。

 敵の目から視線を外さないのは本能からだ。


 「謝るなら今のうちだ」


 臙脂白の言葉に、ゴンゴンが小首を傾げる。こんな時でも、パンダだけに可愛らしく見える。


 「どうぞ。今謝ったら、うん。許してもいい、かな?」


 「ふざけるな。謝るのはてめえの方だろ」


 「え。何で?」


 「ふぎゅっ」


 ゴンゴンの足元で紫白パンダが(うめ)く。不毛な会話の横で、ピンピンは早くも黄白パンダを縛り上げていた。こちらは意識を失っている。


 それにしても縄を持ち歩いていたとは。仲間のパンダ集団も気付いて後退る。その後方に、いつの間にか集まってきた野次馬、いや野次犬猫鼠などが見物をしていた。カラフルパンダのせいで、通れないのだ。


 「あ、後で泣きついても許さねえからな」


 「後悔させてやるぜ」


 「変なサル連れ回しやがって」


 「やっちまえ」


 一斉に飛びかかってきた。ゴンゴンとピンピンにそれぞれ二体ずつ。俺には誰も来なかった。パンダじゃないから数に入らないようだ。


 ゴンゴンは紫白パンダを一発殴って気絶させた分、出遅れた。と言っても、気絶したパンダを仲間の前へ盾に持ち上げたので、ダメージは全部仲間同士で受けていた。


 ピンピンの動きは素早かった。パンダとは思えない身軽さで、黄白パンダを踏み台に飛び上がり、臙脂白に蹴りを入れつつ、勢いで橙白にも拳をぶち込んだ。


 ご丁寧に仲間意識で固まって動いたのが(あだ)になった。二体とも、土埃を上げて街道に倒れた。

 員数外の俺は、パンダの意識に上らないよう、じりじりと黄白パンダの方向へ移動する。


 ピンピンは後ろから黄緑白と茶白を攻撃しに行く。そちらの二体は、ゴンゴンを挟み撃ちにしようとして苦戦中だ。側にボロボロになった紫白パンダが転がっている。


 黄白パンダを縛る縄を観察。思った通り、切っていない。縄の余りを手近な橙白の縛りに使う。まだ余る。

 臙脂白が頭を振り振り起き上がる。手綱代わりのワイヤを飛ばしてぶん殴る。


 「いでっ」


 座ったまま半端に投げたせいで、威力が足りなかった。ゴンゴンとピンピンは黄緑白と茶白の相手だ。

 奴らも敵の実力を薄々感じ取り、しかし仲間を見捨てかねて間合いをとっている。臙脂白がこちらを向く。

 バレた。


 「こん()()がっ」


 ある意味正しい罵声と共に、突っ込んでくる。

 パンダは、如何に見た目がかわいくとも、熊だ。体重だって数百キログラムはある。

 俺は、相手がこちらを向いた時点で立ち上がり、バリア代わりにワイヤを振り回していた。端が鼻先を掠る。


 「うっ」


 「セエエエェィッ」

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