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6 冒険者組合


「うわ……これマジかよ」


 トウカと出会い、魔法の真価を知り、リュウジさんにスカウトされてから数日。

 俺の口座には今まで見たことのない、目玉が飛び出るような金額が振り込まれていた。

 魔物数百匹分を二人で斃したのだから当然と言えば当然だけど、しかし預金通帳のゼロの数を一つ一つ本気で数える日が来るとは思わなかった。


「これだけあれば……おっと、予定に遅れる」


 一旦、通帳を仕舞い出かける準備を手早く済ませて外へ。


「貯まってた家賃も返せるし、当分喰うにも困らない。そう言えば外食なんて久しくしてないな。戦闘服も新調できる、靴も、普段着も。やばいな、欲しいモノが無限に出てくる」


 いつもちらりと見て心引かれては諦めていたモノが今は無理なく手に入る。

 バイトで初めて自ら金を稼いだ時のような、そんな懐かしい気持ちになってしまう。

 俺は大人だから欲望を制御しなきゃいけないんだけど、世間ってこんなに誘惑が多かったっけ?


「あ、カガリくん」

「よう、トウカ。待たせた」

「ううん、私もいま来たところ」


 そんな昔からよくあるやり取りをしたのは、冒険者組合の門前。

 リュウジさんの名刺を片手に受け付けを訪ねると、すぐにエレベーターに案内された。


「ぐんぐん上がってく」

「こんなに高い階にいくの初めて」

「一生縁がないと思ってたけど、人生なにが起こるかわからないな」


 基本、冒険者が利用する施設は一階に固まっていて二階以降に用事はない。

 そこから先は冒険者組合の社員か、一部の特別な冒険者だけに許された世界。

 エレベーターの上昇が止まり、重厚な扉が開く。

 俺たちを出迎えたのは広いフロアと行き交う人々だった。

 両サイドに儲けられた階段と、それから縁を沿うように伸びた通路。

 上下に分かれて規則正しく並ぶ部屋。

 中央には転移用の魔法陣が設けられ、人の出入りが頻繁に行われている。

 誰も彼も見たことがあって名前も言えるような有名な冒険者ばかり。


「私たち、本当にここにいて良いのかな?」

「場違い感は否めないけど、大丈夫。俺たちにはこれがある」


 リュウジさんの名刺はお守り代わり。


「おや、その名刺は」


 声を掛けてくれたのは壮年の女性だった。

 長い黒髪にどこか気怠げな眼差し、戦闘服は使い古され、口には煙草。

 それでいてどこか凛とした雰囲気を持っていて、日陰に咲く花のような人だった。


「オ、オトハ……さんだ」


 俺も名前くらいは聞いたことがある。

 リュウジさんと同じくダンジョンの最前線で戦う冒険者の一人。


「キミ達か。リュウジくんが言ってたのは。話は聞いてるよ、私はリンコ。どれ案内してあげよう」

「ありがとうございます」

「助かります、オトハさん」


 一応、事前に連絡は入れたんだけど、と思いつつ通りがかった彼女に道案内してもらう。

 通されたのは左の階段を上がって三つ目の部屋。

 ここには壁に飾られた大きなモニターを中心にソファーやテーブル、カーペット、ウォーターサーバーなどが設置されている。


「どうぞ、座って待ってな。すぐに人が集まるから」

「あ、はい」


 コの字型に置かれたソファーの一番端に座ったオトハさん。

 俺たちは顔を見合わせてオトハさんから一番遠い位置を選ぶ。

 それから何分が経っただろう、いい加減沈黙にも耐えかねていた頃、来訪者が現れる。


「あ? 見ない顔がいるな」


 リュウジさんやオトハさんとは違って、彼は俺たちとさほど歳が変わらなかった。

 金色に染めた髪、耳にピアス、鋭い目付き。

 服装が戦闘服でなければ、ファッションにもこだわりがあったはず。

 そんな彼の視線に射貫かれる。


「ほら、例の」

「リュウジさんがスカウトしてきたって奴か」


 彼が腰掛けたのはオトハさんと俺たちとの中間。


「お前ら、二人でやっと一人前なんだって?」

「あぁ、そうだ。そっちはあと何人必要なんだ?」

「あ?」

「止めな、ハバネ」


 何か言い返したそうにするも、オトハさんの言いつけには逆らえないのか、彼は口を噤んで乱暴に背もたれに身を預ける。

 ハバネって言ったか。聞いたことがある。

 最近、ダンジョンの最前線に初参加した冒険者の名前だ。

 話を聞いた時は素直に凄いと思ったものだけど、実際に会うと印象は最悪だった。

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