表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

8 第六階層


 今後の予定が決まり、退室したあとのこと。

 大量の資料を重く感じながらエレベーターへと向かう道すがら。


「トウカ。この後、時間あるか?」

「え? うん。暇だよ」

「よかった。ちょっと付き合ってくれ」


 エレベーターに乗り込み、馴染みのある一階へ。

 爪先を向けた方向にあるのは、冒険者専用のトレーニングルーム。

 見掛けはカラオケの個室程度の広さだけど、中は魔法で空間が拡張されている。

 作りも頑丈で魔法を放っても壊れず、仮に破損しても即座に修復される優れものだ。


「たぶん、トウカも同じだろうけど。俺、まともに魔法の練習をしたことがないんだ。いや出来たことがないってほうが正しいか」

「そう、だね。私も。すぐに体が冷えて練習を続けられなくなるからわかる」

「でも、今は違う」


 俺にはトウカが、トウカには俺がいる。


「初めてまともに魔法の練習ができる。試験まであと三日。二人でがんばろう」

「うん。私、がんばる。二人で試験に合格しよう」


 お互いに頷きあってトレーニングルームに火炎と冷気が舞う。

 体温の限界に近づけば互いに触れ合って平熱に戻し、過去に類を見ないほどの長時間練習が可能となった。基本的なことすら難しかった俺たちに、この貴重な時間は色んな学びをもたらし、あっと言うまに三日が過ぎた。


「確認よし。準備オーケー」

「私も確認終わったよ。必要なものは全部雑嚢鞄の中」

「必要な知識は?」

「頭の中!」

「よーし、いつでも行けるな」


 王伐隊への参加を賭けた試験当日。

 冒険者組合の上階に位置するフロアの中心、魔法陣の前で準備も気持ちも整った。


「おっとそうだ。配信の予告をSNSに上げとかないと」

「私はもうしたよ。凄い反響だった。ほら」

「おぉ、こりゃ凄い。有名人じゃん」

「カガリくんもね」


 配信予告を投稿すると一瞬にして物凄い数の反響が返ってくる。

 こんな速度で数字が増えていく様子なんて見たことない。


「のんびりしてやがるな。準備は出来たのか?」

「あぁ、いつでも行けるぜ」

「なら、速くしろ。見たいドラマがあんだよ」

「録画は?」

「リアルタイム視聴派なんだよ、俺は」


 そう言ってハバネは一足先に魔法陣の上に立ち、その姿を消した。


「このまま後に続かなかったらどうするんだろうな? あいつ」

「カガリくん?」

「言ってみただけだよ、言ってみただけ」


 トウカの咎めるような視線から目を逸らして魔法陣へ。


「私、迷惑掛けちゃうかも……ううん、掛けると思う。でも、頑張るから」

「あぁ、今回は俺に任せとけ。トウカの分まで頑張るから。その変わり」

「うん。この次は私がカガリくんを支えるから」

「よし、行こう」


 魔法陣が眩い光を放ち、その上に立つ俺たちを遠い場所へと運ぶ。

 次に気がついた時、身震いするような寒さに襲われる。

 魔法陣によって転移した先は木造のログハウス。

 煉瓦で作られた暖炉には柔らかな光を放つ炎が灯っていた。


「来たな。俺はお前らとはそれとなく距離を取ってついて行く。ドローンの画角に俺を入れるな。ちらりとでも映ったら出演料取るからな」

「気を付けるよ。俺も無駄金払いたくないしな」

「ケッ」


 ログハウスの扉に手を掛け、ガチャリと捻る。

 押し開けると冷たい空気と共に雪が舞い込み、カーペットに染みた。


「ここが第六階層……」

「雪原か」


 一面に広がる銀世界。

 天井には真っ白な花が無数に咲き乱れ、花粉のように雪を降らせている。

 身を切られるような寒さは、戦闘服に仕込んだ防寒着だけでは防ぎ切れない。

 トウカは大丈夫かと目をやれば、映った表情は険しいもの。


「平気か?」

「大丈夫、まだ」

「無理するなよ、辛くなったら頼ってくれ」

「うん、その時になったらお願い」


 現時点でもキツそうだ。

 俺も第九階層に挑戦する時は覚悟しないと。


「じゃあ、配信を始めようか」

よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ