7 試験
「おかしいなぁ。ちゃんと連絡はあったのに」
ハバネが口を噤んで直ぐ、新たな人物がこの部屋を訪れる。
俺たちより少し年上で眼鏡を掛けた女性。
彼女は戦闘服ではなくスーツを纏い、手には大量の資料を抱えている。
「どうしたんだい? 朱音」
「オトハさん聞いてくださいよ。例の二人が来ないんです。ちゃんと事前に連絡も来てたのに」
「あぁ、それならほら」
「ほら? ――あー!」
俺たちを指差して驚く朱音さん。
「よかった、ちゃんと来てたのね。でも、どうしてここに?」
「私が案内した」
「オトハさんが? あー、もう。だったら私に一言連絡くださいよ。無駄にフロアをうろちょろしちゃったじゃないですか」
「ごめんごめん。ちょっと先輩風を吹かせてみたかったのさ」
「もー。まぁ、いいです。あなたたちがカガリとトウカね。私は朱音、冒険者組合の社員よ。今日は都合が悪くてリュウジさんはいないけど、わからないことがあったら私になんでも聞いてちょうだい。はい、これが資料ね」
どんと大量の資料がテーブルに置かれ、その物量に圧倒される。
二人分にしたって量が多い。
試しに一番上の資料を二枚手に取り、片方をトウカに渡した。
「第十七階層の魔物?」
「こっちは第十一階層の魔物だよ。初めてみた」
「それはあなたたちに覚えてもらう魔物よ」
「これ全部を!?」
「何百も……」
「王伐隊はダンジョンの最前線で戦う精鋭たちよ。当然、この程度のことは頭に入れてもらわないと。それから本当に王伐隊に相応しい人材かどうか確かめるために試験も受けてもらうわ」
「試験?」
「そう。オトハさんにはその試験内容を決めてもらうために呼んだのよ。基本デスクワークの私たち社員じゃ、適当な試験は思いつかないから」
「なるほど……」
スカウトされたからといって、即採用とはいかないか。
「さて、どんな試験にしようか悩むわね。あなたたちは特殊な例だし、それに合わせたものにしないとだけど」
「第六と第九に行かせればいーんじゃないスか」
ハバネからの提案に、オトハさんは思案する素振りを見せてから不敵な笑みを浮かべる。
第六階層と第九階層ってたしか。
「いいじゃない、気に入った。第六階層の雪原と第九階層の火山、その両方の踏破。これをあなたたちへの試験とする。なにかあった時のためにハバネを付けましょう。それでいい?」
「火山……」
「雪原……」
たしかに試験としてはこの上ない選択だと思う。
俺は火山が、トウカは雪原が、致命的に不利な環境だ。
だが逆に言えばもう片方は環境的に有利に立ち回れる。
環境的有利不利すら真逆な俺たちが越えるべき壁としてこれほど相応しいものはない。
「無理だと思うなら素直に諦めたほうがいいぜ。俺もお前らのお守りをせずに済む」
ハバネの嫌味を聞き流して、トウカと視線を合わせる。
「どう思う?」
「私は……挑戦したい。冒険者になってやっと巡り会えたチャンスだもん。手を伸ばしてみたい」
「そうだな」
俺もトウカも、冒険者になりはすれど忍耐の日々を送って来た。
第一階層すら突破できない停滞した毎日が動き出したんだ、この足を止めることなんて今は考えられない。
「受けます、俺たち。その試験」
かくして俺たちの冒険者人生を賭けたと言っても過言ではない試験に挑むことになった。
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